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第四話 「初夜に響く剣戟」

ケイはソリス・オッカスムの襲撃を避けるためアウロナと宿に入った。しかし–


「同室なの!!??」


「ごめんね。あたし今月厳しくて…」


「いや、誤らないで!正直ありがとうございますな状況だから!」


「今日はイヤな予感がするって言うけど、どんなイヤな予感がするの?」


「いやまあ…なんと言うべきか…うん。俺の本能が危険信号を鳴らしてるんだよ」


「そんなものがケイにはついてるの?すごいね!」


「ぐぅぅん!ピュア過ぎてやりにくい!!」


アウロナと実質2日過ごして分かってきたことだがアウロナはかなりの天然でありピュアだ。例えるならばキスで子供ができると本当に信じている子供。と言ったところだ。


「いや、本当にできると思ってるんじゃ…」


「ケイ?」


――――――――――――――――――――――

そこからは1回目のループとさほど変わらずケイとアウロナは宿の食事処でミータソースパスタを食べ、そこからはお喋りをして過ごした…


「ええ!ケイの故郷ってお魚を生で食べるの!?」


「ああ。刺身って言ってね、新鮮だとコレがまた最高!」


「アスフェリアは海が近いからお魚がよく獲れるけど…生で食べてるところは見たことがないよ。」


「そうだ。俺この世界の地形のことも全く知らなくて、教えてくれない?」


「そんなことある?それじゃあケイはどこから来たの?」


「渦地って言うんだけど…」


「…そうなんだね。」


「じゃあ教えるね、今あたし達がいるアスフェリア王国が東の国で終焉にあんまり侵食されてなくて海でお魚がたくさん獲れるの。」


「終焉?」


「ケイってば本当に知らないことが多いね。終焉は1000年前の魔神戦争で魔物側が終焉の魔神カリーナを召喚してカリーナが世界に終焉をばら撒いた。それで今は世界の半分ほどが終焉に呑まれてるの。」


