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【第16話】師匠③

 途端に目の前の男が別人のように感じた。当然、視覚的な話ではない。生き物として、ここから少しでも遠くへ逃げ出さなければいけないと感じる。

 男の様子は何も変わっていないのというのに。


「一撃だけ。死なないようにはする」


 男は深く息を吐きつつ、模擬剣を持った左腕を中心に体を捻っていく。深く、重く、空気が捻じ曲がっていくような錯覚すら覚える。

 間違いなくさっきよりも強力で速い横薙ぎの斬撃が飛んでくるのは明白だ。


 どうすれば、どうすればいい。

 防御する? 防ぎきれる気がしない。

 模擬剣を振る前に攻撃して止める? 間に合う気も止めれる気もしない。

 避ける? どこに? どうやって?

 飛んだり、伏せた程度で凌げる規模でもないだろう。


 1つ、思い浮かんだ。成功するかもわからなくて、成功しても無傷では済まない可能性が高い案が。

 ……だけど、何もせずにこのまま斬撃を受け入れるのは、どうにも癪だ。


「……やってやる。やってやるぞッ!!」


 恐怖が支配する身体を奮い立たせるために、己に言い聞かせるように、吼えた。

 模擬剣を両手で強く握り、正面に構える。呼吸は浅く、肩に力が入っていることを自覚するが、どうにもならない。調子は最悪と言っていいだろう。


「さて、行くよ」


 男の冷たい声が耳に届き、男が模擬剣を振るう。男を中心に空間が歪んで見えた。……思考が入り込む隙間もなく、人を丸々飲み込んでしまいそうな斬撃が飛んできた。


「負けて、堪るかああああああ!!」


 力の限り、全力で斬撃に向かって模擬剣を振り下ろした。

 重い、一撃。身体ごと空中に振り投げられそうだ。必死に斬撃に対抗するが、筋肉、骨、関節、全身から軋む音がする。痛いのか、痛くないのかもわからない。尋常じゃない速度で身体が限界に向かっている。それでも、立ち向かうと決めた以上、諦めるわけにはいかなかった。


「俺はッ!! 強くなるんだッ!!!!」


 死力を振り絞った時、それは訪れた。

 ……模擬剣が、砕け散った。バラバラにではなく、粉々に。それも、斬撃と相殺する形で。


「なッ、え、は……? 俺、やったのか?」

「へぇー、死なないようにはしてたとはいえ、オレの斬撃を相殺するとは。初めてだよ。アレン君、キミのことすごく気に入った。明日から鍛えてあげる」

「ほ、本当ですか!! ありがとうございます!!」

「お礼なんかいいよ。とりあえず、これ飲みな」

「ポーション……ありがとうございます!」


 俺を労わってくれたであろうポーションを一気に飲み干す。


「何か、味が違う……?」

「そう、よく気が付いたね。それは特製ポーションさ、よく効くよ」

「そうなんですか」


 これは……王国軍内でのみ利用されている秘密のポーションとかなのではなかろうか。


「あ、でもよく効く代わりに結構痛いけどね」

「え?」

「そりゃあ、普通より早く、しっかりと治せるからね。それに治癒魔法と違って自然に治すのと変わらないから筋肉も育つ」

「そ、それは嬉しいですけど……」

「まあ、後、即効性ではないから痛みが出るのは帰ったころだと思うよ。それに、強くなりたいんだろう?」


 男はいたずらっ子のように笑みを浮かべた。

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