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47 罷免投票

 騎士によって床に伏せさせられた運輸副大臣を忌々(いまいま)し気に見た運輸大臣はこめかみをヒクヒクさせながら元第一政務官を(にら)みつける。


「貴様……あれほど金を受け取っておきながら。つまりは貴様も同罪だ。己の首を締めるような(おろ)かなことをしよって」

 

「その金でしたら私の執務机の引き出しにそのまま入れてあります。私は元より大臣副大臣に常々抗議しておりました。なのにその金に手を付けるなどいたしません」


「ならば、その金の意味も聞かねばならぬな」


 国王はわざとあくびをしながら提言した。


「かしこまってございます」


 ニルネスはにっこりと笑って了承の意を伝えた。

 

「気分がすぐれませぬゆえ、私は失礼いたします」


 真っ赤な顔をした建設大臣が席を立とうとすると肩をガツンと押えられ椅子に座らされた。後ろを振り向いた大臣は三人の騎士に囲まれていることに気がつくと顔を青くするのだった。 

 

 同様に建設大臣と副大臣も罪が(あば)かれ椅子に縛り付けられているかのように固まった。

 建設大臣がふと顔を上げる。


「貴様! 誰だ! ワシは息子が近衛兵(このえへい)をしているから近衛兵とはほぼ顔見知りなのだ。貴様も貴様も貴様も! どこのやからだっ!」


 建設大臣は声を荒げ自分たちを囲んでいる騎士たちを指差(ゆびさ)した。


「陛下! (ぞく)です! 賊が(まぎ)れこんでおります! お早く宮へお戻りください!」


 この議会を終わらせてしまおうと建設大臣は声を張り上げた。


「賊なんかではありません。れっきとした私の部下です」


 国王の後に控えた騎士が怒鳴(どな)るわけではないがよく通る声を発した。


「お前は国王の側仕(そばつか)え騎士ではないか! 部下などとうそぶくな」


「このたび近衛騎士団団長をたまわり近衛騎士団再構成のご許可をいただきましたので、私が信の置ける者たちで(にな)うこととなりました」


「なんだと! うちの息子はどうなったのだ!」


「近衛騎士団は監査部の調査の上、適切な処分が科せられました。もちろん潔白な者もおりましたので近衛騎士団に引き続き所属しております。侯爵閣下のご子息がどうなったのかまでは把握しておりません」


 近衛騎士団団長の言葉をニルネスが引き継いだ。


「閣下のご子息でしたら、職務怠慢(たいまん)、勤務態度劣悪(れつあく)により、辺境(とりで)十年の下級兵勤務となりました。本当は横領もあったのですが、閣下の奥方が即座に返金したのでそちらは不問といたしました」


 あまりに多くの者たちが不正に関わっており全員を首にすると防衛がままならないため寛大処置をしたという裏事情があるのだが、それが伝えられることはない。

 建設大臣は(ひざ)から崩れ落ちた。 


 ここまでの様子を呆然と見ていた法務大臣に国王は冷たい視線を送る。


「法務大臣よ……」


「私は何も不正はしておりません。彼らのように断罪されるものはないです」


 国王の声を(さえぎ)った法務大臣はつばを飛ばして身を乗り出す。国王がため息を吐きながらニルネスを(うなが)した。


「さすがに法務局の長でいらっしゃいますね。法の目をかいくぐる(すべ)に大変に()けていらっしゃる」


「ですが、それを利用して貴族の若者たちを(おとしい)私腹(しふく)()やすのはいかがなものでしょうか?」


 国王が利用する扉から現れた壮年の男はモノクルを上げながら(するど)い目を法務大臣に向けた。


「言われている意味がわからぬが?」


 ことさらに落ち着いた声で答える法務大臣は国王に直談判(じかだんぱん)する。


「国王陛下。時間の無駄です。彼らの大臣副大臣罷免(ひめん)の裁決をとりましょう」


「法務大臣! 裏切るのですかっ!」

「貴様っ!」

「ひえええ」

「だめだ……」


「私は君たちのように法を(おか)してはいない。まるで仲間のごとくな言い方はご遠慮願いたいものだ」


「貴方の入れ知恵で始めたことではないですか! 貴方にも便宜(べんぎ)金を渡しているっ」


「あれは我が領への投資金だと思っておりました。投資金により良いお答えできておりませんで申し訳なくは思っていますよ」


「もうよい。裁決をとれ」


「陛下! 我々に挽回のチャンスを!」

「私はただ……」


 すがる瞳を国王に向ける


「家の名誉を挽回するのは立場がなくとも可能だと思いますよ」


 ニルネスのからかう口調に国王が手を上げて制した。顔には「面倒だ」と貼り付けられていた。


「法務大臣。裁決してしまった方がよさそうです」


 ニルネスの促しで法務大臣が議長になり運輸大臣の大臣罷免採択を取ると本人たちの票があるため四対八である。聞かずともわかるとはいえ、国王の票で決定する運びとなった。


「陛下の票はどちらに?」


 にこやかな法務大臣を(うとま)しいと目をつむる。


「朕は四人の罷免に投票する。あとは好きにいたせ」


 その後は簡単に決まり、大臣副大臣でなくなった四人はニルネスの指示によって騎士たちに連行されていった。


「では、明日までに運輸局と建設局から職に見合う者を選出しておきますので、明日改めて選出選挙を執り行いましょう」


 自分が選んでくることが当然であるという雰囲気で法務大臣が締めくくろうとする。


「お待ちください。法務大臣殿のお話がまだでございます。先程は彼らがここにいると話が脇にそれてしまい陛下にお時間のご負担をおかけしてしまう恐れがあるがゆえに彼らの罷免裁決を先に行っただけです」


「何をおっしゃっているのだ? 私は確かに彼らから金銭授受していたが、それが国庫を(たばか)った金であるなど知りもしなかった。領地経営が途中であるがゆえに彼らに投資バックをできていないことは心苦しいところではあるが、ゆくゆくは彼らに大幅返還できるよう努力はしている」


 ニルネスと法務大臣の間に炎が揺らめいた。

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