能力の実験
翌日、俺は大学を休んだ。
講義をサボるなんて珍しいことだが、今日はどうしても試してみたいことがあった。
製作者権限。
あの謎のメニューが、本当に機能するのか確かめたかった。
一人部屋で、スマホを手に取る。
アプリを起動し、製作者権限メニューを開く。
そこには、信じられないような機能が並んでいた。
「スキル付与」
これを試してみよう。
メニューをタップすると、スキル一覧が表示された。
格闘術、交渉術、料理、楽器演奏、語学、運転技術……。
ありとあらゆるスキルが並んでいる。
試しに「料理 Lv5」を選択してみる。
俺は今、料理スキルがLv2だ。これを5に上げたら、どうなるのか。
決定ボタンをタップする。
次の瞬間。
「うわっ……!」
頭の中に、大量の情報が流れ込んできた。
料理の基本、包丁の使い方、火加減の調整、味付けのコツ、様々な料理のレシピ。
まるで長年料理をしてきたかのような、確かな知識と技術が、脳に刻み込まれていく。
数十秒後、その感覚は収まった。
「はあ、はあ……すごい……」
これは本物だ。
本当に、スキルが身についた。
試しに、キッチンに立ってみる。
冷蔵庫にある食材を見ると、自然とレシピが頭に浮かぶ。
卵、玉ねぎ、ベーコン、米。
これで、オムライスが作れる。
包丁を手に取り、玉ねぎを切る。
手が、勝手に動く。
薄く、均等に、リズミカルに。
まるで何年も料理をしてきたかのように、スムーズに切れた。
フライパンに油を引き、玉ねぎとベーコンを炒める。
火加減も完璧だ。焦がさず、でも しっかりと火を通す。
ご飯を加え、ケチャップで味付け。
チキンライスの完成。
別のフライパンで卵を焼き、ふんわりとしたオムレツを作る。
チキンライスの上に乗せ、ケチャップで模様を描く。
完成したオムライスは、まるでレストランで出てくるような見た目だった。
「マジかよ……」
一口食べてみる。
美味い。
自分で作ったとは思えないほど、美味い。
これが、スキル付与の効果か。
恐ろしいほどの威力だ。
* * *
次に試したのは、「ステータス閲覧」の機能だ。
製作者権限では、他人のステータスをより詳しく見ることができるらしい。
試しに、スマホをコンビニの店員に向けてみる。
窓から見える、向かいのコンビニだ。
画面に情報が表示される。
```
【佐藤 健太】
年齢:22歳
職業:大学生・アルバイト
身体能力:58 / 100
知能:62 / 100
魅力:54 / 100
スキル:
- 接客 Lv4
- バイク運転 Lv3
状態:疲労
```
すごい。
こんなに詳しく情報が見られるのか。
これは……プライバシーの侵害じゃないのか?
罪悪感が湧いてくる。
でも、同時に、この力の便利さも感じていた。
相手の情報が分かれば、どう接すればいいか分かる。
コミュニケーションが苦手な俺にとって、これは大きな助けになる。
……いや、でも。
これを使うのは、倫理的にどうなんだろう。
悩んだが、結局、使うことにした。
だって、便利すぎるから。
そして、それが俺を変えるための力になるから。
* * *
さらに、「イベント発生」という機能も試してみた。
これは、特定のイベントを発生させることができる機能らしい。
試しに「小さな幸運」というイベントを自分に設定してみる。
決定ボタンを押すと、「イベントが設定されました」と表示された。
何が起こるのだろう。
しばらく待っていると、スマホに通知が来た。
よく使うネット通販サイトからのメールだ。
『本日限定! 全商品20%オフセール開催中!』
え。
これ、偶然?
それとも、アプリの効果?
分からないが、確かにラッキーなことが起きた。
試しに、欲しかった参考書を注文してみる。
20%オフで購入できた。
これは……本物かもしれない。
* * *
一日中、アプリの機能を試し続けた。
「アイテム生成」では、小さなものなら生成できることが分かった。
試しに、1000円札を生成してみた。
すると、本当に手元に1000円札が現れた。
「うわっ……!」
これは……ヤバい。
というか、これって犯罪じゃないのか?
偽札製造?
いや、でもこれは本物の1000円札だ。触った感じも、透かしも、全部本物だ。
恐る恐る、近くのコンビニで使ってみる。
普通に受理された。
つまり、これは本物だ。
でも、これを多用するのは危険だと思った。
経済の仕組みを壊しかねない。
それに、あまりにも不自然にお金が増えたら、税務署に目をつけられるかもしれない。
使うのは、本当に必要な時だけにしよう。
そう心に決めた。
* * *
夜になり、ベッドに横になりながら、今日一日を振り返った。
このアプリは、本物だ。
そして、俺が持っているのは「製作者権限」という、特別なバージョンだ。
一般ユーザー版よりも、遥かに強力な機能が使える。
これがあれば、俺は何でもできる。
理想の自分になれる。
モテるようになれる。
お金も稼げる。
何でも手に入る。
でも、同時に恐怖も感じていた。
この力は、あまりにも強大すぎる。
使い方を間違えたら、取り返しのつかないことになるかもしれない。
それに、このアプリは一体何なんだ。
誰が作ったのか。
なぜ俺のところに来たのか。
そして、「バグにより製作者権限が付与された」とはどういう意味なのか。
謎は深まるばかりだ。
でも、今はそんなことを考えるより。
この力を使って、俺自身を変えることに集中しよう。
平凡な俺を、特別な存在に。
地味な俺を、輝く存在に。
それができるなら、少しくらいのリスクは受け入れる。
そう決意して、俺は目を閉じた。
明日から、本格的に自分を変えていこう。
このアプリの力を使って。
新しい俺になるために。




