隣の集落の交易
みてくれる人っているんだな。
誤字ヨリヒロ→ヨリナリ
最初の声帯の描写少し変更しました。
――ヒイロ視点――
転生してから1ヶ月が経過した。
声帯を慣らす練習と発音の反復で、いまではほとんど大人と同じように会話できるようになってきた。戸惑いはまだ残るものの、声に迷いはない。
今日は家族と、役目を終えた石器を貝塚に戻しに行っていた。
その石器は、刃が欠け、削れて、もう使えない。
でも、それは“捨てる”んじゃなく、“戻す”ことだった。
石は、また土に還る。
帰り道、集落の西にある踏みならされた細道から、数人がかごを背負って向かってくるのが見えた。
地面は人の足で固められ、草はまばらにしか生えていない。
交易路として使われているらしく、道の両脇には踏み分けられた跡が続いていた。
「ちっちー、あっちから、だれかむかってきたよー。」
自分がそう言うと、父ヨリナリは目を細めて、ゆっくりと歩みを止めた。
そして、穏やかに答えた。
「隣の集落の人たちだよ。ときどき、こうして来てくれるんだ。
彼らは、何か持ってきて、こっちの物と交換していく。まあ、助け合いみたいなもんだな。」
彼らの背負ったかごを見つめながら、頭の中で言葉を並べた。
(交換……助け合い……もしかして、交易?)
でも、確信はなかった。
教科書に載っていた“物々交換”のイメージとは、少し違って見えた。
集落の広場に着くと、村長がすぐに姿を現した。
「おう、ヤマト。道中、雨に降られなかったか?
それに、ミナも元気そうだな。腰の貝飾り、前より増えたか?」
村長は、かごを下ろした男と女に声をかけた。
ヤマトは、肩まで伸びた黒髪を後ろで束ねていて、額が広く、目元は鋭かった。
鹿革のベストを羽織り、腰には小刀を差している。
言葉に迷いがなく、動きに無駄がない。
ミナは、肩にかかる髪を木の実の飾りで留めていて、頬が丸く、笑うとえくぼが出た。
編み布の腰巻に、貝殻のアクセサリーをつけていて、話すときに少し首を傾ける癖がある。
若さと柔らかさがあって、見ているだけで気持ちが和らぐような人だった。
「道は乾いてたよ。風が強かったけど、歩きやすかった」
ヤマトが答えると、ミナが笑って言った。
「この貝、昨日採ったばかりなの。水が澄んでて、よく見えたのよ」
村長はうなずきながら、少し声を落として言った。
「さて、こっちは石器が揃ってる。見てってくれ。
それと、貝は、こっちじゃ採れないから助かるよ。」
その言葉を聞いて、ようやく自分は理解した。
――やっぱり、交易だったんだ。
でも、それは教科書に書いてあった“物々交換”とは違っていた。
誰も、数を数えていない。
誰も、損得を気にしていない。
ただ、必要なものを渡し、必要そうなものを受け取っていた。
それは、交換じゃなくて、助け合いだった。
足りないものを補い合い、余ったものを分け合う。
そのやりとりに、値段も条件もなかった。
自分は、現代の感覚で考えていた。
価値が釣り合えば、交換は成立する。
でも、この世界では、それだけじゃ足りない。
たとえば、貝の数が少なくても、渡す。
石器の刃が少し欠けていても、受け取る。
それは、“関係”が価値を補っているということだった。
ヒイロ(なるほど〜、前世でいうご近所付き合いみたいなものか)
かごの中の物よりも、彼らの目を見た。
その目は、探っていなかった。
疑ってもいなかった。
交易は、物を渡すことだけじゃない。
関係をつなぐことだ。
初めての交易を見学しながら、静かに思った。
この世界で生きるには、知っているだけじゃ足りない。
“感じること”が、何よりも大事なんだ。
AIってユーモア豊富過ぎる。