入学式①
――――入学式の日。日が出て、間もなく。
起きてすぐに、カーテンの隙間から射す、弱い朝日が薄っすら開けた目に入った。
「……ん。まだ早い時間なのに目が覚めてしまった……」
今日の日程を考えたら、もう少し寝ていた方がいいような気がするけど、興奮で目が冴えてどうしようもない。
何かして時間を潰そうと考えて……剣の手入れでもしようかと思いついたけど、気持ちよさそうに寝ているスウェロを起こしそうだからやめておこう。
結局寝れるか怪しいのに、布団で寝ころがって目を閉じることにした。
……思った通り眠れないから目を閉じたまま、今後の冒険を想像してみた。
俺も冒険者になったらアルディンの冒険譚に出てきたような、見たことも聞いたこともないような未知の場所、未知のモンスター、未知の宝に出合えるだろうか。アルディンみたいに気の合う仲間達に逢えるだろうか。
考えるだけでもとってもワクワクする。早く入学式の時間にならないかな。
そんな感じであれこれ考えていたらスウェロが起きる物音がした。いつの間にか起きなければいけない時間になってしまったみたいだ。
俺は起き上がり、布団であくびをしながら伸びをしているスウェロ声をかける。
「おはよう! スウェロ!」
「……朝から随分元気だな。いつから起きてたんだ」
「んー、確か日が出て間もないくらいかな」
「そんな時間から今まで何してたんだ?」
「学園入ってからのこと考えてた。楽しみだなって」
「そうか。俺も……楽しみだ」
俺たちは着替えを素早く済ませ、朝食を取った後に学園へ向かうことにした。
ドアを開けると雲一つない晴天が俺達を迎え入れた。
「なあ、スウェロ。こんないい天気、俺達の冒険者としての未来を祝福してるみたいじゃないか?」
「入学試験合格の手紙が来たあの日を思い出す空だな。俺も全てが上手くいく気がするよ。」
華やかな大通りに並ぶ、様々な店を眺めながら歩いて行くと、十数分で学園の正門に着いた。
遠目に見えてきた時から感じていたが、正門の前まで来て改めて、王立が故の荘厳さと規模の大きさに気圧されてしまう。
「な、なあ、スウェロ。ここであってる……よな?」
「ああ、地図によればそのはずだ」
「俺達本当にここに通うのか? なんだか俺、不相応な気がしてきた」
「おいおい。今までの勢いはどうしたんだ……」
そんな感じでまごついていたら、不意に後ろから不機嫌そうな声が聞こえた。
「おい、貴様ら。邪魔だ。どけ」
「あ、ごめん。気が付かなかった」
声の主は上質な服を着た短い金髪の人族の男だった。
俺達が道を開けたところ、男は学園に入っていくかと思いきや、こちらに振り向いた。
「貴様らみたいな観光感覚で来てる田舎者は王選冒険者に成れん。真剣にやってる他のやつらの迷惑だ。わかったらとっとと村に帰ってクワでも握ってるんだな」
「なっ……」
投げかけられた言葉は、アレンの頭に血を上らせた。
剣とは剣士が剣士たる最大の所以である。男の言葉は剣を手放せと言うのと同義であり、剣士となるアレンにとって最大の侮辱であった。
何か言い返そうとするが言葉が上手く思い浮かばず、そうこうしている内に男はそそくさと学園の中に行ってしまった。
「おい、待てッ……」
「落ち着けアレン。こんなところで喧嘩なんて起こしたら、入学取消になるかもしれん」
「そうだけど……あいつ……」
「気持ちはわかるが堪えろ。結果で見返してやろう」
「……そうだな。おかげで覚悟が決まった。行こうぜ」
二人は決意を胸に学園へ足を踏み入れるのであった。
そして彼らの学園生活が幕を開ける。