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第一王子は婚約者を溺愛しているようです

「シルフィ・ブレスエッタ!!私は君との婚約を、今ここに破棄させてもらう。」


クロアナント王立学院の卒業パーティーで、私ことアイン・クロアナントは、銀髪碧眼の婚約者へと告げた。こんなことを自分で言っていて、本当に愚かだなぁと思う。


そんなことを告げて、私は私の右腕に腕を絡みつけている、聖女(笑)に目を向ける。


(ほんとに、淑女らしからぬ行いだ。コイツを見ていると、他の貴族の息女たちがどれだけ勉学に励んでいるかよく分かる。まぁ、コイツとの関わりもこれで最後だ。少しは我慢しよう。)


目の前で絶句している愛しの婚約者…シルフィに目をやると、信じられないといった表情をしていた。


(分かる、分かるぞ。今、自分でこうしていて、どれだけ理解できないことをやっているか、よく分かる。だが頑張って、耐えてくれ。君にこんな姿を見せるのも、あと数秒だからな。)


愚かな聖女(笑)が嘲笑を含んだ目で、我が婚約者を見下している。


あぁ、今すぐにその首を斬り落としたい。まぁそれもすぐにできるか。それに今からその目を向けられるのは、君になるというのにね…愚かな聖女(笑)よ。


口にゆっくりと笑みを浮かべる。そして俺は、さっきよりも少し大きな声で、ざわつく会場に声を響かせた。


「だなんて言うと、思ったか?」


私の口から出る、否定の言葉。それにより、さらに会場はざわつく。だがまったくひどい話だ。今までの私とシルフィの仲の良さを知らないから、私が婚約破棄をすると思うのだよ。


情報収集能力が落ちていると見るべきだな。この後、宰相にでも言っておくとしよう。


「えっ?えっ?どういうこと!?アイン、なんのつもり!?」


状況についていけていない聖女(笑)に、私は優しく不敬罪にならないよう告げてあげる。だって不敬罪程度だったら、苦しまないだろう?


コイツにはもう少し、苦しんでもらわないと困るんだよ。シルフィがやられた嫌がらせ以上に…ね。


「私の名前を気安く呼ばないでくれないか?不敬罪だぞ…聖女(笑)様。」


私から向けられる冷たい瞳を見て、ようやく少しは理解できたらしい。目に涙をためて、無駄に着飾ったドレスを揺らし、こちらへ怒鳴る。


「アインは私と愛を誓ってくれたじゃない!!それなのに、それなのにこんな女を選ぶっていうの!?」


死ぬのは変えるつもりはなかったが、少し手心を加えようと思っていた私がバカだったようだ。シルフィをバカにしたからには、簡単に殺す気はなくなった。冷たく研がれていく心に同調して、私は低い声で聖女(笑)に言う。


「君と私が愛を誓い合った?何を言っているんだい?嘘はやめてもらおうか。私が愛を誓ったのは、シルフィだけだ。それに私は、私の友人だけではなく、私の婚約者をもバカにする人間とは、愛が誓えるとも思えないしな。」


そう言って、聖女(笑)に背を向ける。外にいた衛兵が手はず通りに、外へと連行していく。それを見届けることなく、私はシルフィのもとへと歩く。


「本当にすまなかった。」


そう言って、頭を下げる。周囲が、再びざわつく。それほどまでに、王族が頭を下げることは異例なのだ。


だが愛している人のためならば、それくらい何度でもやろう。それが私の誓いなのだから。


「謝って、許してもらえるとは思っていない。もし私のことが嫌いになったのならば、私の責任で婚約破棄をしよう。君には、一切の責任はないのだから。」


ふふっ、と笑う声が聞こえる。それは私が初めて好きになった人の声。私の好きな声。


「頭をお上げになってください、アイン様。」


頭を上げると、私の好きな人の、私の一番好きな表情があった。それは満面の笑顔。そう、彼女のこの表情を見るために、私は日頃から努力をしているのだ。


先ほど彼女にあんな顔をさせたのは、婚約者として…それ以前に彼女を愛する人として、あるまじき行為だったな。


「私はアイン様との婚約を破棄する気などありません。貴方が私を愛してくれているのを、知っているからです。これからも貴方が私を愛してくれるのなら、私も貴方を愛し続けます。」


