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第三話 「混乱」

ホシノ・ケイは死んだ。

だがその事実を強烈に否定する何かが現実を巻き戻す…


――――――――――――――――――――――


「うわぁぁあ!!!」


「きゃっ!」


「…夢だったのか?いやいやあんなリアルな夢があってたまるかよ…第一俺は腹を切られてその次に−」


「君、すごく顔色が悪いよ?そんなにマスターが怖かったの?」


ケイが隣にいた女に気づく。アウロナだ。ケイが死に際目の前で心臓を一突きされ…おそらく死んだ女だ。


「あ、アウロナ?だよな…?」


「え?あたしの名前を知ってるの?」


「ああ。アウロナ。お前はアウロナだ。」


ケイは狼狽するようにアウロナと連呼し、次第にアウロナの顔が赤くなっていく…


「分かった!分かったから!あたしは何ともないから!」


「ほ、ほんとうか?」


「うん。本当。君本当にどうしちゃったの?というか君の名前!教えて!」


「ケイ…ホシノケイだ。」


ケイは激しい有酸素運動をしたわけでもないが息絶え絶えになりながら脂汗を地面に落とし、二度目の自己紹介をする。


「ホシノ?珍しい名前だね…」


「…あそっか。この世界は姓が後なのか。」


やっとのことで現実を受け入れることができてきたケイが息を整えて改めて三度目の自己紹介をする。


「アウロナ。俺の名前はホシノケイ。俺の故郷では苗字を先に言うんだ。ケイって呼んでね。」


「わっ!急に元気になったね。でもよかったケイだね。よろしく!」


「ああ!よろしく!提案なんだけど今日俺と一緒にお出かけしない?」


ケイはもう絶対にあんなことにならないよう。ソリス・オッカスムの襲撃を未然に防ぐべく、ケイは1日王都から離れないことを決めた。


「うん…すごく急だけど…いいよ。」


「よっしゃ!エスコート!といきたいところなんだけど俺、この王都のこと何も知らなくて…」


「ならあたしが…」


「王都に騎士団的なやつはあるのか?」


ケイはアウロナの言葉に被せて聞いた。それは故意的であり申し訳ない気持ちもあったがアウロナのエスコートの先にあるのは死だということをケイは知っている。


「あるけど…何をしに行くの?」


「ちょっとね。」


――――――――――――――――――――――


「ここだよ。アスフェリア近衛騎士団本部。」


「おお…騎士団本部って感じだな…」


「そりゃ騎士団本部だもん。」


近衛騎士団本部は赤い煉瓦作りで白の枠組みの窓があり屋根は青だ。


「それで、ケイはここで何をするの?」


「少し注意喚起でもしようかなとね。」


ケイは足早に入り口へ行き高さ3メートルほどで幅は人5人は並べそうな扉を3回叩く


「すみませーん!」


沈黙


「反応ねぇな。もう一回!すみませーん!!」


沈黙


「あれ?ほんとにここ騎士団本部?アウロナ?」


ケイがアウロナの方を振り向くとアウロナは少し呆れた顔をしていて頬を少し掻くとバツが悪そうに言った。


「近衛騎士団は2日前くらいから海獣の騒ぎが起きて大遠征で殆ど出払ってるの。」


「怪獣ね…やっぱ魔獣的なやつはいるんだな。」


ケイは若干手詰まりになったことに悲観的になる。ケイは自分が殺され生き返ったことが夢だとは思っていない。これはケイが元の世界で何度も見た異世界もののお約束。死んで生き返る。これは––


「『死に戻り』か」


「俺の死に戻りにもし回数上限がないのであれば、ソリスの襲撃を回避できるループになるまで…」


ケイが次の言葉を紡ぐ前にあの記憶が反芻する。腹を斬られて首を切り落とされて、アウロナは心臓を突かれて…


「ダメだ。もう絶対に嫌だ。」


「ケイ、どうしたの?急にぶつぶつ言い始めて…」


「あ!ああごめん!これからどうしようかなと」


ケイはこのまま王都に滞在し続けることも考えたがそれではダメだ。完全で完璧な安全を今ケイは求めているのだ。絶対にもう死なない。その保証を。


「アウロナ、この辺でめちゃくちゃ強い人とかいない?」


「強い人?修行でもするの?」


「いや、そういうわけじゃないんだけどなんか今日、嫌な予感がしてて…」


「イヤな予感?」


「そうなんだよ。さっき取り乱しちゃったときもアウロナとのデート先で殺されてー」


暗転


「は?、え?なんだよここ…」


ケイが居たのはどこまでも暗く暗く遠く遠くいるだけで孤独に押しつぶされそうになる空間であり空間としてのありかたに決定的な何かが足りていない空間だ。例えるならば本のない本屋といったところだろうか。


