6話
百合です!
「ゆずちゃん!」
私は背後からの声に立ち止まり振り返る。
そこには肩まで伸びた髪を暴れさせながら走ってくる澄香ちゃんがいた。
「何?」
私は前を向き直し冷たく言い放つ。
澄香ちゃんは私の正面に移動してきて軽い口調で言ってくる。
「ごめんよ〜」
「時間を守れない人とは一緒に行かない」
私がそう言うと、すみかちゃんの目から頬に水滴がつたう。
「ごめんね、ごめんね。もう遅れないから一緒に学校行って」
澄香ちゃんは震えた声で謝ってくる。
私はため息を吐き澄香ちゃんを避けて歩き出す。
「はー。もう遅れないでね」
「うん!」
澄香ちゃんは先程の涙は何処へやら元気よく返事をして私の隣についてきた。
私はこれで5回目のごめんねを受け入れる。
「ゆず!」
お母さんの声で私は目を覚ます。
「着いたわよ」
私は目を擦りながら車の窓越しに見える建物で何処に着いたのかを気付く。
温泉だ。
葬式終わり、お母さんが親戚の人と話が盛り上り、いつの間にか温泉に行こうという話まで発展していた。
(正直に言うと面倒くさいし嫌だ。誰が好き好んで、知らない人に裸を見せないといけないのか)
そんな事を考えていると目の前のドアが開く。
「早く降りなさい」
お母さんの催促に私は渋々と車から降りる。
不意に空を見上げると黒い雲がオレンジ色の空に広がっていた。
私は縦に半分に折られたタオルを片腕で胸元に当て体を隠す、横開きの扉を片手で開く。
温かい熱気を体で感じながら湯気の広がる室内へと足を運ぶ。
ペタペタと足し音が鳴る。
私は少しの違和感を感じながらも前へと進む。
辺りを見渡すと昼で学校が終わるからなのか、小さな子供が多少いる。
私は色で分かる冷たそうな湯船を通り過ぎ、誰も入っていない真っ白な湯船で足を止める。
私は銀の手すりにタオルをかけてその場で屈み木製の洗面器を手に取る。
そのまま白い湯をすくい上げ冷たくなった自身の足に湯を掛けて、白色の湯に足から入れる。
お湯の熱さは先程慣れたのですんなりと受け入れられる。
足が地面につくと、私はゆっくりと肩下までを浸からせ、素早く端に移動する。
壁に背中をつけ、体操座りをする。
瞬間、隣の湯船から見知った人の声が聞こえた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
「澄香…」
隣の湯を見てみると、ジェットバスを背中に受け、胸を揺らしながらリラックスをしている澄香がいた。
私が見ていると、澄香に知らないおばさんが話しかけ、そのおばさんは澄香の隣に座りジェットバスに揺らされている。
「うっ」
私は自身のほぼ平らな胸を触り、嫌な気持ちとイライラが私を襲う。
私が暫くの間、澄香を黙って睨んでいると、澄香と目が合った。
澄香は隣のおばさんに手を振り膝立ちでこちらに寄ってくる。
澄香の顔は湯が熱いのか少し赤い。
澄香はお風呂の敷地に腕を置き、私に話しかけてくる。
「や、やあまたまた会ったね」
「そうだね」
私は澄香の胸元を睨みながら返す。
「あの〜」
澄香は胸元を隠し、先程よりも顔を赤くしている、気がする。
「そんなに見られても……」
「ごめん」
私は後退りして、向こう側の壁に移す。
「あ、いや、大丈夫…」
澄香は顔を伏せ、口をモゴモゴしている。
「どうしたの?」
「えっ、いや〜、えっと」
澄香は顔を上げ、胸元から手を外しカタコトな声で言ってきた。
「触って、みたいのかな〜てっ」
「えっ!?」
私は澄香の言ったことに戸惑いながらも、ほかの人に聞かれていないかと周りを見渡す。
誰もこちらを重視していない事に安堵し、澄香を睨み、小声で言う。
「何言ってんの?触りたいわけないでしょ」
「あっ、うん…ごめんね」
(いや、触ってはみたいかも。ちがう!あーも)
「私、体洗ってくる!」
私は自身の変な思考に慌てて立ち上がる。
「わ、私も!」
「あ、いや」
私は澄香に断りを入れようとするが言葉が見つからずに静止する。
「行かないの?」
いつの間にか澄香は私が入っていた湯船の前に立ち、首を傾げている。
そんな澄香に苛立ち澄香の顔を睨みながら立ち上がる。
「行く」
私は腕につけている時計を見る。
「また遅れたの」
私は呟きながら澄香ちゃんを待たずに先に通学路に足を進める。
その日、澄香ちゃんは私に追いついてくることはなかった。
卒業式、私はいつもの待ち合わせ場所で澄香ちゃんを待つ。
「おはよう」
女の子の声が私の耳に入ってきた。
私は期待を弾ませ振り返る。
そこには5年3組と書かれた名札をつけた茶髪の女の子だった。
「おはよ」
私はいつも通り心を殺し、挨拶をする。
「行こっか」
「はい!」
女の子は元気よく返事をして、歩き出す私の隣についてくる。
その日も、澄香ちゃんは追いついてこない。
読んでくださりありがとうございます。
面白いと思ったらいいねやコメントをしてくれるとモチベに繋がります。