「へぇ…いきなり壮大な話だな。」


「続けるね。東はアスフェリアで西はセレネス。南にドルマシア。北にヴァルディア。があるの。あたしが知ってるのはこれくらいかな。」


「渦地はどこにあるんだ?」


「…言って良いの?」


「?いいけど。」


「渦地はね。出身を知られたくない人たちが使う言葉で実際には存在していないの。」


「あ、あーー!!だから渦地って言ったら少し顔が曇ったのか!」


「顔は曇らないよ?」


「んんぅん!!天然!!ってもう夜じゃん。」


「ほんとだ。もう暗いね。夜ご飯食べたら寝よっか。」


「分かっ−」


「ケイ!伏せて!!」


アウロナに言われケイが何事かとなっていると次の瞬間アウロナに頭を鷲掴みにされ伏せさせられる。


「ええっ!!なに?アウロナ…」


爆音


その音が鳴り埃が煙幕のようになり部屋中に充満する。


「回れ、風よ渦を巻き発散せよ。ウィンド・リボルバー!」


アウロナが詠唱を唱えると暴風が発生し部屋の埃の煙幕を吹き飛ばす。すると人影が見え…


「暗殺の家系、ソリス・オッカスム。」


現れたのはあの森でケイの命を奪った暗殺者だ。


「クソっ!やっぱ来るのかよ!!」


「ケイ、下がってあたしが戦うから!」


「女の子に守ってもらうのか俺!!」


「大地よ、永遠の力を与え、火よ…」


「させん。」


アウロナが詠唱を始めるとそれを潰さんとソリスが距離を潰す。


「おいおい!変身中の攻撃は御法度だろ!」


「やかましい三下。」


「えいっ!!」


ケイとアウロナに降り注いだ一本の銀線はアウロナのなんとも気の抜ける声とともに発射された火をまとった岩により止められた。


「チッ…」


「アウロナすごい!カッコいい!」


「バカなこと言ってないの!」


「にしてもどうしようか、アウロナ。」


ソリス・オッカスム。アウロナが詠唱を始めた瞬間飛びかかってきた。魔術師は詠唱中を襲われるから剣士よりも弱いと言われるがあれは本当らしい。


「ケイ、あたしが詠唱しきれるまで時間を稼いでくれない?」


「ええ!あいつ相手に?」


「本当にごめんね。でも10秒稼いでくれたら魔術が完成できるから。」


ケイは元の世界で一般的に見ても運動が出来ない方である。しかし覚悟を決めなければならない…


「10秒だね。分かった!」


「うぉぉぉ!!」


「大地よ、永遠の…」


アウロナが詠唱を始めるとソリスは音もなく再び飛びかかってきた。そんなソリスをケイは…


「世界最強!ホシノ・ケイ!決闘だぁぁ!!」


異世界での戦いでは名乗りを上げるのは戦意の証明。そして決闘の申し込みを突きつけられた異世界人は…


「チッ!…暗殺の家系、ソリス・オッカスム。」


「こぉぉいい!!」


「死ね」


ケイの決闘に応じソリスは一旦動きを停止し、名乗りを上げ直すと再びすぐに飛びかかってくる。その狙いはアウロナではなくケイだ。ここで稼いだ時間は7秒。


「あと、3秒くらい!」


ケイは部屋の壁から外れた板材を持つと構える。


「お前が狙うのは、ここだろ!」


ケイがソリスの一撃を受けるコンマ1秒前腹にバツ字に2枚の板材を構える。

ソリスは前回ケイを行動不能にするべく、腹をバツ字に斬ったケイはその瞬間支えを失ったように倒れたことを覚えていた。そしてその狙いは…


「ぐぅぅ!!」


的中。バツ字に構えた板材は大破したがケイの腹は薄皮一枚切るので済んだ。


「首を守らなかったのは賭けだったぜ!!だがこれで!」


10秒。経った。アウロナの詠唱が完成した。


「エターナル・バースト!!」


アウロナが完成した魔術を手から放つとその瞬間轟音ととてつもない光が発生しケイの視界が白一色になり熱風。暴風。冷風。岩の破片などが飛んでくる。


「うぉぉ!!吹き飛ばされるぅぅ!!」


「ケイ!」


ケイの手を掴んだのはアウロナだった。術者は影響を受けないのかアウロナに触れられると今まで感じた暴風たちの影響を一切受けなくなった。


十数秒が経つと再度たちこめた煙も止み。そこには壁と天井がなくなった宿の部屋があり3部屋先まで大破していた。


「あはは。やり過ぎちゃった。」


「いや…ほんとにな。なんの魔術だったの?」


「さっきのはあたしの切り札の基本属性混合魔術だよ。詠唱を多少飛ばしてるからちょっと弱くなってるけどね。」


「弱くなってこれかよ…」


ケイとアウロナが安堵していたのは束の間。いま現在1番警戒すべき声がする。


「痛いなぁぁぁ…」


床からよじ登ってきたのは片腕をなくしたソリス・オッカスムだった。


「決闘中に横槍を入れるとは貴様!!腕の代償は払ってもらうぞぉぉ?」


「うそ…」


「冗談じゃねぇよ。」


ソリス・オッカスムは右腕をなくし右肩まで抉れていて服は血でべっしょりだ。にも関わらずやつは平然と立っている。


「仕事は何があっても完遂する。当然だろぉぉ?」


「その熱心さ。他に発揮してもらいたいもんだぜ」


ケイとアウロナは手詰まりとなった。ソリスはゆっくりと左手にナイフを持ち近づいてくる。

だが––


「待たせたね。」


「あぁぁ?」


ソリス、ケイ、アウロナ。全員が声の主を見るとそこにいたのは剣神・アキレス・ヴィクトリアだ。


