マスター権限の発見
翌日、大学には行かず、再び一人部屋でアプリと向き合っていた。
昨日、マスター権限の一部を試してみて、その威力に驚いた。
でも、まだ全ての機能を理解できていない。
もっと深く、このアプリを知る必要がある。
スマホを手に取り、マスター権限メニューを開く。
そこには、まだ試していない機能がいくつもあった。
「時間操作」
これは一体何だ?
タップしてみると、詳細が表示された。
『時間を限定的に巻き戻す、または停止することができます。ただし、使用には大量のポイントが必要です』
ポイント?
画面の右上を見ると、「所持ポイント:1000」と表示されていた。
これは何のポイントだ?
ヘルプを確認してみる。
『ポイントは、アプリの各種機能を使用するために必要です。毎日自動的に回復します。また、特定の条件を満たすことで追加ポイントを獲得できます』
なるほど。
つまり、使いすぎるとポイントが足りなくなるということか。
無限に使えるわけではないんだ。
時間操作の必要ポイントを確認すると、「1分巻き戻し:500ポイント」「1分停止:800ポイント」と表示されていた。
高い。
これは、本当に必要な時にしか使えないな。
* * *
次に、「スキル付与」をもっと詳しく見てみる。
昨日は料理スキルを試したが、他にも様々なスキルがある。
格闘術、交渉術、言語、楽器、運動……。
そして、その中に「特殊スキル」というカテゴリがあった。
タップしてみると。
「カリスマ」「直感」「危機察知」「魅了」……。
普通のスキルとは違う、超常的なスキルが並んでいる。
これは……すごい。
試しに「直感 Lv5」を自分に付与してみる。
決定ボタンを押すと、いつものように頭の中に情報が流れ込んでくる。
でも、今回は知識というよりも、感覚が研ぎ澄まされていく感じだ。
目を閉じてみる。
すると、周囲の気配が分かる。
隣の部屋で誰かが動いている。下の階でテレビがついている。外で車が通り過ぎていく。
全てが、まるで見えているかのように分かる。
「これは……」
驚異的な能力だ。
このスキルがあれば、危険を事前に察知できるかもしれない。
* * *
さらに、「ログ閲覧」という機能も試してみた。
これは、過去の出来事を記録として見ることができる機能らしい。
試しに、昨日の自分の行動を見てみる。
すると、画面に昨日の俺の行動が、まるで動画のように再生された。
朝起きて、アプリを試して、料理を作って……。
全てが記録されている。
「すごい……」
これは便利だ。
忘れてしまったことも、これで確認できる。
試しに、一週間前の出来事を見てみる。
あの日、俺は何をしていたっけ?
画面に映し出されたのは、大学の講義室にいる俺だった。
講義を受けて、ノートを取って。
ああ、そうだった。この日は情報工学の試験があったんだ。
記憶が蘇ってくる。
この機能、思い出を振り返るのにも使えるな。
* * *
一通り機能を確認し終えて、俺は改めて思った。
このアプリは、本当に何でもできる。
ステータスを変えられる。
スキルを付与できる。
イベントを発生させられる。
アイテムを生成できる。
時間を操作できる。
他人の情報を見られる。
過去を振り返れる。
これはもう、神の力と言っても過言ではない。
でも、なぜこんなアプリが存在するのか。
そして、なぜ俺のところに来たのか。
アプリの説明文を改めて読んでみる。
『Reality Editor - 現実を編集するアプリ』
『本アプリは、異次元技術を用いて開発された実験的プロジェクトです』
異次元技術?
何だそれ。
さらに下を読むと。
『マスター権限:時間操作、大規模イベント発生、無制限のアイテム生成、現実改変などの高度な機能を使用可能』
マスター権限は、一般ユーザー版にはない強力な機能が使える特別な権限なんだ。
でも、なぜ自分にマスター権限があるのか。
説明文には、その理由は書かれていない。
「これって……大丈夫なのか?」
不安が湧いてくる。
もしかして、この権限が取り消されたりしないだろうか。
あるいは、製作者側から連絡が来て、アカウント停止とか。
でも、今のところそういう兆候はない。
むしろ、アプリは正常に動いている。
だったら、使えるうちに使った方がいいんじゃないか。
そう思った。
* * *
夕方になり、コンビニでバイトのシフトがあった。
アパートを出て、バイト先に向かう。
道中、試しにアプリで通行人のステータスを見てみる。
すれ違うサラリーマン。
```
【山田 太郎】
年齢:35歳
職業:会社員
身体能力:48 / 100
知能:71 / 100
状態:疲労・ストレス
```
疲れてそうだな。
次に、ジョギングしている女性。
```
【鈴木 美咲】
年齢:28歳
職業:OL
身体能力:76 / 100
魅力:82 / 100
状態:健康
```
身体能力高い。運動してるからか。
こうやって見ていると、人それぞれ色々な数値があるんだなと分かる。
面白い。
でも、やっぱりこれってプライバシーの侵害だよな。
罪悪感を感じながらも、好奇心が勝ってしまう。
* * *
バイト先に到着し、制服に着替える。
今日も普通にバイトをこなす。
でも、ふと思った。
このアプリの力を使えば、バイトももっと楽にできるんじゃないか?
試しに、自分に「接客スキル Lv7」を付与してみる。
ポイントを消費して、スキルを付与。
すると、接客に関する知識と技術が、頭の中に流れ込んできた。
お客様への声かけのタイミング、商品の陳列の仕方、クレーム対応の方法……。
全てが自然と分かる。
実際に接客してみると、驚くほどスムーズだった。
お客様が何を求めているのか、直感的に分かる。
適切なタイミングで声をかけ、的確に案内する。
「ありがとう、助かったよ」
お客様から感謝された。
嬉しい。
こんなに接客が楽しいと思ったのは初めてだ。
バイトが終わり、店長に声をかけられた。
「橘くん、今日すごく良かったよ。お客さんからの評判も良かった」
「ありがとうございます」
「このまま頑張ってね。もしかしたら、時給上げられるかもしれないから」
「本当ですか!」
時給アップ。
それは嬉しい。
アプリのおかげだ。
本当に、このアプリは俺の人生を変えてくれている。
* * *
家に帰り、ベッドに横になる。
今日も色々と試してみて、マスター権限の凄さを実感した。
でも、同時に思った。
この力を、どう使うべきか。
ただ自分のために使うのか。
それとも、他人のためにも使うのか。
俺は、基本的には善人だと思っている。
困っている人がいたら、助けたいと思う。
でも、それと同時に、自分の利益も大事だ。
バランスが難しい。
まあ、今はまだ考える必要はないか。
まずは自分を変えることに集中しよう。
そして、もっとこのアプリを使いこなせるようになろう。
それから、どう使うかを考えればいい。
そう決めて、俺は目を閉じた。
明日は、もっと大胆なことをしてみよう。
自分自身を、劇的に変えてみよう。
マスター権限の力を使って。




