初めて知る村の名とヒロイン?
――ヒイロ(7歳)視点――
貝塚の外れから尾根道を下りきると、潮風が混じる砂利の広場に出た。網を編む手も、貝を割る手もぴたりと止まり、村人たちはこちらをじっと見つめている。
「おや、緑影村のヨリナリさんと村長じゃないか」
「今日は坊やも一緒か」
ヤマトとミナはときどき僕の村で交易をしてくれているので、僕のことを名前で呼んでくれる。けれど、この村の他の人たちには僕の顔は初めてだったらしい。僕だけが、この場で知らない存在なのだ。
ヤマトが大股で駆け寄り、にこりと笑いかける。
「ヨリナリさん、村長、お久しぶりです。今日はヒイロ坊やも来てくれたんですね」
ミナも手を振りながら続ける。
「ヒイロ坊や、ずっと会いたかったわ」
このとき、初めて耳にした言葉があった。村人たちが口々に繰り返す――
「ようこそ、潮声村へ」
僕はぎゅっと唇をかみしめる。
(潮声村? ぼく、村に名前があったなんて知らなかった)
同じように、最初に村を出る前も、僕の村にも名前があるとは思っていなかった。
今日、ヤマトとミナが呼んでくれたときに初めて、「ぼくは緑影村のヒイロなんだ」と実感した。
そのとき、ヤマトの足元で小さな影が顔をのぞかせた。
肩まで届く黒髪を低い位置で束ね、頬に薄くそばかすが散る。瞳は深い藍色で、まるで潮の色を閉じ込めたみたいだ。人見知りらしく視線をすぐに伏せている。
ヤマトがそっと手を添え、紹介した。
「こちらは娘のリノ。今日は坊やを案内してくれるんだ」
ミナも微笑みながら頷く。
「リノは恥ずかしがり屋だけど、頼りになる子よ」
村長が大きく手を振る。
村長「ひとまずここで休んでいきな。取引はこの後だから、喉を潤してからゆっくりしなさい」
ヨリナリも笑顔で言った。
ヨリナリ「初めての潮声村だ。楽しんでおいで」
ヤマトがリノの頭をそっと撫でると、リノはうつむいたまま小さく息をつき、よろよろと頷いた。
リノ「……はい、わかりました」
僕は深呼吸して前を向き、リノに微笑みかけた。
ヒイロ「はじめまして。ぼくはヒイロです」
リノは頬を赤らめ、額の髪をかき上げながら答える。
リノ「リ…ノです。よろしくお願いします」
ぎこちない自己紹介が終わると、不思議な安心感が胸に広がった。
リノはそっと道を指し示す。
リノ「こっちです。集落の中央へは、この小道をまっすぐ進んでください」
僕は笑顔で頷き、リノの後ろ姿を追った。
初めて知った「緑影村」と「潮声村」の名前を胸に刻みながら、これからの散策に胸を弾ませる。潮風と波音が、僕の冒険心をそっとくすぐっていた。
冷たい飲み物を一気飲みしたせいで声掠れて、喋ると咳が出てまう。くるし〜




