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世界樹の森、守ります。  作者: 杉本 雨
第3章 それぞれの想い

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32 破滅の洞窟

 

 森の管理人は森を守る種族から、その森の管理に適した才能を持って生まれてきた者をシルバがスカウトしてくることが多いと聞いた。

 エリスは獣たちの声を聴くことができるという凄い才能を持っていたため強い魔物が多い蒼牙の森の管理人になっている。

 シルバは私をスカウトした時、今回から神の眷属を管理人に据えることになった、と言った。ということは、今までは世界樹の森も、他の森同様こちらの世界の才のある人間をシルバが連れてきていたのだろう。

 基本的には普通の人間であるはずの、世界樹の森の管理人となった者たちはどう思っていたのだろう?

 誇りだっただろうか? 

 重荷だっただろうか? 

 人工林のように積極的に手入れをし続ける必要がない代わりに、他の人間が立ち入れないこの世界の中心である森を、たった一人で観察し研究し、大切に守って未来へとつなぐ大役とどのように向き合ってきたのだろう。


 前の管理人はどんな凄い力を持っていたのだろう? それもシルバに奪われてしまったのだろうか? 

 力を奪って追放したシルバを、もしくはこの森を恨んでいるのだろうか?



「クラウス様、森の瘴気の他にも問題は発生していましたよね?」

「あちこちから魔物が街に向かってきたという件ですか?」

「はい、それも故意に起こされたことかもしれませんね。クラウス様、調べて頂きたいことがあるのですが……」



 魔物が街を襲ったのも、瘴気が発生したのも恐らく自然現象ではない。

 そして犯人は聖女だ。

 でも一体何をしたいのだろう? 帝国を滅ぼそうとしているのだろうか?

 ただ嫌がらせをしているだけのようにもみえる。

 どんな理由があるのだろう? シルバへの怨みならなぜ帝国を攻撃するのか?


 攻撃した先に何の関係もない人々が存在することを理解しているのだろうか? それでも攻撃したいほどの理由とは……


 聖女イーリスが前の森の管理人だとすると、あの洞窟の滅びの魔法陣のことは知っているだろうか? 

 この世界を滅ぼそうとしたのは誰なのだろう。数百年経っても消えない強い力の持ち主とは……





 ***


 洞窟は私の強い結界で入口を塞いでいるので、今は外に瘴気は漏れ出ていない。


「トワ、本当に入るの?」

 フッラとフリーンが心配そう尋ねてくれる。なぜかフェンリルさんも居る。まぁ、元はフェンリルさんの巣穴だしな。


「みんなはここで待ってて。出てこなかったらシルバに知らせて」

 私は洞窟に入ってみることにした。

 今、ノルディア帝国で起こっていることも全てこの洞窟が始まりのような気がするのだ。

 何かにつけて昔の出来事と結び付きそうで全く結び付かない。

 それが返って違和感を生み出している。

 何百年も経った今この中に入ったところで何かが残っているとは思えないのに、引き寄せられるような衝動に駆られる。



 緊張を誤魔化すようにラピスラズリの絹の毛並みをモフモフする。


「無闇に触れるなと言っているであろう。そもそもお前、二柱の神力が使えるのだから、この程度の瘴気でどうにかなるはずあるまい。さっさと行け」


 そうなの? 二柱? 大日如来とシルバ?

 うーん……それなら大丈夫か。


 よしっ! と気合いを入れてモフモフから手を離し暗い闇の中に向かう。


「ライト!」

 洞窟の入り口は思ったより清浄であたたかく、数百年も放置され瘴気を生み出し続けていたとは思えなかった。

 それでも突き当たりの広い空間に出ると、ここが世界の滅びの始まりだと実感させられた。


 地面いっぱいに描かれた魔法陣は芸術的で、長い時を経ても尚くっきりと輪郭を残している。禍々しい黒い気がぐるぐると円環の中心を包み込むように漂う。


 目の前に拡がる暗く重い気にしり込みし、しばらくその流れを見詰めて立ち尽くした。



 ……音が消えた。

 冷たい手が心臓を掴んで胸が苦しい。

 何か黒いものが喉を塞いで息が吸えない。

 気がつくと膝が崩れ、地面に体が堕ちる。

 かろうじて魔法陣に触れないように体を支えるが黒いものが静かに私を覆っていく。


 痛く、苦しい。

 いや……痛くて苦しいのは誰だろう? 

 何かが私をのっとる。

『この程度の瘴気』とか言ったモフモフはどこのどいつだよ……

 心の中で悪態をつきながら意識を手放した。





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