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父の気持ち。父の覚悟。

▶︎ ヴァルド・リヴァイアス


### 第十六話


---


夜は、完全に寝静まっていた。


焚き火はすでに熾火になり、赤い光だけがわずかに残っている。森は動かず、風もない。聞こえるのは、龍泉の滝の音だけだった。


あの音は、変わらない。


強くもならず、弱くもならず、慰めることも、拒むこともない。ただ、そこに在り続ける。


私はその音を背に、二人の寝姿を見る。


レオンは横向きに眠っている。眠りは浅い。呼吸は整っているが、意識はすぐに戻れる。あれは眠っているというより、身体を休めているだけだ。


リオンは丸くなっている。小さな尾が無意識に揺れ、時折、眉が動く。夢を見ているのだろう。


……こうして並ぶと、思い出してしまう。


もう一人、ここにいたはずの子を。


リオンが生まれる前、レオンのすぐ下にいた子だ。


リオンは、その兄に会ったことがない。


当然だ。会わせられるはずがない。


あの子は、まだ剣も持てなかった。まだ槍も振れなかった。まだ魔法の才もわからなかった。だが、それは理由ではない。


死んだ理由は力ではない。




あの日、レオンは弟を連れて森へ入った。危険な場所ではなかった。村のすぐ外、子どもが行くことを禁じられている場所でもない。


だから、レオンは事件が起きたときすぐ私を呼ばなかった。


父である私を。


ほんの一瞬の油断。ほんの一歩の遅れ。


弟は転び、十三m下の木の根に頭を打った。


ただ、それだけだ。


ただ、運が悪かった。


ただ…ただ……。


そして、ただ、判断を誤った。




誰もレオンを責めなかった。


私も、エリシアも。


それが、あいつを最も縛った。


レオンは泣かなかった。取り乱さなかった。声を荒げることもなかった。


ただ言った。


「俺が、守るはずだった」


あの言葉を、私は訂正しなかった。


違う、とも言わなかった。いや、言えなかった。


あの決意に満ちた眼を、覚悟の決まった眼を、竜の眼をしたレオンを前に、そんな陳腐な言葉は慰めにはならないと悟ったからである。




父としての役目は、確かに私にあった。だが、あの瞬間、あいつはすでに一歩前に出ていた。


自分で引き受ける側に。弟の死を背負う覚悟を。


それが、レオンという子の性質だ。




強いからではない。


特別な血を引いているからでもない。


間違えたと理解しても他人に委ねない。


呼ばなかったことを、悔いるのではなく、背負う。


それが、あいつのやり方だ。




私は焚き火に小枝を足す。火が小さく音を立て、また静まる。




ふとエリシアの顔が浮かぶ。


エリシアは何も言わない。


龍泉へ行くと告げたときも、止めなかった。ただ、目を伏せて「気をつけて」と言っただけだ。


理由は分かっている。


ここに来られない理由も。


龍泉の村は、血を尊ぶ。


龍族純潔と純潔。

龍族純潔とエルフ純潔。

龍族純潔と、人に化けたドラゴン。


それ以外は、住めない。


正統継承などと呼ばれているが、ただの線引きだ。


エリシアはエルフの純潔だ。だから、村に属する資格はある。




それでも、龍泉には入れない。


水龍の系譜でなければ、泉には触れられない。近づくことすら許可されていない。泉は万物を拒むことなどあり得ないというのに……。


ここでも血だ。




水龍が龍言を習得するには龍泉の滝で修行するしかない。しかし、龍泉の滝は一つしかない。修行ができる者も一人しか許可されていない。だから、我々龍泉の村の民が優先される。


ここでも、血だ。




エリシアは、そんな我々の事情を理解している。


理解した上で、何も言わない。


私は、だからこそエリシアを妻にした。


血のためではない。


強さの形が、私とは違ったからだ。


血のためではない。


結果的に龍泉の村の慣習にならうかのように、純潔のエルフと結婚してしまった自分を正当化するかのように言い聞かせる。




焚き火がまた静かに爆ぜる。




神木の守り(もりびと)


村の頂に立ち、神木に選ばれ、特別な力を与えられ、その代償に永遠に村を守る存在。


力の代償は村を出られない。一生だ。




あれは栄誉ではない。血の鎖だ。


私は、息子たちにあれを背負わせたくない。


レオンにも。

リオンにも。


だが近い将来。そう遠くない未来に神木の守り龍は代わる。そんな予感がしてたまらない。




私は二人の寝顔を、もう一度だけ見る。


「リオンは俺が守る…か。」


ヴァルドは息子レオン・リヴァイアスの口癖を口ずさみ、レオンの決意に重ねるように2人の幸福を祈った。


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