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世界樹の森、守ります。  作者: 杉本 雨
第1章 森の再生編

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1 すでにスローライフ満喫中

よろしくお願いします!

 

  (もり) 杜環(とわ)は一年ほど前両親が亡くなり、地方の田舎にある実家に戻ってきた。一人暮らしにはだいぶ広い家でフリーランスで仕事をして、暇が出来れば近くの寺巡りをする。

  そう!私は現代日本人が憧れる『田舎でスローライフ』を33歳にして叶えてしまったのだ


  今日も、近くの山の中にある、小さな頃から気に入っていた寺に向かっている。



  山の麓に車を停め、山道を登り、寺の入口を抜ける。

 夏も終わりほんの少し色付き始めた木々に囲まれた参道は薄暗く、

 さわさわと風が葉を揺らす音に自分の足音を合わせて軽快に登って行く。


  本堂の入口には

「参拝料 500円」

 と書かれた木の箱が置かれているだけで誰もいない。

 私は千円札を1枚入れて中に入り、

 御本尊である大日如来像の正面に座った。


  あー、疲れた。


  随分涼しくなったとはいえ、山道を30分ほど歩いたのでじんわりと汗をかいてしまった。


  それにもう33歳。基本、車移動の私には単純にキツイ...



  大日如来像に

「ちょっと失礼しますよ」

 と一応お断りして持ってきた水筒からお茶を飲む。


  はぁー生き返ったー。

  ここはいつも落ち着くわー。


  狭い本堂の中には今日も誰もおらず、自然の音すら遮断され、現世から切り離されたかのようだ。


  なんの音もせずただ静か......

 ...なはず、なのだが?



「ねーキミ!?ちょっと君に頼みがあるんだけど。」



  どこからか、声が?...


  私好みの重低音ボイスではなく、男性にしては少し高めの明るい声の元を探す。




 座ったまま、

 入口確認、

 覗き込むように本堂の奥も確認、


 ...よし、誰もいない。


 33で空耳とか始まるのか……

 ちょっとショック……


 まぁ人間誰しも老いる。

 仕方がない。


 気を取り直してお茶を飲む。



「もしもーし、聞こえてるよね?ここだよ、正面、目の前。」



 水筒から顔を上げると、正面の大日如来像の前にもうひとつ大日如来像が浮いているのだ。

 要するに2人?2体?いる。


 こわっ!


 と、思ったが私はもぅ大人なので驚いても口の中のお茶を吹き出したりはしていない。


 ごっくん。


 お茶を飲み込んで、


「あのー、大日如来様が話されているのですか?」

 と、別に大して驚いてませんよ〜風に質問してみる。


「違うよ。ボクはこの世界とは違う世界の神でシルヴァヌス。大日如来とは友人(友神)でね、君と話す為に体を借りたんだ。」


 たしか、どこかの神話で読んだ森林の神がそんな名前だったような...



「はぁ...で?」


「君、基本的に失礼だよね?」


 そんな事を言われても…

 なんというかこう、神様らしい威厳が無いのだ。

 そして本人(本神)ではないにしろ、大日如来様から発せられる声として、想像していたのと違いすぎて残念なのだ。

 さらに、この現象は誰かのいたずらなのでは?とも思っている。

 よって、このような反応になる...



「申し訳ありません。この状況に色々と疑問は感じておりますが、とりあえず神様が私なんかに何の御用でしょうか?」



「単刀直入に要件を言おう。君にボクの世界の森の管理人をやって欲しいんだ。」


「.........」


「実は今人手不足でね、一刻も早く管理人を探すように言われてるんだけど、神の眷属じゃないとあの森は管理できなくなっちゃって。でもボクの世界の眷属たちは皆忙しくてね、世界は跨いじゃうけど大日如来くんに相談したら眷属である君を紹介してくれたってわけ。ね?お願い!」


「...いや、お断りします。

 というか、そんな事より私、大日如来様の眷属なんかじゃないですよ?ただの人間です。」


「え?...君、大日如来くんの眷属ってきいたよ?知らなかったの?」


「え...本当ですか?どうして私が?」


「知らなーい。とにかくボクは君を紹介されただけもん。ね?やってくれるよね?」


  なるほど...

  この神様はたぶん使えない......

 会社勤め10年もやれば薄々わかる。

 この手の人にはあまり関わらないのがベストだ。



「とにかく。申し訳ありませんが異世界には行けません。仕事がありますし、家もありますので。他を当たってください。では失礼します。」


「ちょ、ちょっと待って!

 通いでいいから!暇な時だけでもいいから!どうせここに来るんだからついでにちょっと足を伸ばしてこっちの森まで来るくらいいいでしょう!?」


 そんなスポットバイトみたいな感じでいいわけがない!


 でも転生とかじゃないならいいか?

 とチラッと思ったが神様なのにとても必死な感じが胡散臭くてどうにも信用できない。


 いきなり異世界に召喚して、

 貴方は勇者です!聖女です!魔王を倒してください!

 などと言われないだけでも良心的と捉えるべきか判断に悩む。

 単純に異世界に興味はある。ないわけがない。


 うーん...でも



「すみません、やはりお断りします。」


  両親の他界と引き換えに手に入れた自由なスローライフ。異世界などという未知の物への好奇心に引っ張られて危険を犯すほど若くもないのだ。私は石橋は叩いても渡らないくらいの慎重派だ。理性も売るほど持ってる。

  帰ろう。


「ちょ、ホントにちょっと待ってよー。もぅ君以外いないんだ!話だけでも聞いてよー。凄い森だよ?広くて神秘的で実り豊かで。君、森とか好きでしょう?」


 ...正直、ちょっと惹かれる。確かに森は好きだし、異世界の神秘的な森を見て見たいと思うのは当然だろう。

 話だけでも聞くか...



  *******


 神様の話では。。。

 向こうの世界はいわゆる魔法と剣の世界だそうで文明レベルも低いらしいが、私は森から出る必要がないので余り関係ないのでは?とのこと。

 管理人として働いて欲しい森は世界樹がある異世界一の神秘的で資源豊富な森らしく、基本的に常に管理人を置いているが、前の管理人が半年ほど前に辞め、その後新しい人材が見つからずに放置されている。との事だった。

  報酬については、こちらのお金を与えることは出来ないらしく、その世界樹の森の実りを全て好きにしていいそうだ。


 ...うーん。またもや問題だ。詐欺の匂いがしてきた。報酬についてだ。

  もしかしたら破格の報酬かもしれない。だが、私はその森でどんな実りが手に入るのかがわからない。

 直接食べられる物にしてもそんなにたくさんは要らないし、こっちに持ってきて売れる物があるのかどうか?それにそもそも食べられる果実や木の実が全く成らない類いの森の可能性すらある。鉱物を掘るというのも却下だ。疲れるしこちらの世界で売りにくい。要するに紙一重だ。


「すみません、やはりお断りします。他の方を当たってください。」


  ちゃんと理性優勢だ。

  よし、帰ろう。


  出口に向かおうとする。


「まって!待ってよー。」

 もぅ何回目だ?このくだり...

「報酬が不満なら何か能力ならいくらでもあげるからー。」



 ...いやダメだろ。


  だがしかしだ。いくらでも貰えると言うならやりようはあるかもしれない...それにチート能力を使って異世界スローライフは鉄板だ。地球と異世界両方でのスローライフを同時進行なんて完璧過ぎる。夢が膨らみ過ぎて爆発しそうだ!


 よし!



 かくして私は週末バイトとして異世界の森の管理人になった。


 でも私いつの間にどうして眷属になんてなってたんだろう...




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