「剣神ぃぃ!?」


「アキレス!来てくれたのか!!」


「仕事が終わったからね。すごい音がしたから来てみればケイ、君の嫌な予感は当たったね。」


アキレスはケイと会話しつつ腰に付けた騎士剣を抜く。そしてソリスにその切先を向けると宣言する。


「剣神・アキレス・ヴィクトリア。」


ソリスはそれに渋々といった様子で応じた。


「…暗殺の家系,ソリス・オッカスム。」


ケイはアキレスを捉えていた。しかし次の瞬間その姿は消えた。そしてそのコンマ1秒後ソリスの姿も消える。


そして激しい剣戟の音と金属がぶつかったことによる火花が散る。もっとも剣の持ち主達の姿は見えないが。


「うぉぉ…俺たちの時は本気全く出してなかったってことなのか?」


見ればわかるがあんなスピードの剣戟を繰り広げられるやつにケイは対応できないししようと思うことすらも許されない。


『ケイ!アウロナ様を連れて下がっていてくれ』


アキレスの声がケイの耳に響いた。わけではなく脳に直接響く。


「え、なにこれお前どこから喋ってんの?」


『これは伝達の加護だよ。声を出さずとも範囲内の人には意思を伝達できる。』


「お、おう分かった!!アウロナ!下がるぞ!」


「うん!」


ケイとアウロナが大破した部屋から出て残されたのはアキレスとソリス。

剣戟が止み両者が剣の間合いで構える。


「ここからは本気を出させてもらおう。」


そう言ってアキレスは手に持った騎士剣に魔力を込める。その魔力の密度は凄まじく剣の付近の光景がブレる。


「剣神…やっぱとんでもないなぁぁ…ここで死ぬかもなぁぁ…」


弱音を吐きながらもソリスもナイフに魔力を込める。


「っ!!」


瞬間。両者が床を蹴る。そして両者が互いを間合いに入れ、剣を、ナイフを振り下ろす…!




轟音






その一撃は激しい暴風を巻き起こし爆発する。半壊していた宿を全壊させる勢いで壊す壊す。


「うおぉ!!アウロナぁぁ!捕まれぇ!!」


「うん!!」


その爆発にはケイとアウロナ、そして宿の宿泊人やオーナーまで巻き込んだ。







「ふう…またやってしまった。市街地で戦うのは良くないね。」


アキレスはソリスが消滅したことを確認すると、騎士剣を鞘に戻そうとする。しかし–


「あっ、すまない。本来の役目ではなかったからね。」


騎士剣はボロボロと崩れていき鉄屑に還っていく。今回アキレスは剣に魔力を込めそれを発射した。それは本来普通の剣の役目ではなく専用の魔力剣でないとこのように崩れてしまうのだ。



――――――――――――――――――――――



「いや、アキレスお前めちゃくちゃ強いじゃん!」


「そんなことはないよケイ。今回は運が良かっただけさ。あと1秒遅れていたら僕は首を斬られていたからね。」


「そんな物騒なこと言わないの!」


「アウロナ様、ご無事でなによりです。」


そう言ってアキレスはアウロナに頭を下げる。


「アキレスってさアウロナのこと様付けで呼ぶけど、なんでなんだ?」


「え?それはアウロナ様は…」


「まって!あたしから言うから!!」


アウロナは若干恥ずかしそうに言う


「ケイ…この話を聞いてもあたしと友達でいてくれる?」


「?うん。当たり前じゃん」


「ありがとう。じゃあ言うね。あたしは…」


「ヴェスペル家の出身なの!!」


「ヴェスペル家?」


「ケイ…まさか知らないのかい?」


「うん。知らないけど。」


ケイがそう言うとアキレスとアウロナは驚いた顔をした。


「ケイ、あたしはね簡単に言うと王都から少し離れたところの領主候補の家の出身なの。だから…」


「だから?」


「さっき襲撃してきた暗殺者は多分…領主争いをしてるディルクルム家の刺客だと思うの。」


「ケイ、アウロナ様のお家、ヴェスペル家は現在同じ領主候補家のディルクルム家と領主争いをしているんだ。」


ケイはこう結論づけた。アウロナは貴族のようなものであり現在領主争いをしている。そして相手の家から暗殺者の刺客が送られてきた。


「じゃあこれからも危なくないか?」


「そう、だね。せっかく君と友達になれたから身分を明かしたくなかったんだ。ごめんね」


「いやそれは全然大丈夫だよ。それよりも…」


「それよりも?」


「衣食住がなくて…」


アウロナとアキレスは目を点にした。


「あははは!そんなだったの。それならあたしに任せて。あたしのお家に住まわせてあげるから!」


「アウロナ様。ヴェスペル家に今滞在するのは少し危険な気がするのですが、よろしければヴィクトリア家で客人として迎えましょうか?」


「いや大丈夫だよ」


「しかし…」


「アキレス、ありがとな。でも俺はヴェスペル家に住まわせてもらうよ。何かあったらまた助けてくれな!」


そう言ってケイはウインクした。アウロナとは対照的にケイのウインクはまあまあ上手い。


「じゃあ!アウロナの家にしゅっぱーつ!!」


「おー!」


アウロナとケイはヴェスペル家に向かって歩みを進め出した…




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