【第17話】師匠④
「それで、これからの稽古についてだけど……」
「それより、お前さん、自己紹介がまだじゃないか?」
少し離れたところでずっと見ていたダロス先生がいつの間にかそばに来ていた。
言われて気付いたが、男の名前も素性も知らない。どこかの部隊の副部隊長くらいの人という認識のままだ。
「確かに、自己紹介がまだだったな。オレはラハル・ヘルシング、一応王国軍の副団長だ」
「副団長……?!」
剣士最強は誰か。誰もが一度は考えたことのある疑問だろう。
では、実際にいろんな人に聞いたとしよう。するとどの国の誰に聞いてもみな同じように答える。アルディン王国の王国軍副団長だと。
確かに常識的にあり得ない強さだった。それにしても、こんな易々と世界最強の剣士に会えてしまうのか。ダロス先生の人脈、どうなっているんだ……。
「まあ、副団長だなんていうけど、正直……他国に対するアピールのためってところだよ。国家の下でちゃんとコントロールされてますっていうね。これでもオレ世界最強の剣士だから」
「そう、なんですか」
やはり、あまりに強いと行動に制限がかけられるものなのだろう。手に負えない脅威と見なせば、排除しようとするのが人の心理だ。
だから、俺に稽古つけれるくらいには暇なのか……?
「とはいえ、オーストン陛下は寛大なお方でね。立場と公的に剣を振るうことには縛りがあるけど、基本自由さ。国によっては半ば幽閉されててもおかしくない」
「ということは、今日の手合わせは……」
「そうだね、あまり大っぴらに話されると困るかな」
そう言って、ラハル副団長は困ったように笑い、肩をすくめた。
「話が戻るけど、稽古は明日から始めよう。基礎トレーニングをして、その後今日みたいに実戦形式で特訓……というところかな。そのうち、クラス別大会の模擬戦があるだろう?」
「そうですね……。俺、模擬戦で優勝したいんです」
「いいね、そう来なくっちゃ。オレの弟子なんだ、最強の冒険者目指してもらうぜ!!」
ラハル副団長が嬉しそうに俺の肩を叩く、王選冒険者に近づくため、だけじゃなくこの人の期待に応えたいと思う不思議な魅力のある人だ。
この人が副団長になったのは、単に強さ故の縛りというわけではない気がした。万人に好かれる人ではないとは思うけど、波長が合う人には絶大な支持をされていそう、という感じだ。
「ま、今日はこんなところとしよう。特製ポーションのこともあるしね」
「そういえば……そうだ……。頑張って……耐えます! それと、明日からお願いします!」
「はいはい、それじゃまた明日」
今日はあまりに疲れたのと、特製ポーションのことがあったから、早く寝ようと思って、布団に入って目を閉じると……何か変な感じがする。まるで筋肉が捻じれるかのような、激痛。
「ぐぅ……ッ!!!!」
自然と呻き声が出た……はずだが、痛さのあまり声にすらならなかった。おかげでスウェロを心配させることはなかったが、ただ耐えるほかなかった……。




