日常の煌めき
◇ ◇ ◇ヒイロ(13歳)視点◇ ◇ ◇
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緑影村の日課
早朝、まだ淡い桃色の空を背に、ヒイロは目覚める。
薄手の鹿革衣を身に纏い、村外れの清流へ駆け出す。
川岸に跪き、両手ですくった冷たい水で顔を洗うと、頬にまとわりつく眠気が一気に引いていく。
水音の合図とともに、声をかけ合いながら大人も子も村道を行き交う。
「おはようございます!」
「おはよう、ヒイロ」
挨拶を交わしつつ、今日の田んぼの様子を確かめに畦へ向かう。稲は葉先を朝日に透かし、昨夜の露をきらきらと湛えている。
畔の草を手で刈り取り、水路を泥で詰まらせないように掃くのが朝の務めだ。
日が高くなると、村の二食制に従い、最初の食事。
・焼き川魚に塩融けした灰を一つまみ
・山栗やクルミをすり潰したペースト
・乾燥肉を細かく裂いたもの
静かに噛みしめ、脈打つ空腹が満たされるのを感じる。
その日の夕方は、兄の配偶者が村の長老たちによって正式に決まり、ささやかな祝宴が開かれた。
兄の笑顔に村人が杯を上げる中、ヒイロは思った。
(僕は、いつか自分の伴侶を迎えられるのだろうか…?)
夕闇に灯る松明のもと、未来に思いを巡らせながら、ヒイロの瞳はひそかに宙を泳いでいた。
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交易の旅:潮声村
別の日、ヒイロと村長は獣の皮や石器そしてヒイロが作った道具などを蔓で編んだ籠に入れて、潮声村へ。
村に着くと、ヤマトとミサが手を振って出迎えてくれる。
「おや、ヒイロじゃないか!」(ヤマト)
「久しぶりね。元気そうで何より」(ミサ)
その後ろから8歳の時に会った頃より少々大人びを帯びているように見えた。
リノは、当時の人見知りが嘘のように、ヒイロを見るとにこりと笑う。
「ねえ、ヒイロ。あの頃よりずっと背が伸びたわね」
ヒイロは胸の奥がきゅんと熱くなるのを感じる。
(リノにとって、僕はもう“あの小さかった子”じゃないんだ…)
二人の会話は、交換する土産から次の祭り、互いの趣味へと広がる。
未来の仲間であり、いつか特別な誰かになりそうな予感をふたりは胸に秘めていた。
海辺の釣り体験
そして潮声村の漁場へ足を伸ばすヒイロ。
岩場で魚を網ですくうおじさんに、体験を勧められる。
「ほら、こっちに来てごらん。手ほどきしてやるよ」
ヒイロが網を引くと、深い紺色の波間から銀鱗を輝かせた大物が跳ねる。
「うわっ、すごい!」
おじさんも目を見開き、一緒に力を合わせて魚を引き上げると、二人は膝をついて大きな魚を抱える。
「見たか、今日はお前さんのおかげだ!」
「ありがとうございます!これで村のみんなが歓声を上げてくれるはずです」
夕風に乗って磯の香りが漂い、ヒイロの胸には誇らしさと、誰かと分かち合う喜びが広がっていった。
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災害対策の協議:黒川村
また別の日、ヒイロは黒川村を訪れ、村長以下の代表たちと語り合う。
背景には、近年の大雨や地滑りの危険が囁かれている。
「堰が決壊したら、田んぼも畑も崩れてしまいます」(村長)
「堰の補強だけでなく、早めに余水路を掘るのはどうでしょう」(ヒイロ)
ヒイロの提案に、幾人かが頷く。
「余水路なら雨が降る前に掘り始められるな」(長老)
「若い者を集めて管理すれば、日々の水量も見張れそうです」(青年代表)
ヒイロは川沿いに草刈りを薦め、「上流に小さな木製の柵を組めば流木も防げる」と続ける。
会議は熱気を帯び、黒川村の人々はそれぞれの立場から知恵を出し合った。
夕暮れ、語らいを終えたヒイロは村人たちの背中を見送りながら思う。
(村を守るために、僕にもできることがある。いつか、この力をリノのいる潮声村にも還元したい)
小さな声が、流れる川音に溶けていった。
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こうしてヒイロの毎日は、朝の清流から夜の語らいまで、
誰かのために動き、誰かと心を交わし、未来の種をまいている。
その一日一日が、やがて大きな実りとなって実を結ぶだろう──。この日常が続いてくれると良いな。




