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43 男爵令嬢

「お兄様。バド。わたくしたちとともに入学したメリンダ嬢ですわ。彼女と同じ専攻も多いんですの」


「ちょっとお待ちくださいませぇぇ……」


 声を震わせたメリンダはフローエラを壁に引っ張っていった。


「フローエラ様がおっしゃっていたお兄様って王子殿下のことだったのですか?」


「? そうよ。知らなかったのですか?」


「はい。確かにフローエラ様は気品があって落ち着きがあって公爵家の方なのに気さくで、お側にいさせてもらえるだけで嬉しいなあとは思っておりましたけど。まさか王族とは……」


 眉間にシワを寄せて腕を組みムムと俯いたメリンダが独り言の小声で呟きはじめた。


「だからみんなが近寄らないの? フローエラ様がこんなにステキな方なのに離れているのはお若いからだと思っていたわ。こんな理由があったなんて……」


 男たちが近寄ってこないのはスペンサーが睨みをきかしているからなのだが、メリンダはそんなことは知るはずもない。

 フローエラのことはあまり知らなかったメリンダだが、アランディルスのことは他の新入生が噂をしていたので顔は確認していた。

 

「あれ? でも王子殿下はご兄妹はいらっしゃらないと聞いていたような?」


 フッとフローエラの顔を見る。


「そうですわ。「お兄様」といっても従兄(いとこ)なのです。でももう数年ご一緒させていただいておりますから、本当の兄だと思っています。バド……バードルは騎士爵なのでそう呼ぶようにとバドのお母様に言われているのですけど、バドのこともお兄様だと思っておりますの」


 社交界が好きになれず家で勉強ばかりしていたメリンダはフローエラのことも知らなかった。気が合いそうだと友人になって、数日後に妃殿下の実家公爵家の者だと知ったときには驚きすぎて後ずさっていた。だが、知ったときには、メリンダにとっても初めてできた気の合う友人だったため離れがたくなっていたのだった。


「スペン様は?」


 メリンダがアランディルスたちの方を見ると三人が仲良さ気にふざけあっている。


「スペンは弟ですわ」


「ぷっ」「ふふふふ」


 二人が笑い出したのを三人は(いぶか)しんだ目で見た。


「メリンダ様。お兄様もバドもスペンと同じですわ。メリンダ様がお気になさるようでしたら、三人とはお席を別にいたしましょう」


「そんなことしていいのですか?」


「お兄様が過保護なだけですのよ。お兄様の視界にいれば問題ありませんわ」


 こうしてはじめこそ別々の席で授業を受けていたが、ディスカッションやらワークやらをやっていくうちにいつの間にか五人でいることが多くなっていた。

 フローエラとメリンダは「ローラ」「メル」と呼び合うほど仲良くなった。


 そうなるとアランディルスがメリンダに恋をするのはあっという間であった。そして、メリンダも。

 すぐにレイジーナに報告されたが、レイジーナは特に何もすることなく若い者たちの心と行動を温かく見守っていた。


 ある日アランディルスはレイジーナに聞いた。


「フローエラのことは好きになるなとおっしゃったのに、メリンダのことは何も言わないのですか?」


「フローエラと出会った時はまだディも子供だったでしょう。近くに存在する女の子だというだけで好意を持ってしまうわ。でも、今のディなら、誕生会や茶会でいろいろな女の子たちと接して、その上で自分の気持ちを見つめることができる。

その時にフローエラを選ぶというのなら、反対はしないつもりだった。

結果的に貴方はフローエラを選ばなかった。それだけよ」


「フローエラを愛していないわけではありません。家族として唯一無二の妹です。母上が唯一無二の母であるのと同様です」


 レイジーナはそっとアランディルスを抱きしめた。


「わたくしもディを愛しているわ。きっとフローエラも同じよ」


『でも、フローエラの立場が難しくなることは避けられないわ』


 レイジーナはアランディルスを抱きしめながらもサイドテーブルの文箱に山になった手紙を見つめていた。


『公爵家からの手紙など捨ててしまっていいのに』


 律儀に手紙を持ってくるメイドたちに苦笑いしているのはアランディルスからは見えなかった。

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