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サイクリングのキラキラ

作者: 沢木 翔

電動自転車が届いた。


横浜は本当に関東平野に属しているのかというぐらい、坂が多い。

自宅付近もどちらの方向に行っても急な坂道だらけ。

もう還暦も過ぎているし、自転車を買うなら電動自転車一択と根性なく日和っていた。


今年の2月の下旬に、自転車屋に下見に行っていたのだが、その時はもうすぐパックラフトの季節になるので「川下りのシーズンオフになったら、もう一度考えよう。」と先送りしていた。


11月下旬になって自転車屋に再び行ってみたら、なんと春先より軒並み値段が万円単位で上がっている。「2月に買っておけば、、。」と公開した。


結局、電動自転車でのサイクリングを本格的にやっている後輩のお勧めに従って、

①見た目がママチャリ風ではないけど実は乗りやすい

②ハイブリット車のように坂道やブレーキを踏んだ時にはバッテリーに充電するので、走行距離が長い


というタイプに決定した。



自転車が届くと早速試運転。

おおっ!急こう配で普通の自転車なら絶対無理という坂道もスイスイ登って行ける。

調子に乗ってそのまま2駅先のホームセンターまで行って、空気入れ、レインカバー、スマホホルダーを購入。

なお、着用が努力義務化されたヘルメットはネットで野球帽タイプの物を手配してあった。


しかし、45年ぶりに自転車に乗るとすぐにオシリが痛くなった。

まあ、「慣れれば」とは思うが、サドルがスポーツタイプなので硬いため、またもや日和って今度はクッション機能のあるサドルカバーを買わなければと思っている。



自転車には何故かちょっとキラキラした思い出が多い。



最初に自転車を買ってもらったのは、幼稚園の年長のときである。

しばらくの間は後輪に補助輪を付けていたが、もうすぐ小学生というタイミングで、私の様子を眺めていた父が「そろそろ、いいだろう。」と言って補助輪を外した。

最初は転ぶんじゃないかとドキドキしながら思い切りペダルを踏んだら、意外にもスイスイ走れた。

もう嬉しくて嬉しくて、当時住んでいた名古屋の公団アパートの周回道路を何周もした。

この時はちょうどヒナ鳥の初飛行と同じような気持ちだったんじゃないかと思う。


その後は、これまで行けなかったようなちょっと離れた場所にも自転車を漕いで行くようになって、行動半径が拡がったせいか日々新鮮な発見があった。


荒井由実の「やさしさに包まれたなら」の出だしの歌詞は

「小さい頃は神様がいて、不思議に夢をかなえてくれた」

とあるが、本当に神様の存在を実感する日々だった。



高校一年の夏休みは愛知県にあった実家がリフォームをしていたので、工事の騒音やエアコンが使えなくなるという理由をつけて、たびたび自転車に乗って隣町の冷房の効いた図書館に避難していた。

しかし、図書館では根を詰めて勉強するわけでもなく、適当に仲間とつるんで喫茶店に行ったりして時間をつぶしていた。


きっかけは忘れてしまったけれど、その図書館である日、同学年の女子と話をするようになって、しばらくして何故か2人で図書館からサイクリングで明治村まで行くことになった。


図書館から犬山市にある明治村までは片道15㎞位。

自転車で行ったのでそんなに時間はかからなかったが、とにかく暑かった。


明治村が面している入鹿池の畔の木陰で私がキリン・レモンを飲んでいたら、彼女が「喉がカラカラ!」と言っていきなりビンを奪って飲んでしまった。

そのあと「ゲッ!間接キス!!」と言って笑い転げるちょっと南沙織っぽい彼女の横顔がとても眩しかった事を覚えている。



社会人になって、20代最後かつ独身最後という「サラバ青春」の夏休みには大学クラブの後輩と2人で高知の四万十川にカヌーを漕ぎに出掛けた。


スタートして2日目に支流の黒尊川が合流する「口屋内」という場所の中洲でキャンプをした。

すぐ近くには、知り合いで私と同い年の国体にも出場したカヌーの選手が住んでいて、その夜は一緒に中洲で飲み明かした。

彼の実家は酒屋なので、「燃料」は無尽蔵。

ツマミは黒尊川のアユや川海老、ヅガニ。〆は天然ウナギのかば焼きという盛大な飲み会であった。

また、満天の星がきらめく夜は、川の水がクーラー代わりになってシュラフなしでは寒いぐらいの快適な睡眠環境。

この世の極楽かと思った。


翌朝になると、余りの素晴らしさに予定変更してもう一泊することになり、まず川海老やウナギを獲る仕掛けを借り出してセットしてから川下りに出発した。


ゴール地点のキャンプ地には自転車を一台置いていき、酒屋の軽トラを借りてカヌー一式を荷台に乗せてスタート地点を目指す。


3時間ほど四万十川の瀬を楽しんでゴールをすると、軽トラを回収するために私が自転車を漕いでスタート地点を目指した。

蝉時雨のなかをオニヤンマとアゲハ蝶が群舞する川沿いの田舎道を自転車で走っていると、「たった今 若さの真っ最中〜〜ぅ サンキストドリンクー。」というCMソングが急に甦って来てずっと口ずさんでいた。



冬の間はパックラフトはシーズオフになる。

これまでは代わりにロングウォークを行ってきたけれど、今年からサイクリングが加わりそう。


新たなキラキラが見つかるような歳ではないけど、せめてオシリの皮を鍛えておかなければ。



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