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38 アカデミー入学

 この国の国立アカデミーは十二歳以上であれば誰でも入学できる。もちろん試験に受かれば、であるが。

 総計三百単位以上を取れる授業が用意されており、最長六年まで在籍が許されるが、毎年最低二十単位取れなければ強制退学だ。後は自主卒業システムで、年度末の三ヶ月前に卒業の申請をすることになっていて、「◯単位取得卒業です」というのが価値に繋がる。

 卒業生の申請を受けて次回の入学生の人数が決まり、人数が決まっているので入学試験の最低基準は毎年異なる。

 何点とっても安心できないシステムであるため年々基準が高騰していく。


 今年の新入生は五十人。その中で、アランディルスは一位、バードルは三位で入学した。入学までに数年を要する生徒が多い中で、十二歳の二人が上位であったことは注目された。


 アカデミーの男女比は四対一。全寮制で治外法権が認められていることに(ともな)い警備はしっかりとされている。


 図書室で単位表を見ながら二人は相談していく。


「結局二単位とか三単位を獲得できるものがお得ですよね」


「ああ。だが、難しいからその価値があるのだろう」


「高単位の授業を受けてみて、無理ならそれにつながる授業を取ればいいんですよ。そうすれば、来年以降は高単位授業が取れるじゃないですか」


「なるほどな。だが、これは基本から学びたいから一単位でも受けたいな」


 慎重派のアランディルスと大胆なバードルは、昔から相性がいい。


「来年にはローラとスペンが来るんですから、彼らと一緒にできそうなものは残しておきましょうよ」


 アカデミーの決まりとは別に、レイジーナからの指令がある二人にとって、効率は大切である。レイジーナには年間三十単位が最低ラインで、四年で卒業だと言われているのだ。飛び級制の制度もあり、自信のある授業はいつでも単位取得試験が受けられるのだが、アカデミー生活を楽しみたい二人にはそれを使う予定はいまのところない。レイジーナの指令が完遂できなかったときの最終手段と考えている。


「あのぉ。王子殿下……」


 テーブルに顔を埋めるようにしていた二人が振り向くと数人の生徒が二人を囲んでいた。


「何か?」


 バードルが眉を寄せて答える。アランディルスが答えて波風が立つことになったり揚げ足取りの材料になったりしないための対抗手段である。


「バード。ここはアカデミーだ。お前がそこまで気を張る必要はないよ」


「わかりました」


「それで?」


 アランディルスは先程までバードルとやり取りしていたリラックスムードは消して、無表情を男子生徒に向けた。アランディルスもバードルに答えなくていいとは言っても警戒はしている。その姿に生徒たちはたじろいだが、勇者の一人くらいはいるものだ。


「ぼ、僕たちはよろしければ殿下と課題研究のチームを作らせていただきたいのです」


 課題研究は単位授業とは別に学長に提出でき、内容次第で高得点単位となるレポートのことである。学長自らレポートの採点をしている。年に何度も提出することも可能だが、あまりに低レベルだと単位がマイナスにされてしまうので、無謀なレポートが提出されることはない。


「ああ……。すまん。僕たちは今年はレポートをする予定はないんだ」


「そうなんですか?」


「うん。今年はしっかり勉強して課題を見つけるつもりだ。面白そうな課題が見つけられれば、来年には挑戦するかな。その時、同じような課題を見つけていたなら一緒にやろう」


「わかりました!」


 無下に断られたわけではないことに安堵し、自分たちも勉学に励もうと決意を固めて生徒たちは離れていった。


「まさか政務の改善についての研究をしたいなんて言えませんよね」


 バードルが小さな声を出した。生徒の中には大臣たちに繋がる者たちもいるに違いないのだから(おおやけ)にはできない。


「学長に提出できるものでもないだろう」


 アランディルスはぷふふと肩を揺らして笑った。


「ですねぇ。研究とは別に単位もとらなきゃならないなんて忙しい忙しい」


 やれやれと(おど)けるバードルにアランディルスは声を出して笑った。その様子に驚愕する者やら安堵する者やら野心を抱く者やらと様々であるが、注目されているのは間違いない。

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