24 蒼牙の森の管理人エリス
蒼牙の森に隣接する村シエレへとやって来た。
私たちが来たところで村人が管理人の情報を話すとは思えないが、まだ具合いが悪い方々も居るときき世界樹の森の聖水で治るなら、と持ってきた。
先日、私たちが聖女様の聖水が効くのでは?と伝えたあと、すぐに聖女様に聖水を作って頂き、飲ませたそうだが効かなかったらしい。
なので期待はできないが一応だ。
「クラウス様たちはここで待っていて頂けますか。」
一度交渉に失敗している以上、一緒に行けば前回の二の舞になる。クラウス様たちには馬車の中でお待ちいただくことにした。
「わかりました。」
私たちは一旦蒼牙の森の入口を素通りして1kmと離れていない村に入った。
これだけ近かったらほとんど森の中といっても良いだろう。森から漏れた瘴気の影響を受けたのも頷ける。一番近い家からは森がしっかり見える。世界樹の森はその大きさと力故か一番近い人間の家まで10km以上離れている。
まず向かった家では村長がまだ伏せっていた。
「お初にお目にかかります。私は世界樹の森の管理人をしております、トワです。こちらの2人は森の神の使者でフッラとフリーンです。具合いの悪い時に申し訳ありません。」
あまり権力をチラつかせるような真似はどうかと思うが、こういう村の方々は恐らく森林信仰がある。世界樹の森に対しても、多くの民衆が抱く禁忌の恐れというよりは神秘的な神の領域への憧れのようなものが強いだろう。この自己紹介は有効にちがいない
案の定村長はベッドから起き上がって挨拶をしようとした。
「どうぞそのままで。それと、世界樹の森より水の神の祝福を受けた聖水をお持ちしてみました。よろしければ飲んでみてください。」
聖水は村長の容態によく効き、あっという間にすっかり元気になってしまった。
聖女の聖水と、ウンディーネ様の泉の聖水、いったい何が違うんだろう...
そしてなんと村長から蒼牙の森の管理人も、今この村に居るという情報を得られた。
村長の家の近くにある一人暮らしの老人宅に行き、同じように名乗って通してもらうと、
まだあどけなさも残る素朴な少女がベッドに身を横たえていた。声をかけると少女は焦点の合わない視線を私の方に向け荒い呼吸の奥から声を発しようとしている。
これは具合いが悪いレベルではなく素人目にも危険なのがわかる。挨拶なんてする前に慌てて聖水を飲ませた。
「どうですか?少し楽になりました?」
さっきまでうつろだった眼を不思議そうにパチパチしている。効いたようだ。
「はじめまして。私たちは世界樹の森から来ました。私はトワ、この2人はフッラとフリーンです。あなたが蒼牙の森の管理人?」
私の挨拶を聞くとガバッと飛び起き、
「ああぁぁー、あ、あの!エリスです!申し訳ありません!」
ベッドの上であわあわし始めた。
起き上がった彼女は顔色もさっきより明らかに良くなっており、くすんだ栗色の髪の毛がまとめきれずに跳ねている。
良かった...
私は思わずクスッと笑い
「さっきまで具合いが悪かったのだから無理しない方がいいよ。それに私たちは別にあなたを責めに来たわけじゃないし。」
エリスが顔をあげると涙目になっていた。
なんかどん臭くて可愛い。
「そう、なんですか?あ、あ、あのありがとうございます。あの、飲ませてくれたお薬すごくよく効きました。」
「あー、世界樹の森のウンディーネ様の泉から頂いた聖水だよ。」
「......えー!そ、そ、そ、そんなの…」
「はい、大丈夫、何も問題ないからとりあえず落ち着いてー。」
私は可愛いと思ったが、隣のフリーンからイライラの音がする...
「こほん…。聖水の件はもぅ忘れていいから。私たち、話を聞きに来たのよ。瘴気が湧いてみなさんがこんなことになってしまった経緯を。ただ、話を聞きたいのは私たちじゃなくて近くで待って頂いてる知り合いなの。」
「あ、は、はい。それじゃあ、森に行きませんか?あの、私、その事件の時から森に帰ってなくて、森がどうなってるのか心配なので。」
それもそうか。だったら聖女が浄化した時は森にいなかったのか...
「わかったわ。でも大丈夫?歩ける?」
「あ、はい、全然大丈夫です。むしろ絶好調です。」
私たちは村長に、具合いが悪い村人全員に飲ませるようにと言って持ってきた聖水を渡し、村を出た。
「クラウス様、お待たせいたしました。こちらが蒼牙の森の管理人、エリスです。私たちは話を聞きながら森に行きますがどうされますか?」
「さすがトワさんですね。もちろんお供させていただきます。」




