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世界樹の森、守ります。  作者: 杉本 雨
第3章 それぞれの想い

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38 神の死者トワ?

 

「本日は神の使者として参りました」


 羽衣のような薄布のマントは太陽と森林の神の力を秘め、それを纏う私からは神力が漏れ出している。フッラとフリーンもシルバの眷属として私の背後に並び立つ。

 人ではない存在にノルディア帝国の皇帝、皇太子、そして皇弟のクラウスが無意識に膝を折り頭を垂れる。


 神との誓約で白紙となっていた歴史書には文字が戻り、約200年前神が人々から取り上げた記憶も現在の皇族に返された。

 私は歴史を取り戻した本を皇帝に返却し、聖女チカコが森で亡くなられたあらましを説明する為に皇宮を訪れている。


「この世界を滅ぼす呪いは昨日私が解呪し、それにより世界樹はあなた方が傷付ける前の姿を取り戻しました。

 よってこの世界の創造神、森の神はあなた方を許し、記憶を返すとのことです。ただし、世界樹の森から霊脈である川がこの国へ注ぎ込むことは今後もなく、また代償を必要とするような大魔法も今後も使えません。あなた方皇族に返した記憶をどうするのかは自由にして構いません。

 それと、現在の聖女イーリスについては神は全く与り知らぬ事、とのことです。

 記憶が戻り、何か奏上したいことはありますか」



「とんでもないことでございます。このような罪を忘れて国を治めていた愚かさを思えば、記憶をお返し頂いたご厚情に感謝こそすれ、これ以上こちらから申し上げることなどございません。記憶は民衆にも返したいと存じます。その上で今後どのように国を守っていくのかよく考えていきたいと思います。せっかくお返し頂いた記憶、過去の罪を今後は忘れることなく我が国を救い我が国の犠牲となった聖女チカコ様に恥ぬ政治をしてまいります」


 クラウス様の兄である皇帝はバカではなさそうで安心した。この人たちならば、自分たちの力でこの国を守っていけるだろう。


 皇帝の言葉を聞き、私はやっと顔を綻ばせた。

「罪を忘れて生きていた方が楽だとは思わないのですか」

 少し意地悪に微笑みかけた。


「そこまで愚かではございません」

 私の軽口に、皇帝はたくさんの感情を押し殺した重い声で答えた。


 シルバは人間の罪を赦したが、彼らの贖罪はこれからだろう。神の加護がないこの国を現皇帝や皇族が今後どのように守っていくのか、楽しみに見守ろう。


「これは私個人から、クラウスへの礼です」


 私は先日クラウス様から頂いた花によく似た花を差し出した。

 クラウス様が恭しく前に出て受け取ると少し首を傾げた。


「トワ様、これは? わたくしが贈った花と似ている気もしますが比べ物にならない程の魔力を感じます」

「はい、頂いた白銀の花の原種でペイルフロストといいます」


 先日フェンリルさんと古竜様に教えてもらった花は、やはり白銀の花の原種だった。

 世界樹の森にしか咲かないが、本来森の中では一年中咲き誇り森を浄化しているという。

 おそらく、遥か昔、帝国の土壌が豊かだった頃に森から飛んで根付いたのだろう。

 代が変わるごとに弱くなり育ちにくくなった。

 魔力も乏しく雪が多くなった現在の帝国で育った花はほとんど魔力を含んではおらず浄化力もない。


「研究して広く育てられてはいかがでしょう?」




 神の加護などなくても人間の知恵次第で豊かに暮らすことはできよう。

 この原種の根を使えばイーリスが汚した土地くらい癒せるだろう。

 ほんの少し私が手を貸しても神との契約に抵触することも無いだろうし、神が捨てても人間の私はやはり完全に無視などできそうもない。

 ただその先は、研究が成功しようが失敗して全て枯らそうが知ったことではない。


「聖女などに頼らず知恵を搾って国民をお守りください」



 さて! 柄にもなく神の使いなんてしてしまったので肩が凝った。

「フッラ、フリーン、帰りますよ」

 私たちはくるりと回れ右をして颯爽とその場を辞した……かったのだが、


「お待ちくださいトワ様!」




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