ミヨの妊娠と冬の備え
訂正 ヒイロ「石はあったかいまま、ゆっくり火をはなつよ。」→ヒイロ「火が弱くなっても、石があったかさを保つよ」
――ヒイロ(3歳)視点――
収穫祭から、どれくらい経っただろう。
あのときは、葉が赤く、風が冷たくなり始めていた。
今はもう、風が肌を刺すように冷たい。
朝になると、地面の草が白く凍っている。
吐く息が、白く膨らんで、すぐに空へ消えていく。
森の木々は、ほとんど葉を落とした。
枝だけになった木が、空に向かって手を伸ばしているように見える。
鳥の声も少なくなった。
代わりに、風の音がよく聞こえるようになった。
川の水は、夏よりもずっと冷たい。
手を入れると、すぐに痛くなる。
魚の姿も見えない。
母は「深いところに潜ってるのよ」と言っていた。
父は、石器の作業を減らし、狩りに出ることが多くなった。
「冬は、動物の脂が多くなる」と言っていた。
母は、干した肉や魚を布で包み、棚にしまっていた。
保存食が、命をつなぐ季節になったのだ。
兄ソウは、外で遊ぶ時間が減った。
代わりに、家の中で縄を編んだり、木の枝を削ったりしている。
自分も、火のそばで座っている時間が長くなった。
寒さが、体の動きをゆっくりにする。
冬の深まりを前に、囲炉裏の火が消えないかと心配になる夜が続いていた。
住居の中央に掘られた単式炉は火の番をすれば暖かいが、火が弱くなるとすぐに冷え込む。
記憶の中の知識が、頭の中でひらめいた。
ヒイロ(小声で)「炉のまわりに、大きめの石を並べたら……熱がながもつかも」
翌朝、自分は母ミヨと父ヨリヒロに提案を持ちかけた。
ヒイロ「ちち、はは。この石を、炉の外かべにおいてみてもいい?」
ヨリヒロ「石を置く……どうしてだ?」
ヒイロ「火が弱くなっても、石があったかさを保つよ」
父は少し考えて、村長にも相談してくれた。許可はすぐに下りた。
村長「おもしろそうだ。火が弱くなった夜も、石が熱を保ってくれるか、試してみなさい」
兄ソウと一緒に、川辺から大小さまざまな丸石を集めた。
自分たちは炉のまわりに列を作るように石を並べる。
石は炉床からほどよく離し、火が直接あたる範囲を覆うようにした 。
そして冬本番。
ある晩、火が小さくなってからも、石がほんのり赤く光っている。
母が息を吹きかけて確かめた。
ミヨ「前よりあったかいね。足元までじんわりくるよ」
ヨリヒロ「確かに。火の大きさを気にせずにすむな」
自分は囲炉裏の端に座りながら、心の中でつぶやいた。
「やってよかった」
小さな工夫が、家族を冷えから守った。
冬は厳しい季節だけれど、知恵を試して、改善することで、確かに暖かさを延ばせる。
それを、自分は証明できたのだ。