慎重の扉
夏の終わりの早朝、ヒイロ(8歳)は村長を伴い、黒川村への正式訪問に向けて緑影村を出発した。山裾へと続く細い道を踏みしめながら、ヒイロは心の中で問いかける。
「どうして黒川村の人たちは用心深いんだろう?」
二人は足元の小石を砕く音を聞きながら、言葉少なに北へ二時間近く歩いた。道沿いの草いきれ、背後に沈む日差しが、静かな緊張を増していく。
やがて視界が開け、幹を組んだ門が見えた。門前には三人の村人が立ち、表情は礼儀正しいが、その目だけは慎重にこちらを見定めている。
迎えの村人の一人が深く頭を下げた。
「緑影村の村長様、そして……少年。よくおいでくださいました」
ヒイロの村長は一礼し、続けてヒイロも静かにお辞儀を返す。
門の奥から一歩ずつ現れたのは、黒川村の長──堂々とした風貌の男だった。
• 身長は高く、肩幅が広い。
• 鋭い目つきの下、頬に走る狩猟傷が威厳を漂わせる。
• 身には灰色の獣毛のけもの毛布をまとい、腰には重厚な石製ナイフを帯びている。
長は低い声で告げた。
「緑影村の村長殿、ヒイロ殿、ようこそ黒川村へ」
ヒイロの村長は改めて深くお辞儀をし、口を開く。
「本日は正式にご挨拶申し上げます。どうか村を見せていただけますでしょうか」
黒川村長は無言で門番を頷かせ、一瞬だけ村人たちの視線が交差した。表面上の歓迎と、目の奥に残る警戒心。その狭間で、門はゆっくりと開かれていった。
門口に立つヒイロは、村長の背中を見ながら思う。
「この先で何が待っているのか。きっと、僕の知らない価値観に触れるはずだ」




