村を潤すためのため池
――ヒイロ(8歳)視点――
春風が山間を吹き抜け、植物の蕾は花を咲かせる。
ヒイロは今はまだいいがいつか、災害が起きた時のためのことをしないといけないと考えており、村長や父に向かって進言する。
「これから水田を維持するには、雨任せじゃ足りない。山手にため池を作りたいんだ」
父ヨリナリと村長は目を見合わせ、静かに頷いた。
「お前の考えなら、きっと村の力になるだろう」
ため池づくりの計画と着手
翌日、父、兄、アサトさん、村人数名と共に山手の緩い斜面へ向かう。僕は石器片で地面の草を払い、周りの木々を少しだけ伐採しながら説明する。
「まず、谷からの小川を堰き止めるために、石と土で堤を築きます。粘土質の土で隙間を埋め、石を重ねて水漏れを防ぐんです」
みんなは腰を下ろし、僕の手順通りに土を掘り、石を並べた。背後の斜面に掘り込んだ水路からゆっくり水がせき止められ、地面が潤いはじめる。
水質を守る知恵
ため池は溜めただけでは泥だらけになってしまう。僕は続けて言った。
「水質を保つには三つのポイントがあります。
1. 取水口に枝葉や砂利をはさむ網代代わりの編み袋を置く。
2. 週に一度、水位が下がったら溜め池の底を掘り返して堆積物を取り除く。
3. 葦や浮き草を少し植えて、魚やカエルを呼び込むと、水の循環がよくなります」
兄もアサトさんも真剣な表情で頷き、村人たちが手際よく網代を組んだり、葦の苗を池縁に植えたりしていく。
石に描いた管理の絵
ただ口頭で伝えるだけでは忘れられるかもしれない。そこで僕は、管理の手順を絵に描いた。
• 池縁の大きな石に、竹竿で水位線を刻む
•もう一つの大きな石には、炭で「取水口掃除の網代」や「底さらえの日付」を描く
• 石畳の入口には、小石を集めて「底さらえ→網代交換→葦植え」の順序を示す矢印を並べた
ため池縁の大岩に炭で線を描いた直後、ヒイロは立ち止まって考えた。
「雨で消えたら意味がないな…」
鹿角ナイフで四角い枠を大岩に彫り込み、赤土を擦り込む。
「これで溝の中の赤が雨に流れにくくなるよ」
傍らの楢板には、樹脂と炭を混ぜたもので管理手順の図を塗り込み、杭に吊るして完成。村人は改めて頷き、ヒイロの工夫に感心を口にした。
こうして耐久性を高めた記録が、雨季のたびに村を潤す知恵として長く受け継がれていく。
村人たちは僕の手際に目を見張り、炭書きの絵を指差しながら感心する。
アサトは頷きながら言った。
「これなら誰でもわかる。次の世代にも残せる工夫だな」
村長は満足そうに石の水位線を撫で、僕に微笑んだ。
「ヒイロ、お前は言葉だけでなくかたちでも教える。村の宝だ」
僕は胸を張り、静かに頷いた。
(これで雨が少ない年も、水を安定して田んぼへ引ける)
ため池に映る青空は、稲作への新しい一歩を確かに約束していた。