私は即座に答えていた。


「あぁ、それなら誓おう。私は君を生涯愛し続けると。だから私のそばにいてくれるか?」


「えぇ、生涯貴方のそばにいると、誓います。」


その日、私たちは愛を誓った。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


あれからの日々は忙しかった。聖女(笑)に加担していた貴族の粛清。シルフィの親への謝罪。そしてシルフィとの結婚の準備。だがあれらの忙しかった日々も、この日のためだったと思うと、なかなかに良いものである。


天気は快晴。私は柄にもなく緊張していた。まぁそれも当然かもしれない。大好きな人との結婚式だからだ。花嫁衣装を纏っているシルフィが、こちらへとやってくる。


その姿を見た瞬間、私は無造作につぶやいていた。


「綺麗だ。」


神よ…こんなに美しい人が私の妻になるなんて、とてもうれしいです。この祝福に感謝を。


シルフィが私の服装を見て、つぶやいた。


「アイン様も、かっこいいですよ。」


私の妻になる人は、本当にかわいい。私はシルフィに手を差し伸べる。


「さぁ、行こうか。私の、そして私の愛しき人である君の、人生で唯一の日だ。最大限、楽しもう。」


シルフィは笑顔で、私の手を取る。その手を引っ張って、私たちは会場へと出た。数多の人の拍手が私たちを出迎える。その全ては、小さな頃から見知った貴族たちの顔もあれば、大粛清によって新たに生まれた知らない貴族の顔もある。


だが誰もが、笑顔で私たちに拍手を送っている。裏では祝福していないかもしれない。それでも私たちの結婚式で、嫌な顔をしている人がいなくてうれしかった。


「アイン・クロアナント、貴方は妻となるシルフィ・ブレスエッタに愛を誓いますか?」


「はい、誓います。」


「シルフィ・ブレスエッタ、貴女は夫となるアイン・クロアナントに愛を誓いますか?」


「はい、誓います。」


「それでは誓いのキスを。」


ゆっくりと、私はシルフィの唇に、自身の唇を重ねた。それはほんの一瞬。しかしそれが今までで一番幸せだった。


シルフィが満面の笑顔で、言葉を紡ぐ。


「アイン様…私、今すごく幸せです。」


「私も、すごく幸せだよ…シルフィ。」


そう言って、共に笑い合う。


彼女と一緒に人生を歩んでいけること、それが今はなによりも嬉しかった。たとえどんなことがあろうと、私はシルフィを愛します。なので見守っていてください…神さま。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


あれから八年が経った。私は王立学院を卒業したタイミングで王太子となり、それから結婚した一年後に王となった。


私たちは子宝に恵まれた。シルフィは男の子を一人、女の子を二人出産した。ほんとに感謝したい。


一番最初に産まれた長女であるフィーナは今年で6歳。次に産まれた長男であるアベルは4歳。その次に産まれた次女であるシャルルは3歳だ。そして今、シルフィのお腹の中には、次男である男の子がいる。ほんとにありがたい限りである。


子どもたちを寝かしつけているシルフィを見ながら、私は執務を進める。シルフィの表情は慈愛に満ちあふれている。ふと、口から言葉が漏れ出てくる。


「好きだよ、シルフィ。」


ぱっとこちらへ顔を向けてくるシルフィ。そして上品に笑って、言う。


「私も好きですよ、アイン様。」


こんなに良い妻をもらい、子宝にも恵まれて、私はほんとに幸せ者だな。こんな幸せをくれた神に、そしてシルフィに感謝を。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


アインたちが暮らす世界とは、どこか遠くの別の世界。そこは神と呼ばれる上位存在が暮らす世界だ。


神の助手である一人の天使が、神に大きな声で告げる。


「第一〇八七世界、クロアナント王国の王太子アイン・クロアナント。無事に結婚しました。」


その言葉に、嬉しそうに微笑む神。それはまさに慈愛の女神といえるような表情。


「彼もここまで成長しましたか。私を助けてくれたあの時とは、もう身体の大きさが違いますね。さて、これから幸せになるかどうかは、貴方次第です。まぁ大丈夫だとは、思いますけどね。私の加護も最小限の中、最高の未来を手繰り寄せたみたいですし。」


その神は、かつてアインに助けられた。それがなにかは語られない。しかしアインは、神に見守られている。


「これは貴方の物語です。これからも頑張ってくださいね。」


これからどんな物語が紡がれるのかは、分からない。それはまさに神のみぞ知ることだろう。



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