【第19話】師匠の背を追って②
――空が、青い。
もう立ち上がる余力すらない。今日だけで何度打ちのめされただろう。稽古と言うより蹂躙と表現すべきだろう。それほどまでに圧倒的で、手が届かなくて……。
「やっぱ、ラハル師匠は強いですね」
「まあ、これでも最強だからね。ただ……アレン、キミも強くなる。オレよりは、とは言わないが必ず」
ラハル師匠はいつになく真剣に言う。どこか、自分に言い聞かせているかのように。師匠として俺を必ず高みへ連れて行くと誓うように。
「さて、今日はここまでにしようか。特製ポーションも飲んでおくように」
「……わかりました!」
昨晩の激痛を思い出し、思わず苦笑いしてしまう。だがこれも強くなるためだ。そう思うと不思議とどこまでも頑張れる気がする。
それに、ここまでラハル師匠が期待してくれているのだ。この程度で立ち止まるわけにはいかない。ただ痛いだけで死にはしないのだから。
こうして、稽古と低難度のクエストを往復するような生活が始まった。
ある日は稽古の疲れで、採取の間違いをしたり、逆にクエストの疲れで、稽古で強烈な一撃を防げなくて宙を舞ったこともあった。
そんなこんなである稽古の日、ラハル師匠が右手に模擬剣を構えていた。
「今日からは右手でやる。アレン、キミも薄々感じているはずだ、オレと出会ったころから随分と自分が強くなったことを」
「それは、感じていますけど……。いくら何でもラハル師匠が利き手を使ったら稽古にすらなるかどうか」
「キミは自分を過小評価しすぎだ。出会ったころに比べるとね」
「それは……」
最初の手合わせの時の自信満々なセリフを思い出させられ、恥ずかしさを感じる。そんな俺を見て、ラハル師匠はいたずらっ子のように笑みを浮かべていた。
結論としては、防戦一方であった。なるべくしてなったという感じではある。しかし、防戦一方とは言え、全く話にならないというわけではなかった。少なくとも宙を舞ったり、全身傷だらけにはならずに済んだのである。
ラハル師匠が右手を使うようになってから日が経ち……、気が付けば息が白ばみ、それはクラス別大会の模擬戦が近付いてきたことを示していた。学園全体としてもみんなが意識しだしたと言っていいだろう。
そんな中での稽古でそれは起きた。
「くッ……。ついに、か」
「今の……!」
ラハル師匠の肩に模擬剣を掠らせることに成功したのである。
その瞬間というものは存外、意図していないタイミングで起きたものであった。俺としてはいつも通り、今まで培ってきたものを全力で出しただけだった。
「おめでとう、アレン。これで模擬戦で優勝も夢じゃないな」
「ありがとうございます!」
ラハル師匠は淡々と、事実を伝えるように言うがどこか嬉しそうで満足気だった。




