変化への反応
大学での反応は、想像以上だった。
講義の合間、廊下を歩いているだけで、周囲の視線が集まる。
「あの人、誰?」
「新入生? それとも編入?」
「めちゃくちゃイケメンなんだけど」
ひそひそ話が聞こえてくる。
直感スキルのおかげで、周囲の感情がなんとなく分かる。
好奇心、憧憬、嫉妬。
様々な感情が、俺に向けられている。
以前なら、こんな注目を浴びたら緊張して固まっていただろう。
でも今は違う。
コミュ力75とカリスマ Lv5のおかげで、堂々としていられる。
むしろ、この状況を楽しんでいる自分がいる。
* * *
昼休み、学食で女子学生たちに囲まれた。
5人くらいの女子学生が、俺のテーブルを囲んでいる。
「橘くんって、どこの高校出身なんですか?」
「趣味とか、何かあります?」
「彼女とか、いるんですか?」
質問攻めだ。
でも、交渉術とコミュ力のおかげで、スムーズに対応できる。
「高校は地元の公立だよ。趣味はプログラミングかな。彼女は……いないよ」
彼女はいない、と答えた瞬間、女子学生たちの目が輝いた。
「えっ、本当ですか!?」
「意外! 絶対いると思ってました!」
「じゃあ、良かったら今度、一緒に遊びに行きませんか?」
誘われる。
こんなこと、人生で初めてだ。
以前の俺なら、こんな状況、夢にも思わなかっただろう。
「ああ、機会があれば」
曖昧に返事をする。
あまり特定の子にだけ好意を示すと、後で面倒なことになりそうだ。
バランスを取りながら、全員と適度に距離を保つ。
これも、コミュ力とカリスマのおかげで自然とできる。
* * *
午後の講義が終わり、俺は一人で図書館に向かった。
さすがに疲れた。
注目を浴び続けるのは、思った以上にエネルギーを使う。
静かな場所で、少し休みたい。
図書館の奥の席に座り、スマホを取り出す。
アプリを起動し、今日の出来事を振り返る。
ログ閲覧機能で、今日の自分を見てみる。
画面に映し出されたのは、自信に満ちた表情の俺だった。
周囲の学生たちが、俺を見つめている。
これが、今の俺なのか。
数週間前とは、まるで別人だ。
嬉しい反面、少し不安もある。
本当にこれでいいのか?
アプリの力に頼りすぎているんじゃないか?
でも、すぐにその考えを振り払った。
いいじゃないか。
力を使って何が悪い。
誰にも迷惑をかけていない。
むしろ、自分を向上させているんだ。
そう自分に言い聞かせる。
* * *
図書館を出ると、見知った顔が目に入った。
早坂陽菜だ。
幼馴染の彼女が、図書館の前で誰かを待っているようだった。
スマホを見ながら、時々周囲を見回している。
俺は少し迷った。
声をかけるべきか。
以前会った時は、まだここまで変わっていなかった。
今の俺を見たら、彼女はどう思うだろう。
でも、結局声をかけることにした。
「陽菜」
彼女が顔を上げる。
そして、目を丸くした。
「え……蒼太?」
「ああ、久しぶり」
陽菜は、まじまじと俺を見つめる。
「ちょ、ちょっと待って。蒼太だよね? 前にカフェで会った時も思ったけど、さらに雰囲気変わってない!?」
「そうかな」
「そうかなじゃないよ! まるで別人みたい! 何があったの!?」
彼女の驚きようが面白い。
「色々あってね。ジム通い始めたり、自己啓発したり」
「ジムって……そんなレベルじゃないでしょ! これ!」
陽菜が俺の腕を掴む。
触れた瞬間、彼女の顔が少し赤くなった。
「筋肉……すごい……」
「まあ、頑張ったからね」
陽菜は、しばらく呆然としていた。
そして、ふと我に返ったように言った。
「あ、そうだ。今から時間ある?」
「ああ、大丈夫だけど」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれない? 話したいことがあるの」
陽菜に誘われた。
断る理由もない。
「いいよ」
二人で、大学近くのカフェに向かった。
* * *
カフェに入り、席に着く。
陽菜はアイスコーヒーを、俺はホットコーヒーを注文した。
「それで、話って?」
俺が聞くと、陽菜は少し照れくさそうに言った。
「あのね、実は相談があって」
「相談?」
「うん。最近、ちょっと悩んでることがあって……蒼太なら、アドバイスくれるかなって」
陽菜の悩み。
試しに、アプリで彼女のステータスを確認してみる。
さりげなくスマホを取り出し、彼女にカメラを向ける。
```
【早坂 陽菜】
年齢:20歳
職業:大学生
身体能力:62 / 100
知能:70 / 100
魅力:75 / 100
コミュ力:82 / 100
状態:不安・悩み
橘蒼太への好感度:72 / 100(友人として好き・少し意識している)
```
好感度が見える。
72。友人として好き、でも少し意識している、か。
それに、状態が「不安・悩み」になっている。
何か悩んでいるんだな。
「どんな悩み?」
「あのね……実は、サークルの人間関係で、ちょっとトラブルがあって」
陽菜が話し始めた。
彼女はテニスサークルに所属しているが、最近、サークル内で派閥争いのようなものがあるらしい。
陽菜は中立の立場を取っているが、両方から圧力をかけられて困っているとのこと。
「どっちにつくか決めろって言われてて……でも、どっちにもつきたくないし」
「うーん、難しいね」
交渉術スキルが、解決策を教えてくれる。
「陽菜、無理にどっちかにつく必要はないよ。中立を貫けばいい」
「でも、それだと両方から嫌われちゃうかも……」
「だったら、両方と個別に話し合って、中立の立場を理解してもらうようにすればいい。派閥争いに巻き込まれたくないって、はっきり伝えるんだ」
「でも、それってちゃんと伝わるかな……」
「大丈夫。陽菜ならできるよ。コミュ力高いし、みんなから信頼されてるだろ?」
陽菜は、少し驚いた顔をした。
「なんで分かるの?」
「雰囲気でね」
実際はアプリで見たんだけど、そうは言えない。
「蒼太……ありがとう。なんか、すごく説得力あって、安心した」
陽菜が笑顔を見せた。
その笑顔を見て、俺も少し嬉しくなった。
アプリで好感度を確認すると、75に上がっていた。
少し意識している、から、好意的、に変わっている。
(これは……)
もしかして、陽菜は俺に好意を持ち始めているのか?
幼馴染だから、そういう感情は今までなかったけど。
俺が変わったことで、彼女の見る目も変わったのかもしれない。
複雑な気持ちだ。
でも、悪い気はしない。
* * *
カフェを出て、駅まで一緒に歩く。
「今日はありがとう、蒼太。すごく助かった」
「いや、大したことしてないよ」
「ううん、すごく励まされた。やっぱり蒼太は優しいね」
陽菜が俺の腕に、軽く触れた。
一瞬、ドキッとする。
以前なら何とも思わなかったこの距離感が、今はなんだか意識してしまう。
「それじゃ、また連絡するね」
「ああ、またな」
陽菜が手を振って、駅の方へ去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、俺は考えた。
陽菜との関係も、変わっていくのかもしれない。
幼馴染から、もっと違う関係に。
それは、悪いことじゃない。
むしろ、嬉しいことかもしれない。
でも、急ぐ必要はない。
自然な流れに任せればいい。
そう思いながら、俺も家路についた。
今日は色々あった。
でも、全部いい方向に進んでいる。
新しい俺の人生は、順調だ。
このまま、もっと前に進んでいこう。




