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黒川村の見学

夏の名残が残る早朝、ヒイロ(8歳)と村長は、静かに開かれた黒川村の門を抜けた。一歩踏み出すと、盛夏の陽射しを受けて、濃い緑の森の奥に点在する家々が見渡せる。


「こちらが村の中心だ」

ガイドを務めるケンが、にこりと笑って言った。長い髪を骨製の玉で束ね、腰の鹿皮腰布に手を当てる。


──農地はなく、山裾へ細く延びる川が村の命脈──


岸近くには魚骨を干す網棚がずらりと並び、陽射しを遮る屋根もなく、ただ炎天下に網が張られている。


ケン

「ここでは魚の燻製が主食だ。川で捕った魚をあの棚に並べ、天日乾燥した後、低温でゆっくり燻すんだ」


村長は網棚を見上げながら頷く。


村長

「緑影村では燻製棚に屋根をつけていたが、日光の通りを重視するのですね」


隣ではヒイロが目を輝かせている。


ヒイロ

「屋根を外すことで煙の回り方も変わりそうです。そのまま石で囲ったかまどで炊くんでしょうか?」


ケンは手を広げて案内を続けた。


ケン

「そうだ。棚の下には石を組んだ竈が二つある。燻し終わったら火を強め、一気に仕上げる」


──土器と陶炉の並ぶ作業場──


小道を進むと、広場の端に灰色土器を日光浴させる台がある。黒川村自慢の色を生む陶炉は、乾いた草を燃料にし、小石を積んだ縄文式。



ケン

「祭りが終わったら君の方法も試させてもらおう。でも、灰の配合は村ごとに秘伝だから、うまくいくかは分からんよ」


広場の奥では数人の村人が、細い竹を編んで魚かごを仕立てている。女性たちの手際には年季が感じられ、編み目の隙間は一切ゆるみがない。




ヒイロ

「(この編みかごも、僕の知識で改良できるかもしれない)」



歩みを止めたヒイロの横で、村長が低い声で話す。


村長

「黒川村には、改良を歓迎する者と、守るべき伝統を重んじる者がいる。今日の見学で、それぞれの価値観に触れておくといい」


その言葉を聞き自分の心に罪悪感が湧いた。


──見学を終え、夕暮れが迫る──


最後に案内されたのは、小さな広場。年に一度、魚と土器を並べて祈りを捧げる祭壇だ。土器の灰が織りなすグラデーションは、緑影村にはない色合いを見せている。


ケンは手を触れながら言った。


ケン

「祭りの頃には、君の知識も交えて盛大に祝おう」


互いの村を結ぶものは技術だけではなく、祈りと遊び、手仕事に宿る心なのだと、改めて実感する。

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