表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

ミヨの妊娠と冬の備え

訂正 ヒイロ「石はあったかいまま、ゆっくり火をはなつよ。」→ヒイロ「火が弱くなっても、石があったかさを保つよ」

   ――ヒイロ(3歳)視点――





 収穫祭から、どれくらい経っただろう。

 あのときは、葉が赤く、風が冷たくなり始めていた。

 今はもう、風が肌を刺すように冷たい。

 朝になると、地面の草が白く凍っている。

 吐く息が、白く膨らんで、すぐに空へ消えていく。


 


 森の木々は、ほとんど葉を落とした。

 枝だけになった木が、空に向かって手を伸ばしているように見える。

 鳥の声も少なくなった。

 代わりに、風の音がよく聞こえるようになった。


 


 川の水は、夏よりもずっと冷たい。

 手を入れると、すぐに痛くなる。

 魚の姿も見えない。

 母は「深いところに潜ってるのよ」と言っていた。


 


 父は、石器の作業を減らし、狩りに出ることが多くなった。

 「冬は、動物の脂が多くなる」と言っていた。

 母は、干した肉や魚を布で包み、棚にしまっていた。

 保存食が、命をつなぐ季節になったのだ。


 


 兄ソウは、外で遊ぶ時間が減った。

 代わりに、家の中で縄を編んだり、木の枝を削ったりしている。

 自分も、火のそばで座っている時間が長くなった。

 寒さが、体の動きをゆっくりにする。



 


 冬の深まりを前に、囲炉裏の火が消えないかと心配になる夜が続いていた。

 住居の中央に掘られた単式炉は火の番をすれば暖かいが、火が弱くなるとすぐに冷え込む。

 記憶の中の知識が、頭の中でひらめいた。


ヒイロ(小声で)「炉のまわりに、大きめの石を並べたら……熱がながもつかも」


 


 翌朝、自分は母ミヨと父ヨリヒロに提案を持ちかけた。


ヒイロ「ちち、はは。この石を、炉の外かべにおいてみてもいい?」


ヨリヒロ「石を置く……どうしてだ?」


ヒイロ「火が弱くなっても、石があったかさを保つよ」 

 


 父は少し考えて、村長にも相談してくれた。許可はすぐに下りた。


村長「おもしろそうだ。火が弱くなった夜も、石が熱を保ってくれるか、試してみなさい」


 


 兄ソウと一緒に、川辺から大小さまざまな丸石を集めた。

 自分たちは炉のまわりに列を作るように石を並べる。

 石は炉床からほどよく離し、火が直接あたる範囲を覆うようにした 。


 


 そして冬本番。

 ある晩、火が小さくなってからも、石がほんのり赤く光っている。

 母が息を吹きかけて確かめた。


ミヨ「前よりあったかいね。足元までじんわりくるよ」


ヨリヒロ「確かに。火の大きさを気にせずにすむな」


 


 自分は囲炉裏の端に座りながら、心の中でつぶやいた。

 「やってよかった」


 小さな工夫が、家族を冷えから守った。

 冬は厳しい季節だけれど、知恵を試して、改善することで、確かに暖かさを延ばせる。

 それを、自分は証明できたのだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