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44 いじめ

 アランディルスたちはレイジーナの指示でもう一年勉強することにした。そんなアランディルスたちが五年目、フローエラたちが四年目が始まるとフローエラの態度が激変し、周りの者たちは驚きを隠せない状況である。

 フローエラがあからさまにメリンダを(いじ)めるようになったのだ。


「ローラ。今年はどの科目を専攻するの? 去年はこれを取ったからその延長でこっちをやってみない?」


「それはメリンダ様に合わせて差し上げただけですわ。わたくしは全く興味がないものです。メリンダ様のお好きになさったらいいのではなくて?」


「ロー……フローエラ様。でも……」


「わたくしはみなさまとお約束がありますの。失礼しますわ」


 大きな赤紫は一度もメリンダを映すことはなく、ウェーブのかかるふわふわの()色の髪を(ひるがえ)したフローエラは男性数人を引き連れて歩き出した。その少し後方にスペンサーがついていく。その後ろ姿を悲しく見つめるメリンダの頭をポンポンと優しく触れたアランディルスの横顔はメリンダより悲しそうだった。


「私……ローラを怒らせてしまったのかしら?」


「メルが悪いんじゃないよ」


 アランディルスは泣きそうな顔でメリンダを慰めた。

 そんなアランディルスはすでに十七歳。身近な者たちの前以外では、精悍な顔つきとなり堂々とした(たたず)まいで、まさに好青年となっていた。メリンダも十七歳で、幼さが抜け艷やかなストレートの青色の髪を両サイドアップにして生真面目さを表すまっすぐな紅い瞳はフローエラとの件だけは淋しく歪むのだった。


 メリンダからの接触が減ると今度はフローエラからメリンダに近寄ってきた。


「あら? それはわたくしのマネかしら?」


 図書室でレポートをまとめているメリンダの手元からそれを奪う。


「まあ! この内容はわたくしが発表しようと思ったものではありませんか。メリンダ様はわたくしのアイディアを盗みましたのね」


「そんな。だってこれは二人で」


「わたくしのアイディアを少しお話して差し上げたらこうなりますのね」


 フローエラの取り巻きと化した青年たちがわいのわいのとメリンダを(けな)す。そのうちの一人にフローエラがレポートを手渡した。

 

「本当だ。これは我々がフローエラ様と共同で発表し学長に提出する予定のものだ。邪魔立てしないでもらおう」


 軽く内容を読んだ青年はそれをギリギリと絞りズボンのポケットへ突っ込んだ。


 メリンダが厩舎(きゅうしゃ)へ行くとメリンダでも扱えるおとなしい馬は全て借り出されていた。誰かに譲ってもらおうと馬場練習場へ行ってみたら、いかにも上級者たちが初心者用の馬を乗り回している。メリンダが勇気を持って願い出るが全く相手にされなかった。

 そこに愛馬に(またが)ったフローエラが現れる。


「あら、メリンダ様。そんなに馬がほしいのならアランディルス殿下に強請(ねだ)ったらよろしいのではなくって? (こび)を売るのはお得意でしょう?」


 その言いようにまわりの者たちは馬上(ばじょう)から笑い声をメリンダに浴びせる。


「フローエラ様。アカデミーにはポニーを入れる個別厩舎はありませんよ」


「そうだ。僕から木馬をプレゼントしましょうか?」


 メリンダは目に涙を溜め唇を噛んで走り逃げた。


 メリンダが一人でいることを見計らうようにフローエラたちが近付く。


「メリンダ様。お勉強さえできれば良いというものではございませんのよ。少しは洗練(せんれん)された仕草を身につけられたらいかが?」


「小物一つでもセンスはわかりますのよ。学ばれることはお得意なのですからそちらもなさるべきなのではなくって?」


 眉を寄せて苦言を呈し、「フンッ」と鼻を鳴らす勢いで背を向けていくフローエラの後に、アランディルスやバードルがフォローする。スペンサーは目を伏せ気味にしてフローエラの背中を追った。


 悲しげに(うつむ)くメリンダに声をかけた。


「メル。よかったら家庭教師を紹介しよう」


「ですが、そのようなことをしてはまた……」


「なら、週末はうちの屋敷においでよ。シアと一緒に家庭教師に習うといい」


 アランディルスからの誘いの後であるため、バードルの誘いは垣根が低く感じてメリンダはその提案を飲む。

 ソフィアナ一家は夫が騎士爵を受けたこともあり、レイジーナの勧めで王城近くに家を購入していた。メリンダはバードルの妹シアリーゼとともにマナーや仕草や社交を学ぶようになった。元々優秀なメリンダはそういったこともどんどん吸収していく。

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