10 管理小屋を建てましょう
今日はズルをして行くことにする。
家を出て少し歩き、人がいないところで異世界への扉の前に転移した。
家の中から一気に転移してしまう方が簡単なのだが、ここはド田舎。ご近所さんの目があり、車があって出掛けた様子がないのに何かの用事でピンポンされて出られないと居留守を使っていると思われてしまう。なのでご近所さんにさり気なく挨拶しながら家を出る必要がある。少々面倒だが今後もここで平和に暮らして行くつもりなのでご近所付き合いは大事だ。
というわけで今私はワンニャンと共に森の管理人用の敷地にいる。
私の別荘...じゃなくて管理小屋を建てに来た!
だがその前に...なんか景色がだいぶ変わっている気がするのだ。この敷地内以外は大地も枯れて瘴気に包まれ、澱んだ重い空気で息苦しいくらいだったのだが...
「ねぇ?フッラさん、フリーンさん?なんか変わりましたかね?...」
「はい。たった1週間で変わってしまいましたね...」
「私達も先程1週間振りに来たばかりですが、全然違いますね...」
3人(1人と2匹)で呆然としている状況だ。
1週間前とは違い、空気は澄んで明るい空が見え、管理人の敷地以外の所にも下草がチョロチョロと生えて、大地に色が戻ってきたように見えるのだ。なぜだ?
もしかして結界が効いてるのだろうか?とは思うが1週間でそんなに変わるわけないし...
「フッラさん、フリーンさん、あとでじじさまに聞きに行きましょう。」
「「そうですね」」
「とりあえず先に管理小屋を建てますね。」
管理人用の敷地内は前管理人が結界を張っていたので魔力豊富でもともと瘴気に染まっもいない。
建築資材も、持ってる!前の管理人の城の資材、買取に出さなくて良かった。これだけあれば豪邸も作れるが、私は庶民なので身の丈にあった別荘...管理小屋をつくる。
二階建てのログハウスで、1階はワンニャンも出入り出来るように広めの仕事部屋とLDKのみ。2階をプライベート空間とした。
魔法が無ければコツコツとDIYでログハウスを建てるのにどれだけ時間がかかることか...魔法最大値に感謝!
それにしても意外と広い敷地だな。敷地目いっぱいに城が建っていたので感じなかったが、ログハウスを建てると敷地の広さを感じる。前管理人の結界はぶっ壊したので、改めてログハウスを含めたこの敷地に私の結界を張った。
あっという間に出来上がった小屋を見上げて、急に嬉しくなった。異世界に来たことは実感していたが、問題ばかりで楽しむということを忘れていたのだ。せっかく有り得ない経験をしてるのに楽しまないのは勿体ないと今初めて気がついた。
何が原因か私の知るところではないが、枯れて澱んだ寂しい森を見て私も悲しくなっていたのかもしれない。知らなければなんとも思わないが、見て、関わってしまった以上どうにかできるものならどうにかしたいと、そんなことばかり考えていた。
でもチョロチョロと生えた下草や明るい空と、前管理人の城とは比べ物にならないくらい小さいけれど私の拠点を得て気分も少し明るくなった。
今度こそ異世界スローライフの第1歩だ。
拠点については色々やりたいこともあるが、先にやらなければいけないことがまだまだ有る。
「フッラさん、フリーンさん、じじさまの所へ、今日は私の転移魔法で向かいましょう?」
1度行った事のある明確な場所には簡単に転移出来る。私はワンニャンを連れて...
『じじさまの元に転移』
眩暈まではいかないが、一瞬バランスを崩したようなふわっとした感覚の後、辺りの景色が変わっていた。
変わっていたが...
景色というかじじさまが変わっていた!
「「.........」」
ワンニャンが「あ」という口のまま固まってしまっている。
じじさまの枝には夏も終わりだというのに緑の葉が満遍なく付き、それらの葉には朝の露が残って瑞々しい。じじさまの幹からも所々樹液が漏れ出ている。
周辺の土壌も色が付きふかふかと大地の呼吸が聞こえてくるのだ。
「こ、こっ、これは......」
おっと、いけない。私としたことが冷静さを失うとは...
「ごほん...じじさま、おはようございます。トワでございます。」
「おぉ、トワか。待っておったぞ。どうだ?若返ったであろう?」
「若返ったといいますかなんと言いますか…先日ご挨拶に伺ってから1週間しか経っていないのですが、少々変わり過ぎかと存じますが?何かあったのでしょうか。」
「ふむ。トワのお陰じゃよ。」
(やっぱり結界かー)
「トワのお陰で私の幹に宿るドライアドが目覚めたのじゃ。」
ん?えっと?...




