加護と。呪いと。
この作品のファン1号は私です。
▶︎ リオン・リヴァイア/ヴァルド・リヴァイアス
### 第二十一話(時を遡って)
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▶︎リオン・リヴァイア
滝の音は、いつも同じだった。
四年前も、今も。
速さも、重さも、変わらない。
変わったのは、そこに座る兄の時間だけだ。
リオンは岩に腰を下ろし、滝壺の中央を見つめていた。
兄は今日も、立ち上がらない。
「……父さん」
ヴァルドは答えず、滝を見ている。
「兄ちゃんのあれってさ」
言葉を探しながら、リオンは続けた。
「魔法じゃないよね」
「違う」
短く、断定。
「じゃあ、何?」
ヴァルドは少しだけ間を置いた。
「龍言だ」
「……どうやったら、使えるようになるの?」
その問いに、ヴァルドはすぐには答えなかった。
滝の音が、会話の隙間を埋める。
「一般的な話だ」
前置きしてから、ヴァルドは口を開いた。
「龍言は、まず水に身を置く」
「滝に打たれ、流れに逆らわず、
自分と水の境を溶かす」
リオンは黙って聞いている。
「そこで竜に会う者がいる」
「会えない者もいる」
「だが、会った者だけが言葉を授かる」
「言葉?」
「正確には、“在り方に合った音”だ」
リオンは首を傾げた。
「それって……覚えるもの?」
「違う」
ヴァルドは首を横に振る。
「選ばれるものでもない」
「自分で選び取るものだ」
「竜は力を与えない。
言葉を渡すだけだ」
「力は、その言葉をどう生きるかで決まる」
リオンは少し考えてから、聞いた。
「じゃあ、龍言って強いの?」
ヴァルドは、すぐには答えなかった。
代わりに、こう言った。
「龍言には、必ず二つある」
「作用と、反作用だ」
「作用は“加護”として現れる」
「守り、強め、助ける力だ」
「だが同時に、反作用が生まれる」
「呪いだ」
リオンの眉が、わずかに動く。
「呪い……?」
「代償と言い換えてもいい」
「力が大きいほど、支払うものも大きい」
「それは身体かもしれないし、
未来かもしれない」
「あるいは、生き方そのものだ」
リオンは滝壺を見た。
兄は、何もしていないように見える。
それなのに、どこか削れている。
「……父さんの龍言も?」
ヴァルドは、少しだけ目を伏せた。
「そうだ」
「私の龍言は、血を捧げる」
リオンが振り返る。
「血?」
「体外に出た、自分の血だけが条件だ」
「血を流した分だけ、身体は強くなる」
「筋も、骨も、反応もな」
「でも、それって……」
リオンは言葉を濁した。
「危ないでしょ」
「だから使いどころを選ぶ」
ヴァルドは淡々と言う。
「私は血で選ばれる力が嫌いだ」
「生まれや系譜で強さが決まる世界は、歪む」
「だから私は、血を“支払うもの”にした」
「持っていることではなく、
差し出すことに意味を持たせた」
リオンは、しばらく黙っていた。
「じゃあ……兄ちゃんの龍言は?」
その問いに、ヴァルドは首を横に振った。
「知らない」
「竜が授けた言葉は、本人しか分からない」
「外から見えるのは、
加護の片鱗と、呪いの兆しだけだ」
「内容を知ろうとするのは、野暮だ」
リオンは、兄を見る。
滝の中心で、兄は今日も動かない。
「……でもさ」
小さく、震える声で言った。
「呪いがあるなら、
使わなきゃいいのに」
ヴァルドは、滝から目を離さなかった。
「使わない選択もある」
「だが、一度“在り方”として定まった言葉は、
もう戻らない」
「それが龍言だ」
リオンは拳を握る。
「兄ちゃん……」
ヴァルドは静かに言った。
「まだ、何も終わっていない」
「四年だ」
「龍言の習得には、それくらいかかる」
「早くはない」
「だが、遅くもない」
滝は今日も落ちている。
兄は、まだ立ち上がらない。
だが――
この会話の意味を、
リオンが本当に理解するのは、
もう少し先の話になる。
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