17 再び森と繋ぐ者
第2章スタートです。少々雰囲気が変わってまいります。よろしくお願いします!
ノルディア帝国皇帝の弟であるクラウディウスは、帝都の商人であるセゴルを訪ねて来た。
本来、城に呼びつければよいのだが、城は厄介事しかない。近頃は特に面倒事が立て込んでいて城の雰囲気は最悪だ。
クラウディウスも日々それらの対応に追われているが息抜きも必要だ。仕事に託けてうまく外出してきた。
「クラウディウス殿下わざわざお運び頂きありがとうございます。ようこそお越しくださいました。」
ヴァルン商会は服飾関係の商会で王族の衣装も仕立てている大店だ。店主のセゴルも利には敏いが筋の通った男で、下手な官僚よりずっと使い勝手が良い。
応接間に入り腰掛けるタイミングで給仕がお茶を持って入ってきた。紅茶は好きでよく飲むが紅茶の匂いではない。嗅いだことのない匂いのお茶だ。
共に饗された菓子も初めて見る物ばかりだ。
「カフェ・ラテというお茶でございます。お好みでこちらの砂糖をお入れください。」
セゴルがそう言いながら飲んでみせる。王族以外に毒味の文化はないが、初めての飲み物なので飲み方を私に教えるために毒味をしてみせたのだろう。
セゴルに習って四角い砂糖を1つ入れてかき混ぜてから飲んでみる。
「ふむ、初めて飲むが不思議な味だな。ミルクの味が濃い。その奥に苦味があるが嫌な苦味ではない。香りも悪くない。」
「ミルクを入れない元のお茶をコーヒーというそうですが、非常に苦味が強く、少し飲みづらいのです。ですがそれがクセになる方も多いとか。よろしければ菓子もお召し上がりください。」
勧められるまま見たこともない菓子たちに手をつける。
「これらは其方の家の料理人が作ったのか?」
どれもとんでもなく美味しい。
帝都では砂糖は比較的容易に手に入るが高級品には違いなく、貴族向けの菓子は砂糖の味を全面に出した頭の痛くなるような甘さの菓子が多い。クラウディウスは甘いものだけでなく、あまり食に興味が無い方だ。
だがこれらは非常に美味しいと感じた。こんな物を作れる人物が宮廷料理人ではないのが不可解だ。
「いえ、申し訳ございません、当家の料理人が作ったものではなく、購入したものでございます。」
「これが店で買えるというのか?」
「はい、全て同じ商会で購入致しました。カフェ・ラテもその店で淹れ方を教わりました。」
「ほう?ならなぜ貴族の間で流行っていないのだ。流行には早くとも噂も聞いたことがないぞ。」
基本的に珍しい物は皇帝に献上される。そして貴族の間で流行し、平民の富裕層へと降りていく。菓子に大した興味はないが、ここまでの品質の物をクラウディウスが全く知らないというのは有り得ない。
「それが...その店の店員はほとんどが亜人なのでございます。」
「......あぁなるほど、そういう事か。」
「ですが、これらの菓子を作っているのは亜人たちではなく、店主の女性だそうです。そのような商品を黙ってお出しして申し訳ございません。」
「構わぬ、私が気にしないのをわかっていてだしたのであろう。だが、なにが目的だ?其方がただ私に菓子の自慢をしたいとも思えぬし、今更亜人種たちの処遇に物申すということもあるまい。回りくどいことをせずに早く言え。」
「恐れ入ります。実はこれらの珍しい商品を扱ってる商会は…世界樹の森にあるのです。」
「なっ!どういうことだ!」
「その商会の店主は世界樹の森の管理人だそうでございます。僭越ながら、お会いしてみる価値はあるかと...」
「その商会について知っていることを全て話しなさい。」
世界樹の森。
誰も近づけぬ禁域...
その中から顔を出す者は帝国にとって光か闇か...




