第八話 「歴史の勉強」
浴室…大浴場の掃除を終えたケイは昼食の食卓についた。しかしこれはあくまで毒味ということらしくアウロナとレオヴァルドはまだいない。つまるところケイは今校長先生の給食毒味の仕事をしているわけだ。
「これも仕事の一環とはね…美味いけど」
「当たり前です。ルナが作ったのですから。それよりもまさか浴室の掃除を半日足らずで終わらせるなんてお客様すごいですね。」
ケイのことを褒めたのは姉妹メイドの妹ルナだ。ケイは初めてのお褒めの言葉に少しニヤつきながらパンを貪る。
「んっふっふ。そりゃあめちゃくちゃ頑張ったからな。これはご褒美が欲しいところだぜ…」
「お客様、サナに文字表を書かせている分際で偉くなったものね。」
ケイが調子に乗るとすぐさまルナの隣に立つサナから毒が飛んでくる。これが毒を飛ばす毒舌女である。
「はいはい。すみませんね。ていうかそろそろお客様呼びやめない?距離感じるんだけど…」
「お客様は距離をなくせばサナたちに襲いかかるでしょ?」
「襲わねーよ!!」
「でも確かにお客様の言うことにも一理ありますね。ではこれからルナはお客様のことをケイくんと呼びますね。」
「おお!なんか良い!!サナは?」
「サナはケイと呼ぶわ軽蔑の意味を込めてね。」
「酷い!!姉様ケイくん泣いちゃうよ?」
「フン。男が泣いて良いのは母か愛する女の胸の中だけよ」
「なんか良いこと言ってる風なのやめて?良いことだけど!」
食べながら茶番を進めているといつのまにかケイの皿に盛られた肉とスープとパンが無くなった。食べ終わったのだ。
「あら、もう終わりか。ちょいと物足りないな」
「…大飯食らい」
「サナ、聞こえてるからな?」
「なんのことかしら、それに食べ終わったらさっさと準備してほしいわ」
「準備?」
「文字表が出来たのよケイのような教養も素養もない人でも読めるように完璧な表を作ってあげたわ。感謝なさい」
「ケイくん姉様に感謝してください。」
「…ありがとうございます。姉様」
「ケイに姉様と呼ばれる筋合いはないわ」
「へいへい。ごちそうさん!」
日本流の手を合わせて食後の挨拶をするとケイは文字の勉強をしようと食事処を出ようとするが扉の前で足を止める。
「午後の仕事はやらなくていいのか?」
「もうサナは文字表を書き終わったしもうケイはいらないわ」
「ルナも姉様とお仕事したいです。ケイくんは早く文字の勉強を進めてください」
「感謝すべきなのか…ツッコむべきなのか。」
そんなことを思いながらケイは食事処を出た。そして出会したのは
「あっケイ」
「アウロナ!!」
「お仕事は順調?」
アウロナは私服のようなものに着替えておりとても可愛い。白のフリルがついたブラウスに黒ズボンがなにかとケイの元いた世界の服装に似ていて素晴らしい。
「今昼食の毒味を終えたから、この後は文字の勉強だよ」
「サナに教えてもらうの?」
「う〜んサナは忙しいらしいから」
ケイは頭をポリポリと掻きながら嘘をつく。サナに教えを乞うなら罵倒の嵐になることが確定するからだ。
「ふーん。ならあたしが教えてあげよっか?」
「えっ!いいの?」
「いいよ。午前中にお勉強は終わらせたしね」
「なんの勉強?やっぱ数学とか?」
「すうがくは分からないけど、あたしはこう見えても貴族の生まれだから礼儀作法とか当主になったときのお勉強。」
「そっかぁ…大変だよな勉強ってめんどくさくてまた明日やろうって言うのが続くんだよ。明日やろうはバカヤローがよく似合う男だよな俺は」
「よく分からないけどお勉強はちゃんとしないとダメだよケイ。」
「アウロナに教えてもらえるならめちゃくちゃやる気でる!超出るよ!」
「ふふふ。なら部屋に行こっか。」
「うん。」
だだっ広い廊下を歩いてケイとアウロナは部屋に戻った。
「おっ文字表置いてある。というかそもそもこの世界の文字読めねぇんだから一人じゃ無理ゲーじゃねぇか。」
