再会
翌日の夕方。
バイトが終わり、コンビニを出ると、スマホに通知が来ていた。
陽菜からのLINEだ。
『蒼太、今週の土曜日空いてる?』
土曜日。特に予定はない。
『空いてるけど、どうかした?』
すぐに返信が来た。
『良かった! じゃあ、一緒にご飯行かない? お礼がしたいの』
昨日の相談の件か。
断る理由もない。
『いいよ。どこで会う?』
『渋谷はどう? お昼くらいに』
『了解。じゃあ土曜日ね』
約束が決まった。
陽菜とのデート……いや、これはデートじゃないか。
ただの食事だ。
でも、なぜか少しドキドキする。
幼馴染だから、今まで異性として意識したことはなかった。
でも、今は違う。
彼女の好感度が75もある。
明らかに、友人以上の感情を持ち始めている。
俺も、彼女を意識し始めている。
これは……どうなるんだろう。
* * *
土曜日。
俺は少し早めに渋谷駅に到着した。
待ち合わせ場所は、ハチ公前。
人が多い。
休日の渋谷は、いつも賑やかだ。
スマホで時間を確認する。11時50分。
約束の時間まで、あと10分。
周囲を見回していると、視線を感じる。
振り返ると、女子高生のグループがこっちを見て、ひそひそ話をしていた。
魅力82の効果で、街を歩いているだけでも注目を集める。
最初は恥ずかしかったが、最近は慣れてきた。
むしろ、少し優越感すら感じる。
「蒼太!」
声がして、振り返る。
陽菜が手を振りながら、こっちに歩いてきた。
彼女は今日、白いワンピースを着ていた。
いつもはカジュアルな服装が多いが、今日は少しおしゃれをしている。
髪も巻いていて、メイクも丁寧だ。
可愛い。
素直にそう思った。
「待った?」
「いや、俺も今来たところ」
「良かった。じゃあ、行こっか」
陽菜が笑顔で言う。
俺たちは、渋谷の街を歩き始めた。
* * *
陽菜が選んだのは、イタリアンレストランだった。
おしゃれな店内に、カップルや女性グループが多い。
席に着き、メニューを見る。
「何にする?」
「うーん、パスタかな。蒼太は?」
「俺もパスタにしようかな」
注文を済ませ、二人で話し始める。
「そういえば、サークルの件、どうなった?」
俺が聞くと、陽菜は嬉しそうに答えた。
「うん、蒼太のアドバイス通りにしたら、ちゃんと理解してもらえた! 両方の派閥のリーダーと個別に話して、中立でいたいって伝えたの。そしたら、『そういう立場もありだね』って言ってもらえて」
「良かったじゃん」
「本当に蒼太のおかげ。ありがとう」
陽菜が、テーブル越しに手を伸ばして、俺の手に触れた。
一瞬、ドキッとする。
彼女の手は、温かかった。
「あ、ごめん」
陽菜が照れくさそうに手を引っ込める。
その仕草が、妙に可愛く見えた。
しばらくして、料理が運ばれてきた。
二人で食事をしながら、色々な話をする。
大学のこと、昔のこと、将来のこと。
陽菜は、将来は教師になりたいと言っていた。
「子供が好きなんだ。だから、小学校の先生になりたいって思ってる」
「陽菜なら、いい先生になれると思うよ」
「本当? 嬉しい」
彼女の笑顔が、眩しかった。
* * *
食事を終え、店を出る。
「次、どうする? まだ時間あるでしょ?」
陽菜が聞いてくる。
「そうだな……どこか行きたいところある?」
「うーん、じゃあ代々木公園とか? 天気いいし、散歩しない?」
「いいね」
俺たちは、代々木公園に向かった。
休日の公園は、家族連れやカップルで賑わっていた。
芝生の上で、ピクニックをしている人たち。
ジョギングをしている人たち。
のんびりとした雰囲気だ。
俺たちも、ゆっくりと公園内を歩く。
「ねえ、蒼太」
「ん?」
「本当に変わったよね」
陽菜が、しみじみとした口調で言った。
「前の蒼太も好きだったけど、今の蒼太も……すごく素敵だと思う」
彼女の言葉に、心臓が高鳴る。
「好きだった、って……」
「あ、いや、その……友達として、ね!」
陽菜が慌てて訂正する。
でも、その顔は真っ赤だった。
試しに、アプリで好感度を確認してみる。
さりげなくスマホを取り出し、カメラを向ける。
```
【早坂 陽菜】
橘蒼太への好感度:82 / 100(恋愛対象として意識している)
```
82。
恋愛対象として意識している。
昨日より、さらに上がっている。
これは……。
「陽菜」
「な、何?」
「俺も、陽菜のこと……」
言いかけて、止まった。
ここで告白するのは、早すぎる気がする。
もう少し、関係を深めてからの方がいい。
「陽菜のこと、大切に思ってる」
曖昧な言い方をした。
陽菜は、少し残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「うん。私も、蒼太のこと、大切に思ってる」
二人で、しばらく公園を歩いた。
沈黙が続いたが、不快な沈黙ではなかった。
むしろ、心地よい沈黙だった。
* * *
夕方になり、俺たちは駅に向かった。
「今日は楽しかった。ありがとう」
陽菜が言う。
「俺も楽しかった」
「また遊ぼうね」
「ああ、また」
別れ際、陽菜が少し躊躇うように、俺に近づいた。
そして、軽くハグをした。
「じゃあね、蒼太」
そう言って、彼女は駅の中に消えていった。
俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
彼女の温もりが、まだ体に残っている。
これは……恋なのか?
よく分からない。
でも、確かに陽菜のことを意識している。
幼馴染から、恋愛対象へ。
関係が変わっていくのを、実感した。
* * *
家に帰り、ベッドに横になる。
今日一日を振り返る。
陽菜との時間は、本当に楽しかった。
彼女の笑顔を見ていると、幸せな気持ちになる。
でも、同時に不安もある。
このアプリの力で作られた俺を、彼女は好きになっている。
もし、アプリがなくなったら。
もし、元の俺に戻ったら。
彼女は、それでも俺を好きでいてくれるだろうか。
そんな不安が、頭をよぎる。
でも、すぐに振り払った。
今はこの力がある。
だったら、それを使って前に進むだけだ。
陽菜との関係も、もっと深めていこう。
そう決意して、俺は目を閉じた。
でも、なかなか眠れなかった。
彼女の笑顔が、頭から離れなかったから。




