田畑に伸びる手
インゲンやエンドウ→ツルマメや小豆です間違えました。
◇◇◇ヒイロ(13歳)◇◇◇
黒川村を救ったあの日から数えて二日後の早朝、ヒイロは田んぼの畦道に立っていた。
かつて、連作障害を防ぐために豆科作物を植えたかったものの、人手が足りずに断念したあの畔だ。
「さあ、こっちへ集まって」
声の先には、五年前にはまだ幼く手伝えなかった子どもたちがいる。
今ではちょうど田仕事に向く年齢になり、腰をかがめる姿にも頼もしさが漂っていた。
ヒイロは鎌を手渡しながら説明する。
「まっすぐ溝を切って、この列にツルマメや小豆を交互に蒔こう。根が土をほぐしてくれるから、田んぼを休ませる期間が今までの二年から一年に短縮できるんだ」
子どもたちは鍬を動かし、土を軽やかに返す。
種を指先でつまみ、一粒ずつ等間隔に落としていく手つきは、初めこそぎこちなかったが、やがて息が合い始める。
ゆるやかな坂を汗で濡れた頭巾が伝い、畔に植え終えた苗が朝露に光る。
ヒイロはほっと笑みをこぼした。
「これで、今年からはもっと早く米を植えられる。収穫も増えるはずだ」
胸の内には二つの感情が交錯する。
ひとつは、米の生産量が上がることへの純粋な喜び。
もうひとつは、子どもたちが本来なら家の内職や竪穴住居の補修に手を貸す年齢なのに、外の畔仕事に引き出してしまった申し訳なさ。
子どもたちが畔で笑い声を上げながら土をならす背中を見つめ、ヒイロはつぶやいた。
「本当は、家で手伝うべき仕事があるだろうに……」
朝日を浴びた田んぼには、新たな種と子どもたちの成長をつなぐ未来の希望が静かに根を張っていたが、少年の胸にはまだ少しのもやもやが残っていた。