「だらだら見せて?へぇー流石サナ綺麗にまとめられてるね。」
ケイから見ればアイウエオ表をぐちゃぐちゃにしたみたいな文字たちだが綺麗にまとめられているらしい。
「じゃあ、始めるよ!!」
「はい!アウロナ先生!」
そこからはアウロナとひたすら文字の練習をして何度も失敗してやり直した。
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アウロナと文字の練習を始めて4時間が経過した。
「アウロナそろそろ部屋に戻ってもいいんだぞ?」
「だめ!ケイ一人だとサボっちゃうんでしょ?あたしが見張っててあげるから!」
ケイの何気ない一言によりアウロナはこの部屋を昼食とトイレ以外で離れない。ケイにとってはありがたいことなのだが流石に申し訳なさが勝ってくる。
「次のテストで覚えきらねぇと…」
アウロナは定期テストのようなものをしてくるようになりケイはそのテストに幾度となく苦戦し続けている。
「ケイ、準備ができたら教えてね?」
「出来てるよ!」
これでケイは25回目のテストとなるテストの内容はアウロナがランダムで指す言葉の意味を当たる形式だ。
「ふむ。では行きます!これは?」
アウロナが指で何かの文字を指す。これは何かの文字。であったのは数時間前のケイであり今となっては立派な言語だ。
「「な」だ!」
「正解!次はコレ!」
「「や」だ!」
その後もケイは五十音全てを当て切った…
「よし!五十音言えたね!じゃあ最後はこれ!」
アウロナが指差したのは何かの文章だ。ケイが少し時間をかけてそれを読んでみる…
「その文章は「アウロナ・ヴェスペル」だ!」
「正解!これで言語は覚えられたね!」
アウロナがパチパチと拍手して長い耳をピコピコさせて喜ぶ
「じゃあ次はあたしが朝持ってきた本を読んでみて、ちょっとあたしは疲れちゃったから部屋に戻るね。」
「おう!長い時間付き合わせちゃってごめんな!」
アウロナは「いいのいいの」と言って部屋を出ていった。ケイが窓を見てみるともう火が沈みかけ夕日が空をオレンジ色に染めている。
「うし…夜飯までに頑張るか!!」
ケイはアウロナが持ってきた歴史本を読み始めた。子供向けの本でページ数は10ページだったので言語を習得したばかりのケイでもすぐに読むことができた内容はこうだ。
『時は魔人戦争。
戦の炎は苛烈を極め、人と魔人は互いに蹂躙し合った。ある地では人々が魔人に屠られ、またある地では魔人が人々に討たれた。戦いは泥沼と化し、やがて五十年の歳月が流れる。しかし、ある日、初代剣神様が戦場に立ち、人類は勝利を掴んだ。
だが、愚かな魔人たちは滅びを悟り、生き残った同胞の命を贄とし、終焉の魔神——カリーナを顕現させた。その顕現は一分にも満たぬ刹那。しかし、その僅かな時間でカリーナは世界の半分を呑み込んだ。残された半分が存続したのは、人類の大魔術師・ファンリス・アルヴァンが張り巡らせた大結界と、初代剣神様の尽力があったがゆえ。ファンリス様の結界は今も、そしてこれからも世界を護り続けるだろう。
しかし、カリーナは消滅の間際、この世界に終焉を撒き散らした。それこそが——終焉の四騎士、そして終焉の魔獣たち。
彼らは再びカリーナを顕現させるため、世界を揺るがす。』
「子供向け本とは思えねぇ内容だな。知らない単語もめちゃくちゃ出てきたし後でアウロナに聞くか。」
ケイが窓を見ると夕日は消えかけ太陽が沈みそうになっていた。
「ていうかこの異世界って電気あるんだな」
ケイが上を見ると電気があった。
「でもボタンがねぇよな。魔法器とかか?」
すると扉がノックされ誰かがケイの部屋に入ってくる
「ケイくん、夕食の準備が整いました。今回は毒味じゃないのでご安心ください」
「おう。すぐ行く」
そう言われるとルナはすぐに出ていった。