【第4話】入寮、そして1年次
「同部屋なんて幸運だよな!」
「そうだな。同郷だから気を遣ってくれたのだろうか……。なんにせよありがたい」
「今日はもう自由だと思うとなんだか元気が出てきたし…まだ早い時間だから王都を探索してみようぜ」
「そうだな。ついでに晩飯もどこかで食べよう」
王都を探索し終え、酒場で晩飯をすました帰り道に行商人たちの露店が目についた。
「お、昼にはなかった店があるじゃん。見てみようぜ」
「ああ、行ってみよう。何かいい店があるかもな」
広場の端、テーブルや屋根のある店とは違い、床に布を広げて露店をやっている行商人の中に見慣れぬ種族がいた。好奇心で話しかけようとしたところ、こっちの目線に気付いた彼から話しかけられた。
「旦那さん、何かお求めですか!」
独特なイントネーション、種族的にも恐らく他国から来たのだろう。どうしても気になって聞いてみる。
「別に何か欲しいとかじゃなくって……あんたのその角が気になって。一体何族なんだ?」
「ん? あー! ボク、鬼人族なんですよ。数日前、東国から辿り着いたばかりで」
「……鬼人族。確か東国発祥の種族で、大半が東国にいると父さんから聞いたことがある。珍しいな」
「そちらの亜人族の旦那さんは詳しいですね~。ここで出会ったのも何かの縁、是非何か買っていってくださいよ!」
つい勢いに気圧されて、東国の特産品らしい魚の干物をいくつか買った。
寮で寝る前に大切な話を切り出す。
「なあ、スウェロ。話があるんだけど」
「どうしたんだ。改まって」
「パーティーの組み方聞いたか? 学園が決めるってやつ」
「ああ、聞いたぞ」
「俺達……剣士と重装として同じパーティーになれるかな」
「さあな。だが、もしなれなかったら卒業後に組み直さないか?」
「……! いいぜ。というか俺も今からその提案をしようと思ってて」
「はは、同じこと考えてたとはな。正直、いつ話そうかと思ってたくらいだ」
「これで心配事もなくなったし、明日からの授業、頑張ろうぜ」
「ああ、頑張ろうな。……そろそろ寝るか」
――――学生生活が始まって間もないある日の授業。
「今日は魔法の基本について勉強していくぞ。……なんだ、ワシが純剣士だから不安か」
ダロス先生が魔法などをあまり使わず、大ぶりな剣をその鍛え上げられた力で豪快に振り回す戦闘スタイルをとる事を知っている俺達からしたら当然の反応だった。
俺も……ダロス先生が魔法を使うイメージすらできなかった。
「あのなぁ、いくらワシ自身が魔法をほとんど使わないからといって、魔法について詳しくない1級冒険者がいると思うか? そりゃあ、もう現役じゃあないし、本職に比べると赤子のようなもんだが、ワシら剣士に必要な内容は話せるぞ」
それもそうかと納得したかのようにみんなが話を聞く雰囲気になった。
「ははは、わかればよろしい。では、魔法について話していくとしよう。魔法ってのは体内に大気中のマナを取り込み、体内の魔力と練り合わせて使用する。この練り合わせる行為を錬成と言ってだな、ここで技量が出る。上手い奴ほどロスが少ない、つまり低コストで魔法が使えるってワケだ」
魔法って思ったより難しそうだな。
入学試験の時に計測したけど、俺は魔力が少ないって言われたし、純剣士を目指すのがいいのだろうか。……できれば魔法剣士になりたかったけど。
「なんと素敵なことに、魔法はイメージが付くものであれば、理論上どんな魔法も使える。ただ、魔法は具体的にイメージ出来なくっちゃあいけねえ。その上、錬成しながらだ。これは手練れの魔術師でも非常に難しい。だから、実際のところ使われる魔法ってのは一般化された魔法、つまり昔から誰もが使ってて簡単にイメージできる魔法ばかりだ。」
俺にもたくさんの魔力があれば……空とか飛べたのかな。
午前の終わりを告げる鐘の音が鳴る。
「よし、座学は終わりだ。今日の訓練は第1演習場で行うぞ」
「ちゃんと全員いるな。今日は2人1組で模擬戦形式で訓練だ。だが1人休んでるから、そうだな……アレン! お前さんはワシとやってもらう」
「はい!」
「では各自、近くのものと組んで取り組むように」
ダロス先生と組めるなんて……大きな、成長の機会だ。
ある程度打ち合い、体の使い方のアドバイスをいくつか貰う中で、魔法に関しての話題になった。
「アレン、前から気になっていたが、お前さん魔力が相当少ないんじゃないか?」
「そうですね。入学試験の時の計測で5段階中、1でしたから……」
「……にしてもだ。身体強化魔法が使えないレベルってのはワシも聞いたことがない。全く魔力がないわけではないようじゃし、何か特異な体質なのかもしれん。或いは、祝福か……」
「ダロス先生、祝福ってのは」
そこまで言葉にしたところで、模擬用の剣が大きく弾かれて地に落ちる音がした。
音のした方にみんなが注目する。
音の原因はガストンだった。ガストンの圧倒的な力によって、訓練相手が弾き飛ばされたようだ。
「おいおい、大丈夫か。こりゃあ、軽く目眩を起こしてんな。お前たち、ワシはこやつを救護室に連れていく、今日はもう終わりにする。帰って自主訓練をやっておくように」
聞きたいことを聞きそびれたが、怪我人が出た以上それどころじゃない。仕方ないので、みんなと一緒に道具を片付ける。
「俺は強くならなければいけないというのに……」
ガストンが真剣な表情で何か呟いていたが、聞き取れなかった。
――――――1つの運命の朝、1年とは案外早く過ぎるものだ。
「今日から、2年次か。1年間って、過ごしてるときは長く感じたのに、気付けばあっという間だったなー」
「そうだな。最初は訓練が辛くて永遠に終わりが見えなく感じるほどだったが……慣れると次第に体感速度が上がった」
「入学したあの日と比べると……俺達、身も心も強くなったな!」
「まるで、別人になったような感じだな」
「そろそろ講堂へ行こうぜ!」
「ああ、パーティー分けの発表を聞きに行かなきゃな」
寮を出て、講堂へ向かう。どうにも気が逸って、早足になってしまう。
「パーティー分け、どうなってるだろな」
「行けばわかる!」
「はは、それもそうか」






