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37 アランディルスの成績

 アランディルスたちの家庭教師をしていた侯爵子息が退室させられるとそれぞれにワインが配られ、中央の男が口にしたのを皮切りにワインを口にしながら会談は続いた。


「王子がアカデミーの入学を果たすとなるとまた例の公爵閣下がのさばりますね」


「まさか娘を妹に差し出して王子へ色仕掛けの足がかりにさせるとは。いくら王妃に影響力はないとはいえ二代続けて王妃を輩出したとなれば、公爵の力の増強になることは間違いありますまい。

にも関わらず、さらなる策略とは」


「アカデミーに入学されてしまっては手が出しにくくなりますよ」


 国立アカデミーは他国からも入学生が来るほどの人気ぶりで、それもあって独自のルールを設けており、治外法権が数代前の国王に認められている。


「中に入る前でしたら、できることはありますよ」


「さすが! 公爵閣下! 頼りにしております」


 周りの者達が中央の男をおだて、中央の男は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に笑った。


(たわむ)れで試験を受けるだけだとは思いますが、念のため手は打っておくに限るでしょう」


「そうですな」


 応接室には自分の利益確保に自信を深めた男たちの笑い声が響いていた。


 そんな男たちの夢に陰りを見せたのは国王であった。


「王子がアカデミー試験を受けるそうだな。試験が終わり次第、その用紙と採点試験官を朕のところへ寄越せ」


「はい??」


「王子の採点を朕の前でせよと申しておるのだ」


「…………なにゆえ……?」


「朕に理由が必要か?」


「とんでもないことにございます」


「王子宮の執事から王子の筆跡がわかるものも取り寄せる予定だ。これで不正はできまい」


『国王は王子がよい成績を取ることを望まず、取れるとも思っていないのだ。それは良い。

だが、万が一のこちらの不正も……』


「左様でございますな。さすがです」


 大臣の一人は頬を引きつらせて頷いた。


 それでも万全を期したい大臣たちはあの手この手を考えた。学園は元々が治外法権であるし、それを掻い潜って見つけておいた不正の手助けをする者も国王が直に関わると知ると手を引いた。ならばと王子宮の執事を買収しようとしたが、(なび)く気配もなく、不正を持ちかけた文官が監査官に捕縛される事態にまでなった。


 大臣たちに残された道は侯爵子息の言葉を信じて王子が「馬鹿」であることを信じるだけだった。

 だが、レイジーナの教育の成果は抜群でアランディルスは大変優秀な成績であった。


 採点試験官が名簿に成績を書くと国王はテスト用紙を奪い取り真っ二つに破いた。


「はへ? あ……これはその……?」


「なんだっ!?」


「なかったことにせよという……?」


「貴様は朕に不正をせよと申しておるのかっ! 朕に恥をかけと……」


 目を細めた国王の姿に、採点試験官は床に頭を擦り付けて土下座する。


「とんでもないことにございます。必ずや正確に学園長へ報告いたしますっ!」


「出ていけっ!」


「はひぃ!!」


 破られたテストと名簿を抱えて転がるように出て行った採点試験官は大臣たちに買収され、ギリギリまで不正をできる機会を窺っていた者であった。廊下で大臣たちに捕まる。


「どうなのだ?」


「アカデミー開校以来の最年少成績優秀者ですよっ!」


「なにっ! では、手はず通りに」


「しませんよっ! 国王陛下はこの成績をご存じです。その上で「私に不正をさせるのか?」と問うてきました」


「それは、国王でなくお主がやれということでは?」


「「恥をかかせるのか?」と念押しされ、学園長に正確に報告することを約束させられました!」


 採点試験官は大臣たち相手にフンと鼻を鳴らして廊下を去っていき、後に残された大臣たちは呆然と立ち尽くしていた。


「これは由々しき事態。国政に口出しできぬよう手を打たねばなりませんな」


「そうですな。現国王の間に法を変えましょう」


 現在は一応、建前上では国王が取り仕切る国政ということになっている。これまでは何かあれば国王を犠牲にすればよいと考えられていたからだ。だが、優秀な国王が現れるかもしれないとなると話は変わる。五人は再び会談の約束をしてその場を離れた。

 血が上った五人には柱の陰からその姿を見ている視線には気が付く余裕はない。


 そして、その日の夜、一台の馬車が侯爵邸から静かに出ていったのだが、たった一台であることからほぼ荷をもっていないだろう。

 その馬車に震えながらうずくまって乗っていた青年が王都に戻ってくることはなかった。


 王妃宮ではレイジーナのお手入れ時間がいつものように進められている。


「この髪色も慣れすぎて何が自分なのかわからなくなってきたわね」


 湯船に浸かるレイジーナは肩口にかかる自分の()色の髪を指でクルクルと(もてあそ)んだ。


「左様でございますね。ですが、どのお色であられても妃殿下はお美しくあらせられます」


 笑顔のガレンはレイジーナの肩マッサージの最中である。


「ありがとう。いつかのために協力してね」


「もちろんでございます」


 レイジーナは安堵の嘆息をした。

 

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