兄弟。絆。
▶︎レオン・リヴァイアス
### 第十一話
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長老との話を終えると、
街の音が、少しだけ遠く感じられた。
「兄ちゃん、どうしたの?」
隣を歩くリオンが、不思議そうに顔を見上げる。
「歩くの、遅いよ」
「……考え事だ」
「また?」
「そうだ」
それ以上は言わなかった。
長老の言葉は、
重かったが、不思議と恐怖はなかった。
魔王は昔からいる。
災厄も、神木も、世界樹も。
――ただ、今は揺れている。
それだけの話だ。
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「ねえ兄ちゃん」
石を蹴りながら、リオンが言う。
「さっきのおじいちゃん、すごく長生きなんでしょ?」
「ああ」
「何歳?」
「数えきれん」
「へえ、すっごい生きてるんだね!」
少し考えてから、リオンは言った。
「じゃあ、兄ちゃんもああなる?」
「……なるかもしれん」
「僕は?」
「さあな」
リオンは満足そうに笑った。
「じゃあ一緒だね」
レオンは、何も返さなかった。
否定する理由も、肯定する理由もなかった。
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二人は街の中心を外れ、
鍛冶場へ向かう。
石と鉄の匂いが、空気を満たしていた。
「……レンキンさん」
声をかけると、
炉の前にいたドワーフが、短く振り返る。
「(来たか)」
壁際に立てかけられていた一本の槍を、
レンキンは無言で差し出した。
三叉槍。
レオンの愛刀。
刃は鈍く光り、
柄はわずかに色を深めている。
「……」
レオンは受け取り、
重さを確かめるように、軽く振った。
空気を切る音が、以前よりも澄んでいる。
「芯を入れ直した。
(水の流れに合わせてな)」
「助かる」
「刃は触るな。」
「分かってる」
短いやり取りで、用は済んだ。
その横で、
リオンが槍をじっと見つめている。
「兄ちゃんの槍、かっこいいね」
「重いぞ」
「持ってみたい!」
「……柄だけだ」
「やった!」
リオンは嬉しそうに、
柄の端をそっと掴んだ。
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鍛冶場を出ると、
川沿いの道に出る。
水の音が、戻ってくる。
レオンは無意識に、
水の流れに歩幅を合わせていた。
「兄ちゃん」
「今度はなんだ」
「帰ったらさ、槍の手入れ手伝っていい?」
「……刃に触るなよ」
「えー」
「柄までだ」
「はーい」
それだけで、話は終わる。
守るべきものが増えたわけではない。
失われたものもまだない。
「(リオンだけは絶対に守る)」
世界は、昨日と同じ顔をしている。
レオンは歩きながら、
長老の言葉を思い出し、
そして意識的に、脇へ置いた。
今は――
弟が隣にいる。
それで、十分だった。
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