39 聖女イーリス
「お待ちくださいトワ様!」
え……
私たちはシルバの遣いとしてノルディア帝国の皇宮に歴史の記憶を返しに来ていたが、仕事は終わったのでさっさと帰ろうとしていた。が……
クラウス様に引き止められてしまった。
どうせろくな事じゃない。
この人は良い人の振りをしてなんだかんだ面倒事を押し付けるきらいがある。
「まだなにか?」
「はい、折り入ってお願いがございます」
ほらね、やっぱり。
皇帝や皇太子は今後の対策もあるので、私たちは場所を移した。
皇帝たちの目がなくなり、私も神力を消すと、クラウス様もホッと力を抜いた。
「さすがに私のようなものには神力は強すぎましたので助かります」
自分ではよくわからないけど、強い力は周りを畏怖させるというのはよく聞くので、そんな感じだったのだろうか。
「それで、お願いとは何でしょう?」
わざとらしい微笑みを貼り付けて話を促す。
「イーリスの尋問に立ち会って頂きたいと思いまして」
そんなことだろうと思った。
「正直、私は別にイーリスとは関係ありませんし、興味もないので会う必要もないのですが?」
「ですからお願いしてるのですよ、我々も彼女についてはどう扱ったものか悩んでいまして。それに関係ないってこともないでしょう?」
「サクッと処刑したらいいんじゃないですか? 貴族ってそういうものなのでしょう?」
「相変わらずトワさんは……。さっきまでの威厳はどうされました?」
「そんなめんどくさいもの、神力とともに消したに決まってるでしょう」
「まぁまぁ、そう言わずに。イーリスと一度くらい会ってみても良いでしょう」
興味がないといえば嘘になるが、めんどくさそうな人と変に関わるのはどうも気が引ける。
うーんうーんと考える私をイイ笑顔で見守るクラウス様は帰してくれる気はなさそうだ。
仕方ない……
聖女を名乗るイーリスは、軟禁されてはいるが不自由なく生活している。かなり甘い措置だ。
実際本当に国を滅ぼす気があったかどうか。それに約200年前とはいえ皇族と本物の聖女の血を引いている。今後も処刑されることはなかろう。
初めて会うイーリスという女性は整った顔立ちの割には随分幼くみえる。
「いつまでこんな所に私を閉じ込めておくつもり?」
おお……
クラウス様たちを見るなり噛み付いている。期待以上のわがまま聖女みたいだ。
「クラウス様、どうしてこの子が聖女だと信じたのですか?」
小声で第一印象を簡潔に述べてみた。
聖女が必ずしも人格者とは限らないのかもしれないが、聖女以前の問題でこの子の支持率が高かったのが不思議でならない。
民衆は確かに聖女という肩書きで目を曇らせたのだろうが、この子なりの魅力があったのは確かだろう。
「……ですから、私ははじめから違和感があると言っていたではありませんか」
クラウス様も私に合わせて小声で反論してくる。
もぅ会ったからいいや、帰りたいとさり気なく後退ってみるが腕を誰かにがっちり掴まれている。
相変わらずクラウス様はイイ笑顔だ。
「初めまして。世界樹の森で管理人をしています」
「…………」
「あなたは私の前に管理人をされてた方ですよね、あなたに聖女の力がないのはもう知っています」
「…………」
サクサク行こう。
「あなたがして来たこともすでに発覚し、証拠も手にしています。あなたは処分されます。全て終わったのです」
「…………」
「反論があれば聞きますよ?クラウディウス殿下が」
イーリスとクラウス様にキッ!! と睨まれた。解せぬ。




