20 ノルディアの聖女
「では。私のお役に立てそうなことがありましたらまたお店にお越しください。」
めんどうは極力後まわしにしたい。
今日はお帰りくださいという願いを込めたが...
「では今聞いてくださいますか。」
ですよね......
賠償替わりに私に強要するくらいだからすでに何かお話があるのはわかっておりましたとも…
「トワさんは今帝国に聖女が居ることをご存知ですか?」
「えぇ。たまに街にいくと聖女様のお噂はよく耳にいたしますので。」
「どう思われますか?」
「はい?どうと言われましても…私はお目にかかった事もありませんし、私は帝都民でもありません…」
「お会いしてみたいとか思われませんか?」
「えぇ。正直言ってあまり興味がございません。その聖女様がどうかなさったのですか?」
聖女になんて関わったら私のスローライフが更に遠のく気がする。
「先程トワさんから仰って頂いたように、この森から数体の魔物が街に向かいました、それ自体は大した問題にはなりませんでした。ですが、その後ほかの森からも魔物が出てくるようになったのです。そして森が瘴気を発し犠牲者も出ております、一部の畑が収穫前に全て枯れるという報告もごさいました、他にもあちこちから色々な被害報告があがってきました。」
「それは…大変ですね。」
「はい。皇帝含め、官吏たちと対応について頭を悩ませる毎日でした。そんな時聖女様が現れたのです。そして彼女がひとつひとつ丁寧に対応してくださり全ての問題が解決しました。さらに結界まで張ってくださったのです。」
「おぉ。聖女様というのはすごいのですね!良かったではありませんか?なんの問題があるのですか。」
「実は聖女様が対応してくださった後も何度か違う森から魔物や瘴気の被害が確認されているのです。」
「あー、なるほど。結界を張ったのに災厄が続いているというわけですか。」
「はい、ですがその都度聖女様が魔物を森に帰し、瘴気をはらってくださるので問題にはなっていません。全ての森の奥深くまで聖女様の浄化が届くわけではないのだろうと思っておりました。」
「はあ。少しめんどうですが、聖女様が解決してくださっているならやはり問題ないのでは?その為に聖女様が現れたのでしょうし。」
「はい、その通りです。皇帝陛下もそのように仰っています。
ですが、ある日この森に結界が張られました。私は城におりましたが地を震わせる程の魔力の奔流を感じ、森の方をみると虹色の結晶が森を包むように輝いていました。圧倒的な力にも不思議と恐ろしさはなく、これが本物の結界なのだと理解したのです。」
「......」
古竜の力だからね...
「他にも実は違和感を感じていまして...」
「ちょ、ちょっと待って頂けますか。そういうお話を今日お会いしたばかりの私が聞いてよろしいのでしょうか。」
「だって私の相談役を引き受けてくださったのでしょう?」
また笑った...
だからこわいって。
「なんというか国の大事に関わることですし、情報漏洩に当たりませんかね。」
「それなら問題ありません、私の個人的な見解による疑問であり、何か確証がある話でもありませんので。」
嫌な予感しか致しません...
「はぃ……それで違和感と言いますと。」
もぅ諦めた。この人に対抗するには私は力不足だ。
「はい、おかしいのですよ。
実はこの国は古より“神に見捨てられた土地”として語り継がれて来ました。冬が長く厚い氷や雪が大地を覆い、実りは乏しく雪解けの季節には洪水で大きな被害が出ることも珍しくありません。」
うーん、ここの土地柄というかただの気象問題にしか聞こえないのは私だけだろうか。
「“神に見捨てられた”という程の事象でしょうか?」
大人しく隣で話を聞いているフリーンを見るが、彼女も眉間に皺を寄せている。(人型でも相変わらず可愛い)
「いえ、“神に見捨てられた”と言われる所以は別にあるのです。この国には救世主は現れません。」
はて?...
フリーンとともにコテンと首を傾げた。




