第六話 「お父様と呼ぶ筋合い」
ケイは目覚め今アウロナの家。いやヴェスペル家の邸宅で朝食をとっている。味は美味い。はずなのだがその味を帳消しにする存在が今目の前にいる。
「アウロナ、お、おいしいなこれ」
「そうだね。」
心なしかアウロナも少しばかり冷たくなっている気もする。その理由は
「……」
この無言の白髪に顎鬚に鋭い黄色の三白眼を付けた強面すぎるアウロナのお父様。ヴェスペル家現当主,レオヴァルド・ヴェスペルだ。
ケイたちより先に座っていたが手を組んだまま微動だにしなく。食事処のような部屋の空気も張り詰めている。
「お父様…?今お話し大丈夫?」
アウロナが聞くと今まで一ミリも動かなかった顔が縦にコクンと動いた。
「あのね、昨日ディルクルム家の刺客に襲われて…」
すると今まで首から上以外動かなかったレオヴァルドの五体が全て動きだし明日から立ち上がり机をバンと叩く。
「おのれディルクルムめ…私の娘にまで…アウロナ、大事なかったか?」
その顔に張り付いているのはとんでもない強面。ではなく完全に娘を心配する父親の顔だったことにケイは若干の安堵をする。この人にも人の心があったんだなと
「うん。アキレスが助けてくれたの」
「それは良かった。で、そこの男は?」
父親の顔から強面の顔に切り替わるとレオヴァルドはケイを睨みつける。
「あ、あのお父様!僕は…」
「貴様にお父様と言われる筋合いはない!!」
テンプレのような会話が始まってしまったことにケイは自分の失態を反省する。
「ご、ごめんなさい。ではレオヴァルドさん僕は昨日アウロナと共に暗殺者に襲われた者です。」
するとレオヴィルドは長い顎鬚に手を当てて考え出した。そしてすぐに結論を出した。
「では貴様を当家ではディルクルム家との争いが終わるまで客人として扱う。好きに過ごせ。」
「え?良いんですか?」
ケイはすぐに出ていけとか言われると思っていたぶんこの結論には心底驚いた。
「当たり前だろう。貴様は暗殺者に顔を見られた。その時点でもう自由に往来を歩くことなどできん。」
「そ、そんなに?」
「ああ。アウロナももうこれに懲りたら外出は控えろ。お前にまで死なれたら私は持たなくなる。」
そういうとレオヴァルドは部屋から出ていった。
「ふぅーーなんか開放感があるぜ」
「お父様雰囲気が怖いからね。でもほんとは優しいんだよ」
「まあ強面だけど父親の顔が漏れ出てたしな」
「ふふ。でしょ?」
「それにしても客人って言われてもどう過ごせばいいのかわからんのだが」
ケイが元いた世界なら暇つぶしの動画なんて数多あった。しかしこの異世界にそんなものが数多くあるとは思えない。
「本でも読めば?ケイっていろんなことを知らないから」
「おお。本か。それいいな」
「じゃあ持ってくるね。あたしの部屋にたくさんあるから。ケイは部屋で待ってて」
「おう」
そういうとアウロナは部屋から出ていった。ケイも自室に戻ろうと部屋の扉を開けた。しかし…
「左に進むのは分かるが…どの扉が正解なんだよ…」
とてつもない広さを誇るヴェスペル家の廊下は初日のケイにはとても理解できないほどの扉の多さだった。ざっと20部屋はありそうだ。
「デカい声出して人を呼ぶのもありだけど…いやレオヴァルドさんがきたら気まずいしな。」
万事休すか。そう思ったケイのもとに…
「お客様。自室が分からないのですか?」
気配もなくケイの後ろについたのは姉妹メイドの妹、ルナだった。
「うおっ!と、ルナか。そうなんだよ部屋まで案内してくれないか?」
「仕方ないですね。着いてきてください。」
ケイはルナの先導のもと自室に戻ることに成功した。
ちなみにケイの自室は食事処の部屋から15扉目のところに位置する。