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第二話 「はじめて」

ホシノケイは緊張していた。

いつもは開いている手もグーの形に握りしめてその中には汗が少し溜まっている。

これからケイがするのは人生初の女の子とのデートだ。


「アウロナってえぇ!!」


「びっくりした!そんな急に大きな声をあげてどうしたの?」


「ア、アウロナってもしかしてエルフ?」


ケイは今までコミュ症特有の人の顔を見れないを発動していたがさきほど初めてちゃんと見てみるとアウロナの耳は尖っていたのだ。


「そ、そうだけど…そんなに珍しい?」


「珍しいも何も初めて見たよ!」


「そうなんだ。あ、ありがとう?」


ケイは耳をかぷりと噛んでみたい欲求を抑えてアウロナと歩き出した。


――――――――――――――――――――――



「ここが王都の中心地、アスフェリアの大広場。すごく大きくて綺麗だよね。」


ケイはアウロナの方が綺麗だよ。なんでギザなセリフを挟んでみたいなと思ったがそれよりも大広場は壮大であり壮観だった。大広場の中心には大きな噴水があり噴水の周りには色とりどりの花が咲いている。王宮への主要な通りであることもあり人々が行き交い王都の賑わいが感じられた。


「すごい大きいな…それでいて花とかもあって綺麗で良い匂いもする。」


「でしょ?ここは王都の民が集まってお祭りとかもするんだよ。そしてあっちにはアスフェリアの英雄アキレスの像があるの。」


アウロナが指差した方向を見るとそこには金色の男の像があり像になるから美化したのだろうかケイが息を呑む程のイケメンだった。


「結構歩いたしお腹空いてない?適当なお店に行って何か食べよっか!奢るよ?」


「アウロナ、俺の故郷では女の子とデートする時は男がお金を払うんだ」


「でーと?というかケイはお金持ってないでしょ?」


「グッ…その通りです。甲斐性のない男でごめんね?」


「いいの。その代わりまたあたしが困ったことになったときに助けてね?」


アウロナは手を後ろで組んで少し上目遣いでケイを見ながら言った。

アウロナは天然なのかわざとなのかこういうあざとポーズがすごく多い。ケイはその度心揺らされることになっているのだ。


――――――――――――――――――――――


アウロナがケイを連れてきたのは王都の中心地から少し離れた場所にあるカフェのようなお 店だった。王宮から少し離れたこの店は落ち着いた雰囲気が漂っており木の温もりが感じられケイとアウロナが座った窓際の席にな陽の光が差し込み穏やかな空気が心地良い場所だ。


