習得。目前。、
▶︎ リオン・リヴァイア
### 第二十二話
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滝の音は、今日も同じだ。
大きくて、うるさくて、
それなのに、ここにいると落ち着く。
小さいころから、ずっと聞いている音だから。
岩に座ったまま、リオンは滝壺の真ん中を見る。
兄は、そこにいる。
ただ、座っている。
四年。
兄が、ああなってから、もう四年が経つ。
最初のころは、毎日見に来ていた。
今は、たまにだ。
それでも、来るたびに思う。
――少し、違う。
何がどう違うのかは、分からない。
でも、前と同じではない。
「……」
名前を呼びかけそうになって、やめた。
兄は返事をしない。
父の足音が、後ろで止まる。
振り返らなくても分かる。
「父さん」
「どうした」
短い声。
それ以上でも、それ以下でもない。
「兄ちゃんさ」
言葉を探しながら、リオンは続ける。
「……ちゃんと、生きてるよね?」
自分でも、変な聞き方だと思った。
ヴァルドは、すぐには答えなかった。
滝を見る。
兄を見る。
それから、言った。
「生きている」
「ただし、
お前と同じ生き方ではない」
リオンは、黙った。
違う、ということだけは分かる。
でも、どう違うのかは、分からない。
「……兄ちゃんさ」
もう一度、口を開く。
「前より、遠くない?」
声が少しだけ、震えた。
ヴァルドは否定しなかった。
「遠くなった、というより」
少し考えてから、言い直す。
「深くなった」
「深く?」
「触れられない場所が、増えた」
リオンは、滝壺を見る。
兄は動かない。
それなのに、
ここにいないような気がする瞬間がある。
それが、嫌だった。
「……じゃあさ」
リオンは、無理やり明るく言った。
「終わったら、戻ってくる?」
ヴァルドは、答えなかった。
その沈黙で、十分だった。
「……そっか」
分かっていないのに、分かったふりをする。
それが、今の自分の限界だった。
風が吹く。
滝の飛沫が、ほんの一瞬だけ、
兄のまわりで変な形をした。
円でも、渦でもない。
ただ、流れが揃ったように見えた。
「……今の、見た?」
リオンは思わず言った。
「何をだ」
「え?」
「何を見た」
リオンは、言葉に詰まる。
見たはずなのに、説明できない。
「……分かんない」
正直に言った。
「でも、なんか……」
「変だった」
ヴァルドは、滝を見る。
そして、何も言わなかった。
否定もしない。
肯定もしない。
それが、少しだけ怖かった。
「……父さん」
「ん?」
「ぼくさ」
少しだけ、背伸びをして言う。
「兄ちゃんのこと、忘れないから」
ヴァルドは、初めてリオンを見た。
「忘れなくていい」
「だが、理解しようとしなくていい」
「今はな」
リオンは、兄を見る。
兄は、相変わらず動かない。
それでも――
確かに、何かが積もっている。
言葉じゃない。
力でもない。
でも、いつか必要になるもの。
その予感だけが、胸の奥に残った。
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