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終焉を迎える異世界に召喚されたので救世主になる話  作者: きなこと餅
2章 ディルクルム家との領主争い
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第十話 「レオヴァルド」

夕食を終えたレオヴァルド・ヴェスペルは自室に戻り椅子に座った。

頭の中で反芻するのはホシノ・ケイによって久方ぶりに聞いた単語「終焉の騎士」だ。

レオヴァルドは椅子に体重を預け目を閉じた。過去を追憶する–––


――――――――――――――――――――――



レオヴァルドは小さな集落の一家の生まれだった。その集落では食料の奪い合いで殺し合いは茶飯事。地獄を体現したような環境だった。

しかしレオヴァルドの父は龍族だった。並の人間では全く敵わない。故にレオヴァルドとレオヴァルドの母そして妹はもはやコロシアムとなった集落の中でぬるま湯に浸かっていた。


ある日のこと、その日はレオヴァルドの15歳の誕生日だった。父は早朝に「馳走を取ってくる」と家を出た。そして帰ってきた。しかし––


「父上…?」


レオヴァルドの父はいつも通り無傷。ではなくズタボロだった。龍族の翼は所々破け、折れていた。体にはナイフの切り傷や裂傷は数えきれないほど刻まれていた。口からはとめどなく血が溢れ床にボタボタと垂れていた。レオヴァルドの母や妹は慌てていたがレオヴァルドは父の命が溢れていくさまをじっと見ていた。否、目を離せなかったのだ。

父もレオヴァルドから目を切ることはなく見つめあっていた。

そして父がプルプルと唇を震わせて掠れた声を出した。


「死ぬなよ。」


その一言だけを言い終えるとレオヴァルドの父は糸が切れた操り人形のように顔から崩れ落ちた。衝撃で体から血が飛び出して床が赤に染まる。

レオヴァルドは理解していた。自分の父親は殺されたのだと。


そこからは早かった。父がいなくなったレオヴァルド達は地獄を見た。龍族の子供と言っても人間とのハーフのレオヴァルドは父のようにはいかなかった。

食料を取りに出ても人間に勝てない。ぬるま湯に浸かり続けていたレオヴァルドは力は普通の人間の何倍もあるが技術が一切なかった。そんなものでは集落の人間には敵わなかった。



殴り倒されたレオヴァルドは監禁された。

レオヴァルドの父の訃報が広まり、レオヴァルドの母と妹は襲われ、汚され、壊され、殺された。

死体はレオヴァルドの目の前で臓器を一つ一つ取り出して順に焼いていかれた。

最後に残った臓器の入れ物はサイコロステーキにされレオヴァルドの目の前で貪られた。


レオヴァルドの心はとっくに壊れていた。そして自分も殺されるんだということを理解していた。

だがそんな地獄に光が差す。


「そこまでよ」


そんな女の一言が響くとレオヴァルドの目の前にいた集落の人間は一瞬で首が飛び血を噴水のように噴き出した。レオヴァルドは赤い噴水を浴びながらも見ていた。

片手に騎士剣を持ち近衛騎士団の制服に鎧を着け白いマントを羽織り、武装した白髪のエルフの女を。


「アスフェリア近衛騎士団所属,フェリシア・ヴェスペルよ。貴方、ひどい怪我ね。大丈夫?」


フェリシアは唯一息を感じたレオヴァルドにそう自分を紹介した。

拷問を重ねられていたレオヴァルドの体はズタズタでボロボロだった。人間なら死んでいるのではないかと思う傷だ。


「大丈夫に…決まって…」


フェリシアの名前を聞いた瞬間レオヴァルドは意識を手放しその場に倒れ込んだ。するとフェリシアが慌てた様子で治癒魔術師を呼び出しに駆け出した。



――――――――――――――――――――――レオヴァルドが目を覚ますとそこは知らない天井だった。絶対に雨漏りなどしないであろう隙間のない屋根だった。


「う…」


「あっ動いちゃダメよ。貴方の傷すごく酷いんだから!」


聞いたことのない声だなと思いレオヴァルドが横を見るとベッドの横に椅子を置き座っていたのはレオヴァルドを助け出した白髪エルフの女騎士フェリシア・ヴェスペルだった。よく見ると意外と幼い顔つきをしており17歳くらいに見える。