「雰囲気の良いお店でしょ?穴場なんだから」


「うん。確かにこの温もりの感じが実家に帰ったような安心感で溢れるよ」


「でしょ?それでねここのお店はねパスタがとっても美味しいの!」


「パスタ!あるんだこの世界にも!!」


「?」


「ああ気にしないで」


ケイは自分の失言を反省しつつアウロナと普通に話せるようになってきたことに自分の成長を感じた。


「アウロナは何の味が好きなの?」


「あたしはやっぱりミータソースかな?ケイは?」


「俺もミート…じゃなかったミータソースかな?あれが1番無難だしね!」


ケイはオランジがオレンジであったことを思い出しミータソースとはミートソースであると仮定した。


「じゃあ注文するね?すみませーん!ミータソース2人前お願いします!!」


アウロナが大きな声で注文すると厨房から「あいよー!」と居酒屋か!と思うような返答が飛んできた。


「よし。注文は完了したしパスタは時間がかかるから少しお話ししよっか。初対面の時から気になってたんだけどケイはどうして王都に来たの?」


いきなりのトンデモ質問である。素直に答えるなら簡単だ。しかし異世界から飛ばされてきたなんて誰が信じるのか。ケイは仕方なく濁すことにした。


「特に目的はないよ。アスフェリア王国って綺麗なイメージが俺の中にあってそれで来てみたかったから来ただけだよ」


「へぇ。そうなんだ。なんだかアスフェリアのことを褒められるとあたしのことのように嬉しいなえへへ」


「アウロナは今日なんで俺を助けてくれたの?」


「人助けに理由はいらないでしょう?強いていうなら色んな人にいい子だって思ってもらいたいからかな?…あっ!きたよ!」


ケイが何が来たんだ?と思い後ろを振り向くとミートソースパスタにそっくりなものを二つ持った店員が立っていた。


「ありがとうございます」


「じゃあ食べよっか。いただきます!」


「うん。いただきます」


ミータソースパスタは予想通りミートソースパスタでありなんだったらケイが元々いた世界のミートソースパスタよりも異世界のほうは格別に美味しかった。


――――――――――――――――――――――

アウロナとミータソースパスタに舌鼓を打ち、食事を終えた二人は店を出た。


「ふーお腹いっぱいだね。ケイはお腹いっぱいになった?」


「うん。アウロナのちょっともらったしお腹いっぱいだよ。奢ってくれてありがとね」


「うん。ご飯も食べたし最後にあたしのアスフェリア王国とっておきの絶景スポットに連れていってあげるよ。」


「そんなところがあるの?思ったんだけどアウロナってすごい場所いっぱい知ってるよね?なんでなの?」


「何でなのって言われても…まあ長年アスフェリア王国に住んでいるベテラン国民のあたしだからかな?」


そう言ってアウロナはキメ顔をするがウインクは両目半目になっている。


「絶景スポットなんだけど少しここから遠いの。だから馬車に乗ろっか。」


「馬車あるの!?」


ケイは興奮気味で静かな店内には似合わない大きな声を出してしまった。周りの人の視線が痛いがケイはこの瞬間だけは気にしない。


「うん…ケイってたまにおっきな声を出すよね。」


「ああ。ごめん馬車に乗ったことがなくってね。」


「へぇ。ならあたしがケイの初めてになるんだね。」


「う、うん…」


この異世界の常識はケイが元いた世界とは違っているのかはたまたアウロナがおかしいのか漫画のようなセリフばかりが出てくる。ちなみにケイはゆでだこのように赤くなってしまった。


