表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

うそをつかないうそつき鏡

「あれっ?」


 買ったばかりのドレッサーの鏡に映った自分の顔を見て、ユカは声を漏らした。


「あたし……こんなに可愛かったっけ?」


 個人経営のリサイクルショップの片隅で見つけたその白いドレッサーは、まるでお姫様が使うようなアンティーク品で、三万円ぐらいでもちっともおかしくないのに、ついていた値札は三千円だった。


「貴女は美しい!」と、いきなり鏡が喋った。


「えっ」

 ユカは声をあげた。

「ほんとう? 嬉しい!」


 元々ちょっと可愛い自覚はあった。

 でももっともっと可愛くなりたいと思っていたので、鏡のことばは素直な音色で彼女の琴線を鳴らした。


 鏡は続けて喋った。

「ほんとうです! 貴女はなんて美しいんだ! きっとそのうちみんなに発見されて『新潟の奇跡』ともてはやされるようになりますよ!」


「でもあたし、もう29歳だし……」


「手遅れではありません! 私の言う通りにすればもっと綺麗になります! そうすれば年齢など関係ないですよ!」


「わっ、どうすればいいの?」


「まず、眼球に指を突っ込み、取り出してください」


「……取り出したわ。それで?」


「眼球が入っていた穴から皮が剥ぎ取れるはずです。剥いでみましょう」


「すごい! ペリペリって剥がれる! 肉まんの皮みたい! それから?」


 鏡の中でどんどん色づき美しくなっていく自分の顔を見ながら、ユカは狂った笑顔で続きを促した。


 鏡は言った。

「ドレッサーの一番上の引き出しにナイフが入っています。それで自分の心臓を一突きにしてください」


「わかった!」

 引き出しから古びたナイフを取り出すと、ユカはそれを思い切り自分の胸に突き立てた。


 ぐむ、というような声を最後に、ユカは前のめりに倒れ、動かなくなった。顔の皮を剥ぐ時に一緒に取れていた髪が藁のように揺れ、悪霊のようになったその死顔が鏡に映る。


「美しい……」

 物言わなくなったユカに、鏡は語りかけた。

「美を求めて滅ぶ女性の姿が、うそなどではなく、私にとってはほんとうに一番美しいのです。美しいものを見せてくれてありがとうございます」


 鏡の中で黒い影が立ち上った。それはゆっくりと鏡を這い出ると、ユカの死顔を舐めるように観察し、それからゆっくりと窓の外へ姿を消した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
何の躊躇いもねえっ!? 目ん玉抉ったらその鏡も見られなくなるのになあ、って見てるな? 片目だけ? このリサイクルショップはグル? 段ボール詰めならわざわざ確認はしないけど、リサイクルショップならドレ…
程々の所で「これで良いや」と妥協する事が出来ずに取り返しのつかない所まで行ってしまうのが、美の追求の恐ろしさなんですよね。 ユカさんの末路は整形依存症に陥った人達のそれにも、ある意味通じる物がありそう…
インチキ美容に引っ掛かる女性心理のメタファー  かなしくせつない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