8 じじさまに会いに行こう
私と古竜との初めての共同作業で結界を張ったが、根本的な解決にはなっていない。
次に向かうのはもちろん。
世界樹を見に行く。
古竜の洞窟から中央近くの世界樹までもかなり距離があるので又、フッラの背中に乗せてもらう。私は馬にも乗ったことがないのでフッラにはうまく乗れない。フッラの方が気を使って余り揺れないように走ってくれているくらいだ。
フッラの力を借りずに自分で移動できる手段はないだろうか...
遠くに見える世界樹らしき物を目指して走ってくれているフッラの背中から先程気になったことを尋ねてみる。
「ねぇ?世界樹って私たちと意思疎通が出来ますか?できれば色々聞きたいことがあるのだけど、フッラとフリーンが世界樹と話せるなら通訳をしてくれませんか?」
「じじさまとは、魔力が釣り合う者や私たち神の眷属はみんな意思疎通が可能ですよ?」
「トワ様も凄い魔力をお持ちなのでじじさまとは絶対お話できます。安心してください。」
フリーンが私を振り返ってニッコリする。
やっぱり可愛い...
ワンニャンをわしゃわしゃしたい衝動を今日も必死にこらえてソワソワしているうちに世界樹のじじさまの前に着いた。
全体像が見えた世界樹は想像以上の迫力がある。神話に出て来るユグドラシルはたしか根が世界中に繋がっているんだったか?
この世界樹も一方からだと幹の太さすらわからない。周りの枯れた木々たちとは違って幹はまだ辛うじて茶色く瑞々しい。だが季節に関係あるのかはわからないが、葉はほとんど落ちて枝だけを空に広げている。
「凄い...」
荘厳さにさすがの私も息をのむ。
私はフッラから降りて幹に近付いた。
「結界を貼ってくれたのはあなたかな?あなたは異世界の神の眷属か。」
おぉー!意思疎通どころかちゃんと言語として認識出来る!これは助かる。でも私が異世界の神の眷属だとよくわかるな。さっき古竜も言っていた気もするが...
かなり感動しているが礼儀正しく、冷静を装う。
「お初にお目にかかります。新しく管理人を仰せつかりました、トワと申します。古竜様にご協力頂いて先程この森全体に結界を張りました。」
「あぁ、少し楽になったよありがとうお嬢さん。」
お嬢さんという歳でもないが私なんか子供に見えるのだろう。
「貴方様の魔力がだいぶ減っていると伺いましたが、あの〜大丈夫ですか。」
「心配してくれてありがとうねお嬢さん。ワタシ自身はまだ大丈夫じゃよ。だがワタシの力不足で、大地に送り込む魔力がもぅ乏しくてな、他のものたちにはほとんど行き渡っていないようで申し訳ない限りなのじゃ。」
表情はわからないが言語と共にとても悲しそうな思念が伝わってくる。
だが私には始めから気になっていたことがある。
「あのー、どうしてこんな事になってしまったのかご存知ですか?」
「原因はワタシにもわからぬ。たしかほんの少し前…200年くらい前じゃったか、その頃から水場が瘴気に染まり、精霊たちが徐々に居なくなった。精霊が居なくなれば清き水が大地に流れなくなり、やがて大地も瘴気に染まってしまったのじゃ。ワタシの魔力で瘴気に抗ってはおったが間もなく限界が来るじゃろう。」
200年は少し前ではないが...まぁこの森にとってはちょっと前、なのだろう。
だが、200年ならばある程度納得できる。これだけの規模の森だ、前管理人がいくらカスでもせいぜい数年管理を怠ったくらいでこんなに朽ちるだろうか?と始めから疑問だったのだ。
たしかに前管理人の不作為の罪は重い。だが元々の原因に彼女は関係ないのだ。
事象には原因がある。
原因を突き止めるべきか?...
突き止められるだろうか?......
ついつい思考の闇に堕ちそうになるが今はとにかくこの状況を少しでも改善させよう!
「あのー、すみません、私の住む里から肥料を持ってきたのですが、周りの土を掘り起こしたりしても大丈夫ですか?効くかはわかりませんが。」
出来ればこの森の土や枯葉を混ぜて手作りしたかったが、栄養になりそうなものが見当たらなかったのでホームセンターで腐葉土を大量購入してきた。
それを世界樹に見せてみる。害があっては元も子もないので軽はずみなことはしないよう気をつけたい。
「むぅ、養分とはなりそうじゃがちと弱いのう...其方の浄化の魔力を混ぜてはくれぬか?」
おぉ!そんなことで効果があるのか!腐葉土は効かないかもしれないと余り期待していなかったので、手持ちの物(私の魔力)で役に立つ物が出来るのは助かる!
私は太い幹から2mほど離れた所を根の近くまで土魔法で掘り返していく。腐葉土を埋める穴を掘るつもりだったが、私の浄化魔法が効くなら掘り起こす時も土魔法と浄化魔法を組み合わせて使ってみた。すると少し黒ずんでいた土が掘り起こすだけで綺麗になっている気がする。これは...使えるのでは!?
...いや…これだけの敷地の土を全部掘り起こすのは何年かかるかわからない。
使えないな...
気を取り直して掘り起こした穴に腐葉土を撒いて綺麗な土で被せる。
少しは元気になってくれるといいが。
「じじさま?他に少しでもお役に立てることはないでしょうか。」
日本の腐葉土だけでなんとかなるとはさすがに思っていない。むしろ大して役に立つとも思えない。
「ふむ。そうじゃなぁ...」