――――――――――――――――――――――

店から出たケイとアウロナは馬車に乗った


「うおぉ…馬車スゲェ。でもなんか全然揺れなくない?馬車って結構揺れて酔っちゃうイメージなんだけど」


「いい馬車には耐震の加護がついてるんだよ。…もしかしてケイ加護も知らない?」


「いやそれは知ってるよ本で読んだだけだけどね。」


「あはは。それは知ってるんだ。」


「いや、知ってるとはいえ加護という概念があることを知ってただけだから一応教えてください!アウロナ先生!」


「教えるのはいいけど。あたしは先生じゃないし敬語じゃなくていいよ?」


アウロナはキョトンとした顔をしながらかなりのガチトーンで言っている。これはネタではなく本当に分からないのだろう。


「アウロナ…俺の故郷では誰かに何かを教わる時は先生!って言って敬語で話す文化があるんだよ。」


「へんてこな文化だね。」


「へんてこってあはは。アウロナも少し変じゃん」


「え!そうなの!?へんてこって言わないんだ!」


アウロナは尖った耳をピコン!と立てて驚いている。その様子は超美形と相まって素晴らしく尊いとケイは思っている。


「へんてこって言わな…って脱線しちゃってたね。ではこのアウロナ先生が加護について伝授しようぞ!」


「お願いします!先生!!」


「まあケイが知ってることとは遜色ないと思うけどね。加護はね世界のどこかにある世界樹から授かる。って本に書いてあったよ」


「アウロナも本なんじゃん!」


「あはは。行くことのできない場所の本当のことなんて知らないよ」


「行けないのか?世界樹。」


「う〜ん行けるか行けないかはあたしには断定することは出来ないけど世界樹が本当にあったなんて話は聞いたことがないの」





――――――――――――――――――――――


「着いたよケイ。この山の少し上の方に登ったらすっごく綺麗な景色が見られるから。」


「ふぁあ…あれ?寝ちゃってた?」


「そうだよ!ケイったらあたしが話してる途中で急にこてんって寝ちゃうんだから!心配したよ!」


「ごめんごめん。落ち着く環境だと眠くなっちゃうんだよ」


「もう!次は床で寝てもらうからね!」


「え?床じゃなかったの?俺どこで寝てたの?」


「え?あたしの膝だよ?床で寝ちゃったら頭痛くなっちゃうでしょ?」


「ありがとうございます」


ケイは土下座の最上級である五体投地を繰り出す。美少女の膝枕で仮眠。それはケイが元いた世界では絶対に成し得なかったことだ。


「大丈夫?こけちゃったの?」


「これは俺の故郷の最大の敬意を示す姿勢だよ…」


地面に顔を付けているのでアウロナからは見えないが地面の一部分が少し赤く染まっているのはケイが墓まで持っていかなければならない秘密である。


「そうなんだ。ケイの故郷って不思議な文化があるよね」


そう言ってアウロナは「それじゃあ行こっか」と言いケイに背を向けて歩き出したその隙にケイは鼻血をジャージの袖で拭った。



――――――――――――――――――――――

ケイはアウロナの先導のもと20分ほど山を登ると開けた土地に出た。


「さっきまで森の中にいたとは思えないほど開けてるな。」


「ここは開拓されてる途中で放棄されちゃった場所なんだ。だからこの山には名前もないし人もあまり来ないの。」


「へぇ。登ってる時にやけに人が誰もいないと思ってたけどそういうことだったのか。」


「うん。あともう少し進めば目的地だよ。ほらあっちに展望台みたいな台があるでしょ?あれはあたしが作ったんだよ。すごいでしょ?」


アウロナが指を刺す先を見るとそこには木造でできた展望台があった。こんな160センチもなさそうな小さな女の子が作ったとは思えないほど。


「ほんとだ。あんな大きいのよく一人で作れたね。」


「土魔術で土台を作って風魔術で切った木材を並べたの。」


「魔術!!」


「ふふ。またそんな大袈裟な驚き方しちゃって。ケイはおもしろいね。ほら」


するとアウロナの手から土が現れその土はどんどんと集まり最終的に短剣になった。


「おぉ…!スゴイ!アウロナスゴイ!」


「あはは。そんなことないよ。ケイだって得意属性を調べてその属性の練習をしたらすぐ出来るようになるよ」


「アウロナの得意属性は土と風なのか?」


それを聞いたアウロナの表情はニヤリとしたものになり少しうざさが感じられた。


「ふっふっふ。あたしはね。世にも珍しい全属性が得意属性なの。すごいでしょ!」


「確かにすごいな…魔術って何種類あるんだ?」


「うーん説明すると難しいんだけどあたしの得意属性の基本属性は火、水、風、土の四種類だよ。それと治癒魔術があるね。あとここからは魔術から少し離れるんだけど召喚術、結界術、呪術、精霊術なんてのもあるよ。」


「アウロナは基本属性以外も使えるのか?」


「そこは…残念!基本属性以外を使える人はほんとにすごいんだよ。治癒魔術なんてお医者さんになるのに必須だしね。」


「やっぱり才能の世界か…」


「まあまあ!ケイにも才能があるかもしれないよ!その時はあたしが教えてあげるから!」


ケイは自分に魔術の才能なんてあるのか疑っていた。元いた世界では才能もなければ普通もなかったのでいつも赤点を取っていたのは今となってはいい思い出である。


「よし!着いたよ!ここがあたしの開拓地!そう呼んじゃおうかな!」


アウロナはそう言って耳をぴょこぴょこさせてニコニコしていた。やはりエルフは良きかな。なんてケイは思っていた。

しかしその幸せに邪魔者が入る…


邪魔者は暗がりから足音すら立てずにケイとアウロナに近づいている。そして…


「ケイ!こっぢぃィ!、?」


アウロナの声が楽しげなものから悲痛なものに変わった。ケイが何事かとアウロナを見るとなんとアウロナの腹には周りの光を吸収するような漆黒のナイフが刺さっていた。


「ケイ…逃げて…」


「それは無理だなぁぁ…」


ケイが返答する前に暗がりから声がする。すると暗がりから声の主が姿を現す。


「暗殺の家系、ソリス・オッカスム」


現れたのは男で顔は若々しく20代に見える。黒を基調とした戦闘服のようなものは周りの光を吸収するようだ。髪も黒く全身黒のように感じられるが琥珀色の瞳がよく目立っている。

普段なら綺麗に見えたかもしれないが今現在の状況では捕食者の目さながらだ。


「…無音の氷よ、全てを閉ざせ。グレイシャル・バニッシュ。」


そうアウロナが詠唱を唱えると瞬時にソリスの周りが凍てつき、数秒後ソリスは氷漬けとなった。


「アウロナ!すごいけど、腹の傷が…」


ケイがアウロナの腹に刺さったナイフが抜けて血がとめどなく溢れでていることに気づきすぐに駆け寄る。


「だい…じょうぶだよ。すぐ止血すれば–−」



轟音。


何枚も重ねたガラスを一気に叩き割るような音が響き、飛んできた破片がケイの頬を切ると次に強烈な寒波が飛んでくる。


「うっ、さむ!」


「そうか。なら暖かくしてやろう。暖かい血の海に沈むと良い。」


そんな声がケイの耳元で響くとケイの腹に銀線が2本走る。

そしてケイの腹がバツ字に切れ、血が吹き出し内臓がまろび出る。


「がっ…ば。ぐ。アウ…ロナ逃げ…」


「うるさい。囀るな三下。」


また地底を這うような低い声がケイの耳元で響くと次はケイの首が切断された。


「あ…え。」


「ケイ!死なないで!お願い゛っっ!!」


アウロナも後ろからソリスに心臓を一突きで貫かれる。ケイはこの時やっとソリスの姿を拝んだ。


そして急速な眠気に似たような感覚と共にケイの意識は手放され、魂も手放された。


ホシノ・ケイははじめての死を経験した。


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