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世界樹の森、守ります。  作者: 杉本 雨
第3章 それぞれの想い

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35 白紙の歴史書

 

 店は森の北側にあるので、古竜が住む南の山はやはり随分暖かく感じるなー。


 私たちは白銀の花を探して南の山まで来たのだが、探すもなにも山の麓の開けた平地に咲き誇っていた。まだ蕾の物も多いが半分くらいすでに開花している。

 ただ、貰ったものと似てはいるが少し違っていた。

 花弁は薄く曇ったガラスのような質感を帯びており、純白というよりわずかに蒼を含んでいた。華やかさとは無縁だが、光を受けるたびに淡く反射しては儚い輝きを返して見る者の視線を惹き寄せる不思議な美しさがあった。

 そして何より花の周囲には細やかな魔力が満ちており、風が吹けば魔力がさざ波のように広がっていった。

 自然の気まぐれに任せて根を張る蒼白い硝子細工のようなその花が周りの空気そのものを清めているように感じられる。

 クラウス様に貰った花は魔力など含んでいなかったように思う。

 針のような変わった葉と、冷気を帯びた白い花が綺麗だと思ったがこちらを見てしまうと少し見劣りする。



「ペイルフロストか」

「ペイルフロスト? フェンリルさん、この花知ってるのですか?」

「ああ、昔からこの森ではそこら中に咲いていたぞ。珍しくもなんともない。そういえば来る途中はあまり見かけなかったな? 今は珍しいのか? 昔は北の方でもあちこちでみかけたのだが」

「へぇー、魔力を含んでるみたいですけど、どういう花なんですか?」


「…………知らん!」


 食べられないもんね。


「古竜様は詳しいかしらね? 聞いてみようかな」


「…………知らん!」

 山を登り、といっても私はフェンリルさんの背につかまっていただけだが、古竜の巣にたどり着いた。


 フェンリルや古竜が、食べられもしない上に

 そこら中に咲いてる花をイチイチ気にとめたりはしないよね……


「あの花、根っこごといくつか貰って行ってもいいですかね?」

「そなたの森であろう。好きにすればいいのではないか? そもそもそこら中に咲いてるだろう?」


 管理小屋で、クラウス様に貰ったものと一緒に育ててみようと思う。


「お二人ともそこら中、って言いますけど私、初めて見ましたよ」

「そうなのか? でも確かに最近またこの山で見かけるようになったくらいで、他ではみかけぬか?」



 拠点(管理小屋)に帰ったらこの森の植物図鑑を見てみよう。載ってるかも知れないしな。




 ****


「トワさんが言ったものが見つかりました」

 洞窟で過去の聖女の記憶を見てから一週間ほど経った頃クラウス様が店を訪れた。


「これはほんの一部です」

 持ってきた包みを卓上に広げ、中からいくつかの鉱物らしき物を並べた。


 ノルディアで起こったことは全て自然現象などではなく、誰かの意思で起こされたことだ。

 そして、その誰かとは聖女を名乗るイーリス。

 自分で起こして解決したように見せ掛け、帝国や帝国民の支持を得ている。ところが実際は解決などしておらず、それどころか更に酷い状況にすらなっている。

 理由はともかく、イーリスの自作自演を問い詰めるならば、証拠が必要だ。


「彼女に与えている部屋に沢山隠されていました。紅瘴石も、以前トワさんに見せていただいた時初めて見ましたが、他の物も初めて見るものばかりです」



 簡単な話だ。紅瘴石を使った靄の発生方法は、世界樹の森の知恵だ。彼女が前管理人ならば、他の知恵も出処は同じ。この森の知識だろう。それでいくつか当たりをつけて、クラウス様に証拠集めをしてもらったというわけだ。


 例えば、骨笛という物も出てきた、魔物を森から街に向かわせたのはこれだろう。骨とは言っても実際獣の骨ではなく、これも鉱物の1つで、獣の骨のような形をした白っぽい石だ。これを笛のように吹くと魔物にだけ聞こえる音が出て、呼び寄せることが出来る。街中でこっそり吹くことができ、森の浅い場所にいた魔物には聞こえ、わらわらと集まってくるのだ。

 幸いなことに、強い魔物には効果がないが、普段街中で魔物を見ることはないので、弱い魔物でも、人々に恐怖心を与えるだけなら充分だ。



「聖女は離れに軟禁し、見張りの者を付けました」

 この聖女が今後どうなるかは知らないし、口を出すことでもない。でもこれ以上、変なことが起こる可能性はなくなったと思いたい。



「この件とは関係ないのですが、これをトワさんに見て頂きたいと思いまして」


 鉱石類を包み直し、代わりに1冊の本を置いた。

 角はすり減り革の色は深く沈んだ古い本のようだが、表紙に刻まれた皇家の意匠が無言の圧を放つ。


 私は両手で丁寧に持ち上げ、パラパラと捲る。


「皇族に代々伝わる歴史書なのですが不思議でしょう? ほとんどが白紙なんです」


「白紙? ですか?」

 確かに年月を経た痕跡はあるのに比較的綺麗な書だとは思うけど……


「何故これを私に? 大事なものでしょう?」

「はい、小さな頃から不思議だったのです。なぜこんな物を皇族は代々大切にしてきたのかと。でも誰もわからないようでした。我が国が神に見捨てられたと伝えられている理由がここに隠されてるのではないか? などと考えたりもしまして。ずっと、お会いした時からあなたは神に近い方なのではないかと思っていましたが、ここ最近確信に変わっておりました。この書の謎を教えては頂けないでしょうか」

「……いやぁ、何度も言いますけど私はただの平民ですよ? でもちょっと確かめたいこともあるのでこの本を貸して頂けますか?なるべく早く返しますので」





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