困惑するケイのもとに一本の手が伸びてくる。」


その手はドス黒いモヤに包まれており触れられることを生理的に拒否したくなるような質感だ。だがその手はケイに迫る。


「お、おい!くんな!おいおいお…」


手がケイの顔部分に到達するのその手はケイをすり抜けてケイの内部へ侵入する。


「う、お…なんだよ、これ」


手の部分が完全にケイの内部へ入るとそれまでケイをすり抜けるだけで干渉しなかった手がケイの脳を撫でる。


「うっ…!!」


それはしっかりと感覚があり脳が初めての刺激の混乱する。


「うぐっっ!!!」


そして次に脳天に鉄鎚を振り下ろされついでに釘も打ち込まれたのではないかと思うほどの衝撃も痛みが脳へ走りケイが絶叫する。



暗転



「ああっ!!!!うう!!!」


「きゃ!…っまた?本当に大丈夫なの?ケイ。あたしすごく心配になってきたのだけど…」


「ごめん…大丈夫。」


ケイが現実に戻ったことを知覚すると先ほどまで脳に響いていた痛みはすぐに引いていき同時にケイはあることを理解する。


「死に戻りを口外したらこうなるのか…」


うっかり口を滑らせてしまったとはいえあの脳へ直接作用する痛みはケイにとって死と同列でもう経験したくないことランキングのトップを張った。


「しかしこうなるといよいよ手詰まりか…?」





「君、大丈夫かい?」


ケイが足りない頭を使って思案を巡らせていると声が聞こえる。アウロナの声ではなく男の声だ。


「あっケイ、さっき強い人がいないか聞いたでしょ?」


「うん?そうだね。」


「この人がアスフェリア近衛騎士団所属,剣神・アキレス・ヴィクトリアだよ。」


「ご紹介ありがとうございます。アウロナ様。アキレスだ。よろしく。それと君の名前を聞いてもいいかな?」


そう言いながらアキレスは手を伸ばして握手を求めてくる。


「ホシノケイだ。ケイって呼んでくれ。」


ケイはアキレスの手を取り自己紹介をした。


「うん。ケイ、さっきは急に悲痛な声を上げていたけど大丈夫なのかい?」


「ああ大丈夫だ。たまに頭が急に痛くなるんだ。それにしてもアキレス・ヴィクトリアっていい名前だな」


アキレスはケイの元の世界の人体のある部分の語源にもなった不死身の神の名前だしヴィクトリアは勝利の女神の名前だ。神話好きのケイにとってはその名前を聞いただけで信用度が高まった。


「あはは。ありがとう。そう言われると誇らしいよ。」


アキレス。この男はよく見れば…いやよく見なくてもイケメンであり、燃える炎のような赤髪が騎士団制服と上手くマッチしている。


「それでアキレスさん、相談があるんだけど…」


「さんはいらないよケイ。見たところ年齢も同じくらいに見えるしね」


「じゃあアキレス。めちゃくちゃ強いんだよな?」


「そんなことはないよケイ。剣神の称号なんて聞こえの良いものは持っているけど僕には過分なものだと思っているよ」


性格が良すぎる故の謙遜なのか本当にアキレスが剣神の称号に見合わない実力なのか。それはケイには分からない。そもそも剣神が分からないのだから。


「アウロナ、剣神の称号ってなんなんだ?」


「う〜ん。あたしもよく分かってなくて…アキレス、剣神の称号ってどんなものなの?」


「そうですね…端的に言えば剣を振るのが上手い人。ですね。」


「端的過ぎない!?」


天下の天然女の子のアウロナがツッコミに回っている姿にケイは驚きつつも大体アキレスのことを理解したつもりになってきていた。最強キャラとは謙遜がエグいものなんだ。そんな理解。


「うし!アキレスお前のことはよく分かった。その上で相談なんだが今日1日俺たちの護衛をしてくれないか?今日はなんか嫌な予感がしてて…」


そういうとアキレスは手を組み片手を口の辺りに持っていきいかにも考えていますということをアピールするとすぐに結論が出る。


「すまない。先日から海獣騒ぎで王都の近衛騎士の大多数が出払ってしまっていて今王都にいる近衛騎士は僕だけなんだ。つまり…」


「仕事か。なんとかなったりしないか?」


「難しいな。いつもなら僕一人くらいサボったりしても大丈夫なんだけどね。」


サボったことなんてないんだろうなとケイはアキレスの完璧すぎる性格から予測がすぐに立つ。


「それなら仕方ないよな。変なこと言って悪かった!」


「いいや。謝るのは僕のほうさ力になれず申し訳ない。」


ケイが頭を軽く下げたのに対しアキレスはしっかり45度腰を折って完璧な誠意が伝わる謝罪をした。


「ケイ?なにか心配なことがあるなら今日は宿にいましょ?あたしもいざとなったら戦えるんだから」


「う、うん?」


――――――――――――――――――――――

アキレスと別れケイとアウロナは再び行動を開始した。しかしその行動はある地点で止まりそこで泊まることとなった。


「アウロナ…宿も初めてだから興奮したいとこなんだけど…」


「うん?喜んでいいよ?」


ケイは今日人生初の女の子とデートを経験した。普通ならば初デートで泊まりまでは行かないし行ったとしても…


「同室にはならんでしょーーー!!!!」


ケイとアウロナは同じ宿の同じ部屋で同じ屋根の下1日を過ごすこととなった!!


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