修行の。始まり。
### 第十七話
---
▶︎ リオン・リヴァイア
目を覚ましたとき、兄はいなかった。
焚き火は消えている。熾火の痕だけが黒く残り、昨夜の熱を思い出させるように地面がまだあたたかい。滝の音は変わらない。近くも遠くもなっていない。
リオンは身体を起こし、無意識に兄の名を呼びかけそうになってやめた。
少し離れた場所に父が立っている。こちらを見ていない。滝の方角を向いたまま、微動だにしない。
「……お兄ちゃんの修行、始まったの?」
「ああ。さっきな」
それだけだった。
兄は、もう滝にいる。
リオンは岩に腰を下ろし、視線を滝へ向ける。
大量の水が落ち、砕け、霧となる。その中心に兄がいる。毎秒どれほどの水量なのか分からない激流を一身に受け、兄の青とも翠とも言える鱗が光を反射し、虹色に輝いている。
昨日と同じ音。だが、景色はまるで違う。
理由はわからないが胸の奥がざわついた。
それは尊敬や誇りとは少し違う。美しく威厳に満ちた兄の姿に胸を打たれているのでもない。
もっと、言葉にしづらいもの。
取り返しのつかない場所へ、兄が踏み込んだ気配だった。
---
▶︎ レオン・リヴァイアス
気持ちいい。
それが、最初の感覚だった。
滝壺にある一段と大きな岩の上で、レオンは坐禅を組んでいる。水に打たれている。だが、痛みはない。息も苦しくない。
水は水龍にとって敵ではない。
母なる大地というならば、父なる海とでも呼ぶべき存在。そう呼ぶにふさわしいほど、水は完全な味方だった。
レオンは目を閉じている。
考えようとはしていない。
水が肩を叩き、背を押し、意識を深く沈めていく。それを拒まない。ただ、受け入れる。
時間の感覚が曖昧になる。
どれほど経ったのか分からない。
龍族の祖は、エルフと人化したドラゴンの子孫だ。食事を数日、時には数年取らずとも生きられる身体を持つ。
瞑想を始めてから一分しか経っていないようにも感じるし、何年もこうしているようにも思える。
……。
………。
………………。
ふと暗闇の中に、一筋の光が灯る。
その光は次第に大きくなり、やがて一つの風景へと変わった。
蘇る。
弟のこと。
リオンではない弟。
この世にはもういない、最初の弟。
名前を呼んでも、返事はなかった。あの日も、そうだった。
——大丈夫だ。
——俺がいる。
その判断を、後悔していないわけではない。
だが、取り消したいとも思わない。
あの出来事があったから、今の自分がある。
呼べば、守れた命。
その事実を、胸の奥に静かに置く。
水が頭を叩く。
音が、音でなくなる。
境目が溶ける。
自分と水の区別が、薄れていく。
レオンは、そこに留まる。
竜は現れない。
声も聞こえない。
拒絶も、肯定もない。
それでいい。
欲しがらない。
与えられないことを、失敗と呼ばない。
滝は、ただ流れている。
そして自分も、ただそこに在る。
いいねとお気に入りって機能はあるのかな?
あれば多分それが評価基準になるので是非お願いします!
ちなみに尊敬しいて大好きななろう系小説は無職転生です。3期が待ち遠しすぎます。




