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46 卒業申請

 フローエラがいなくなって数日後、アランディルスとバードルは五年目での卒業を、メリンダとスペンサーは四年目での卒業を申請した。


 さらにその数日後、王城での議会に法案が出された。


 法務大臣がツラツラと読み上げ、国王の前にそれを差し出す。


「陛下。サインをお願いします」


 国王はそれを引き寄せると目を通す。


『フンッ。内容もわからぬのにパフォーマンスだけは一流なことはさすがに王家だ』


 法務大臣と他数名の大臣たちの口がニヤリとひしゃげる。


「陛下のご負担を減らす法案でございます。陛下にはこれからも健やかなご生活をしていただきたく、今後はさらに我らが尽力するためのものにございます」


 それは各々の大臣たちの権限を大きくし、国王は社交のみとなるという法案である。さらには「大臣副大臣選出の選出と罷免は大臣副大臣たちの多数決によって決める」という法案も入っていた。大臣たちの中には真面目に国民のために働く者はいるがそれは少数で、この法案が通れば多数決で即刻追い出されることになるだろう。暗躍している者たちへの機嫌取りが尚更に必要になっていくことは簡単に見て取れる。


「なるほどな」


 国王はそれはそれは誰もが惚れるほどの笑顔を見せた。


『さらに遊べると理解したか』


 法務大臣がそれに応えるように笑顔を向けるが、次にはその笑顔が硬直した。

 ビリビリと音をさせてその書類が国王の手によって破かれたのだった。


「朕は暇を持て余しているゆえ、このような気遣いは無用だ。だが、こちらの法案は通してやろう。ただし、朕はこの多数決において大臣十人分の投票権だ。朕とは反対に投票しても(とが)めることはないゆえ心配するな」


 国王が脇に書類を動かし後ろに控えていた側近がそれをサラサラと書き加え戻すと、国王はドンと音をさせて玉璽を付いた。大臣副大臣は総勢十二人。ほぼ全員の意見が(まとま)らねば国王の意見を(くつがえ)すことができない。


「では、早速だが、大臣たちの罷免(ひめん)多数決を取ろう。と、その前に監査局からの報告があるそうだ」


 国王の目配せで現れたのは監査局副局長ニルネスであった。


「まずは、万が一を考えまして、失礼いたします」


 ニルネスが手をあげるとドアの騎士が扉を開き騎士団と思わしき者たちが二十人ほどなだれ込んできて、その者たちはドアやら窓やらを(ふさ)ぐように立ちはだかった。


「国王陛下にはお許しを得ておりますのでご理解ください」


 ニルネスは手元の書類に目を落とす。


「まずは運輸大臣殿。王都門の出入り数と運輸局からの出入り数報告にとても大きな差がありますがどうしたのでしょうか?」


 ガタンと大きな音を立てて大臣が立ち上がり副大臣は自身の肩を抱いてカタカタと震えた。


「そそれはっ!」


 大臣は隣で小さくなっている副大臣を見た。


「こいつが勝手にやったのでしょう。この様子が何よりの証拠です」


「大臣……それはあんまりです……」


 涙も出ないほど震えた声は聞き取れないが目線で何を言いたいのかは誰にも通じた。


「ですが、ここには大臣のサインがあります」


 目の覚めるような美しいニルネスの笑顔が恐ろしく感じる。


「私の筆跡を真似たに違いありません」


「そうか。では、大臣は仕事をしていないということになるな」


 これまで黙っていた国王からの声に振り向く。そこには無表情の男が淡々と結果を述べていた。


「大臣になって五年か。その分の給与の返済とその間にあったと予想される分の損益金の弁済を計算しておくように」


「かしこまりました」


 ニルネスと反対側の男が答える。


「お前! いつの間にそちらに!?」


 その男を指差(ゆびさ)したのは運輸大臣で、男は運輸局の第一政務官、つまりは部下である。


「こやつは計算力が飛び抜けておるゆえ、先日から朕付きの文官とした。知らなかったのか?」


 その文官にわざとらしく視線だけを向けた。


「大臣の机に勤務部移動指示書を提出してまいりましたが」


 小さく頭を下げて(うやうや)しく国王の問に答えた。


「そうか。朕の印はあったのだろうから問題あるまい」


 元第一政務官に密告されればひとたまりもないことを悟った副大臣は勢いよく立ち上がり逃げようとしたが壁のごとく立っている騎士の一人に華麗に床へと押さえつけられた。



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