「まっててね、もう少しでリンゴの皮剥き終わるから。あっ化け兎型が良い?」


フェリシアの手元をよく見ると片手にはナイフもう一方にはリンゴがあり皮を剥いていた。その手つきは器用でリクエストもしていない化け兎型にリンゴの皮が変形していく。


「何しに…来たんだ?」


「う〜ん。特にそんなのないんだけど強いて言うなら私は君に名前を教えたでしょ?でも君は私に名前を教えてない。それって不公平じゃない?だから来たの。名前は?」


フェリシアはそう言いながらリンゴを剥き終わって皿に盛ってレオヴァルドのベッドの近くの棚に置いた。

レオヴァルドがフェリシアの質問を無視して手を伸ばそうとすると皿をスッと引き「名前は?」と聞いてくる。レオヴァルドは諦め答える。


「…レオヴァルド」


「格好いい名前じゃない。両親に感謝しないとね…ってごめんなさい。」


フェリシアは禁忌に触れたことを自覚してかなり焦っている。


「本当にごめんなさい。そんなつもりはなかったの…」


人差し指をいじいじしながらピンと立っているはずの耳はご機嫌斜めといった様子で斜めっている。

そんなフェリシアを見かねたレオヴァルドはある提案をする。


「なら、俺に剣を教えろ。お前…フェリシアの剣技は素晴らしかった。」


そう言われたフェリシアの顔色はみるみるうちに良くなり下がっていた耳もピンと立ち直した。


「いいわよ!私が先生になってあげる!」







傷が治ったあたりからフェリシアとレオヴァルドの剣の練習が始まった。レオヴァルドら毎日血反吐を吐きときにはゲロも吐きフェリシアの鬼のような特訓メニューをこなした。






――――――――――――――――――――――

5年の月日が流れた。

フェリシア・ヴェスペルはアスフェリア王国,近衛騎士団副団長に上り詰めた。

そしてレオヴァルドは––


「レオヴァルド!そっち行ったわよ!!」


「分かっている。全てよ灰燼に帰せ、フランベルジュ・イグニス」


フェリシアに言われレオヴァルドが詠唱をすると片手に持った騎士剣に豪火が纏われレオヴァルドに近づいた馬のような魔獣は一刀のもとに斬り捨てられた。


「ふう…」


「やったね!団長さん!」


レオヴァルドはアスフェリア王国,近衛騎士団団長になっていた。その剣技は師であるフェリシアをゆうに超え、龍族としての血が魔術の才能を目覚めさせ、武器に魔術を纏わせる離れ技をレオヴァルドは編み出した。

龍族の血により再生速度は速く、背中についた翼では短時間ではあるが飛ぶこともできる。


最強。そう呼ばれていた。


二人は幾度となく戦場を共にし背中を預けあった。そして心の距離もどんどん縮んでいき…


「フェリシア、俺と結婚してくれ」


「…ぷっ!あはは!お付き合いより先に結婚してって言うの?」


「ダメなのか。」


「そんなこと言ってないよ!私レオヴァルドのこと好きだし!」


「そうか。」


「うん。そう。あっ明日からはただのレオヴァルドじゃなくてレオヴァルド・ヴェスペルだね!!」


アスフェリア王国の近衛騎士団団長と副団長は結ばれた。




――――――――――――――――――――――

数ヶ月後アスフェリア王国のあるところで…



荒れ果てた廃村の一角に集まった者達が話し合っていた。


「近衛騎士の団長も副団長も魔族だなんてありえねぇ」


「団長は龍族の混血だからまだ人間としての誇りがあるかもしれんが副団長のエルフは純血だ。」


「魔族なんて消えちまえばいいんだ」


そこは魔族排斥派の集まりだった。その集まりの数は数百を超えている。

そのうちの一人があることを言った。


「そうだ、反乱だよ。俺たちで魔族を殺すんだよ!副団長のエルフだけは絶対に殺してやる!もちろん龍族もな!」


一斉に歓声が上がる。殺してやる。殺せ。息の根を止めろ。この世から消せ。様々な暴言が飛び交う。

そこに––


「テメェらいいじゃねぇか。」


「!?誰だお前!!」


集団の最後尾に男が現れた。洗朱色の結ばれた髪は腰まで届いており上半身は服を着ておらず身体中に入った赤い刺青のような模様がよく目立つ。下半身には黒色のズボンを履いており膝あたりから金色の鎧が装着されている。そして手には瓢箪に入った酒を持っており予備の瓢箪酒が腰に付けられている。



「貴様!魔族か!!」


「あぁ?確かに俺は鬼族だな。」


集団が一気に殺気立ち目の色が変わる。あるものは武器を取り出して構えた。あるものは魔術の詠唱を始めた。だがその全てが次の一言で中断される。


「俺は終焉の四騎士の戦争。アンタレス・アレイスだ。」


集団に衝撃が走った。


「終焉の…四騎士!?」


「やべぇじゃねぇかよ!」


「逃げるぞ!!」


するとアンタレスが両手を上げ思いきり叩き騒ぎを一蹴する。


「まあ待てよ。別にテメェらを取って食おうってわけじゃねぇよ。」


魔族排斥派のトップのような立場のものがアンタレスの前に立つ。


「では、なぜこのようなところに?」


「んーテメェらよ、戦争起こしてぇんだろ?それに俺が協力してやるって言ってんだよ。」


「本当ですか?」


「ああ。魔族がトップの騎士団と大戦争なんて…最高じゃねえかよ!!!!!争いこそ!戦場こそ!蹂躙こそ!殺戮こそ!血煙こそ!侵略こそ!抗争こそ!虐殺こそ!戦火こそ!戦乱こそ!皆殺しこそ!それが!それこそが!俺の生きがいだァァァ!!」


歓声が上がる。普段から満足に食べられていないであろう者達から上がる声とは思えないほど大きく。


「テメェら!!近衛騎士団をぶっ潰すぞォォォ!!!」


最悪の足音はレオヴァルド達に迫っていた。










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