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36 とある屋敷での会談

 勉強部屋に戻った男の子三人は興奮を隠せない様子であった。


「あんな天使ってありか? シアのやつがフローエラ様とお会いした後は浮かれていた意味がわかった気がするよ」


「ナシャから聞いていたけどさあ、本当に可愛らしい方だったね。バードはアランの生誕祭で会ったんじゃないの?」


「フローエラ様はお一つ下だからパーティーにいらしていないのさ。スピンも出席できなかっただろう」


「なら、アランとのダンスもまだなんだね」


「あの様子では同年代の男とは踊ったことないんじゃないかな?」


「どういうこと?」


「俺たちを男として全く見てなかっただろう? これまで接点がなくて俺たちはアランも含めて護衛騎士と気持ち的には同等なのだと思う」


「え?」


 呆けていたアランディルスがやっと反応を示した。


「本来ならチャンスって思うけど、妃殿下から好きになるなって約束させられているからな。あの約束の後にお会いしてよかったと俺は思っているよ」


「えー。それでもお可愛らしいよね。いつまでダメなのかなぁ?」


「アラン? 大丈夫か?」


 バードルがアランディルスの眼の前で手を振る。


「なんでもない。勉強するぞっ!」


 アランディルスはバードルの手を払い除け、本を開いた。


『賢そうだった。可憐だった。とても……可愛かった……』


 アランディルスは(カブリ)を振って打ち消した。


 男の子たちはレイジーナの指令通り自分の気持ちが進まぬよう気をつけながら、週に数回、フローエラも含めた授業を受けていった。


 こうして数年後、アランディルス十二歳。

 アランディルスの婚約者が決まるまでは生誕祭が毎年行われることになっている。三度目となる生誕祭でのアランディルスは完璧な笑顔を見せ貴族子女たちを魅了した。

 その中で、アランディルスとフローエラがダンスをすることはなかった。実兄公爵はかなり難色を示していたが、レイジーナが「これ以上「特別扱いをしている」と周囲に思われると邪魔立てが入る恐れがあり、陛下からの反感を招くかもしれない」と説得され、首を傾げながら承諾した。


 翌日から王城である噂が広がり始めた。その噂を耳にしたとある者たちが夜もふけたとある屋敷のプライベートな応接室に集まっている。


 三人掛けの左右のソファーに二人ずつ、そして正面の上座に一人座り、……その正面に一人だけ三十歳に満たないと思われる青年が震えて立っている。


「それで? (きょう)の報告書では王子は愚かで勉学もままならず従者となる予定の者と戯れてばかりだという話であったが?」


 長ソファーに座る一人が低い声を出した。


「そ、それは本当でございます」


「どのようにして確かめたのだ?」


 別の者が問う。


「俺、じゃなくて、私が用意した三歳児用の教材を七歳であったにも関わらず全く読むこともできず、集中力もなくすぐに飽きてしまい、質問内容も幼稚で、その従者との遊戯ばかりを求めてきておりました」


「それはこの報告書にある。で? 王妃は?」


「勉強部屋には一切近寄らず、私からご報告に行きましたが、興味はないというご対応で、何度目かにもう報告はいらないと言われました」


「それも報告書にあるな」


「わ! 私はっ! 国王陛下の指示に従って家庭教師の手を抜きましたっ! 陛下も喜んでくださって給金の値上げまでしてくださいましたっ!」


 (きょう)と呼ばれた侯爵子息は震えながら訴えた。


「陛下はこのようなものは読まぬ」


 真ん中のソファーで仰け反るように座る男が見下した目を侯爵子息に向けことさら重い声で語る。


「え?」


「そなたの給金などにも興味は示さぬ」

  

「ですが! 実際に受け取った給金は倍増していて!」


「それは我々が貴方の仕事に宛てた謝礼ですよ」


 脇の男が説明を足す。

  

「そ、そんな……。俺は陛下のために……」


「なぜそれが陛下のためになると思うのです?」


「陛下はお立場を王子殿下に取られることを恐れているのではないのですか?」


 侯爵子息は震える声を絞り出す。


「はあ! はっはっはっ!」


 中央の男が呆れさを隠さずに大笑いすると、周りの男達もニヤニヤと笑った。その様子に侯爵子息は所在無くきょろきょろとする。


「陛下は王位を譲られても住まう場が離宮になるだけで、生活は今とほぼ変わることはない。いや、公務に一切関わらなくなるから今よりさらに楽になるな。だから、早めに王位を譲りたいと考えていらっしゃるかもしれぬ」


 中央の男の冗談とも取れるような発言に周りも(あざけ)るように笑った。


「まあ、アカデミーの入学試験を受けることは誰にでもできる。まだ合格したわけではないのだ。君のことは王子の試験結果を見てから決めることにしよう。下がりたまえ」


 中央の男が(あご)で扉の前に立つ護衛たちに指示を出すと侯爵子息は引きずられてその部屋を出ていった。


「王族として社交だけはできていてもらわねばならぬ。王子宮の者たちもそれはわかったうえでの教育だろう」


 ソファの者たちは納得だと肩を下ろした。

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