8話
百合。です!
(なんで逃げるんだ)
私は従姉妹の希叶と別れ、澄香の後を追っている。 キキョウ
だが私が速度を上げると澄香は速度を上げる。
(イライラする。聞きたいことがあるのに)
私が澄香を睨みながら歩いていると、澄香は外に繋がる扉を開け外に出ていく。
「マジで…」
(寒いの嫌なんだけど)
そんな事を考えながら、左を見る。
そこには大きなガラスがあり外が見える。
外は暗くテレビの光が湯船に肩までつかる数人の人を照らしていた。
「はー」
私は大きなため息を吐き、今閉まった扉に手をかける。
扉を開けると同時に左に見える扉が閉まっていく。
その扉越しに見える澄香は気にしながらゆっくりと歩いている。
私は閉まりかけの扉を止めようとしたが思ったより重く、少し倒れそうになる。
私が体制を正し、扉を開けた時には澄香はゴツゴツとした岩に囲まれた手前の湯船に浸かっていた。
私は澄香の後ろに駆け寄り、澄香の背中に投げかける。
「澄香、隣座る」
私の言葉は何故か片言になってしまっている。
(なぜ緊張しているの!私)
「うん」
(なんでそんな恥ずかしそうな返しなの!いつものハイテンション返事しゃないの!)
澄香のいつもと違う返事に戸惑いながらも、私はタオルを大きな岩の上に置き、ゆっくりと澄香の隣に座る。
橋を伸ばすが下半身が澄香に見られないように右足を立てる。
私は段差を背もたれにして落ち着く。
私が小学生の時の話をどうやって聞くかを悩んでいると、隣から澄香の呆けた声が聞こえてきた。
「好き」
「ん?」
私は澄香の方を反射的に振り向いた。
そこには澄香が体を私の方につき出し、赤く火照った頬でトロリとした目で私を見つめる澄香がいた。
「す、澄香ー?」
私が呼び掛けると澄香はビクリと体を揺らし、直ぐにそっぽを向いてしまう。
(私を見て、私を好きって言ったてことだよねさっきの)
正面から好きと言われることはあまり無いので少し戸惑い、体が熱くなる。
いきなり澄香はこちらに顔を向け慌ただしく聞いてくる。
「ああの、それで何かあるの?」
「え?」
私はさっきの情報でショートした頭を無理やり動かし、話そうとする。
「えっと、小学」
途端、希叶の大きな声が聞こえた。
「ここにいたかー」
澄香はその声のほうに顔を向ける。
だが直ぐに澄香は顔をうつむかせる。
「おっ、さっきの娘!友達だったの?」
「うん」
私は駆け寄ってくる希叶に視線をやる。
希叶はタオルを持たず、割れたお腹と私のも何倍もデカい胸を上下に揺らし寄ってくる。
希叶は澄香の後ろにガニ股で座り、澄香の顔を覗き見ようとする。
「あっ、そうそう」
希叶は何かを思い出したように呟いて、私の顔を見て話し始める。
「私たぶんそっちの方に引っ越すことになった」
「えっ。なんでまた」
希叶の言葉に私は驚き聞き返す。
希叶は私の後ろを通り私の左に座り説明を始める。
「なんかね。うちの弟、ヒカルが、変死で、死んで、母ちゃんがね、この家にいたくないって」
希叶は軽い口調で話しているが目を潤ませている。
「そう」
私はそう呟いて希叶の背中を撫でる。
ポツリと水音がした瞬間、希叶が潜った。
「ばあ!」
15秒ぐらい経つと足の先から希叶が出てきた。
隣でビクリと湯が揺れるのを感じる。
「大丈夫?」
私は体を前に起こし、手を希叶のほうに伸ばす。
「大丈夫、大丈夫。お通夜の前日泣いたしー」
と、私から聞いたら大丈夫そうじゃない声が聞こえてくる。
「ちょっと暑くなってきた。あたし、あがるねー」
希叶は手をパタパタさせて立ち上がる。
希叶が私の後ろを過ぎ去り、澄香の後ろを通り過ぎる。
私が何も言えないまま希叶の後ろ姿を眺めていると、手前の澄香が立ち上がる。
「あ、あの希叶さん!」
希叶は澄香の声で立ち止まり振り向く。
「えっ!」
私は澄香の行動に驚き、湯から手を出して澄香の片足を両手でつかむ。
「ひっ」
そんな声が頭上から聞こえる。
私が上を向くと、耳まで真っ赤な澄香の顔が私を見下ろしていた。
「ごめん」
私はその澄香の顔に申し訳なさを感じて手を離す。
澄香は赤面の顔のまま顔を希叶に向け、話し始める。
「自分の、気持ちは、親に、言っておいたほうがいいですよ。それと」
「くふっ、わかった。くくくくっ」
澄香が次を話そうとした時、希叶が笑いを吹き出した。
「なんで…」
澄香が落ち込み気味な言葉を発すが希叶は笑いをこらえた声で言う。
「いや、だってそんな真っ赤な顔で、っ」
希叶の笑いが収まった後、希叶は真剣な声で話し始める。
「わかった。土地売りたくないって言っとくわ!それと、またね」
希叶はそう言って手を振り、室内に入っていく。
それを見て澄香は崩れ落ちるように座り、髪が湯につくのもお構いなしに鼻まで湯につかる。
私は先程の事を思い出し呟く。
「澄香がここまで大胆だったとは」
希叶が室内に入って少し経った頃、雨が振り出してきた事に私達は室内に移動する事になった。
私が扉を開け中に入ると、澄香と希叶の声が聞こえた。
「あっ」
「えっ」
澄香は右を見て立ち止まっている。
私は澄香の目線を追うと、希叶が透明な湯に頭だけ出し、体を大の字に広げていた。
希叶は頭をかき、言う。
「いやーかっこ良い退場したのに、ここで会うとは…。ははは」
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